アリストテレスの有名な著書に「弁論術」というものがあります。ご存知の方も多いと思いますが、この弁論術でアリストテレスは、人を説得して動かすポイント「ロゴス・パトス・エトス」の3つの側面から論じています。
私達上司がメンバーを動かす際にも、この「ロゴス・パトス・エトス」の側面は非常に重要です。

 ロゴス(logos)とは、論理・理屈のことです。例えば、年度初めに会社の方針・部門の方針を、順序立てて分かりやすく伝える。これは正にロゴスです。自分自身が、会社や部門の方針を十分に理解していないと、メンバーが理解できるような説明にはなりません。もちろん、「コスト削減」「人員削減」などといった、会社の厳しい状況を伝える必要がある際なども、ロゴスがないと納得感はありません。

 パトス(pathos)とは情熱・感情のことです。「何としても、今期は目標を達成しよう」「新たな市場に打って出よう」と、自信の気持ちを熱く語ることも重要です。情熱的に話すと、相手にもその情熱が伝染します。皆さんも、情熱的に語る人の話を聞いて、心が熱くなった経験があるはずです。例え良い内容でも、淡々と醒めた口調で語られると、なかなか心は動きません

 エトス(ethos)とは信頼・人柄のことです。いくら分かりやすい説明を情熱的に行ったとしても、その人が信頼される人柄でなくては話の内容に納得しないはずです。「何を言ったかではなく、誰が言ったかが重要」などという人もいます。
 私達上司にとって、まずもっとも重要なのがこのエトスではないでしょうか。いざ、重要なことを伝え、動いてもらう必要がある際に、上司として信頼され、人柄が認められていれば「よし、〇〇さんのために一肌脱ごう!」とすぐに動いてくれるはずです。

 良く、このようなことを研修などでお話しすると、「でも、私はプレイヤーとしても大した実績を残していませんし、信頼されていないと思います・・・」などという人がいます。上司としての信頼は、プレイヤーとして実績を残していたかどうか、頭が切れるかどうかという問題ではないと思います。メンバーから見たら、「日頃から気にかけてくれている」「自分達のことをいつも見てくれている」という点、これが信頼につながる重要なポイントです。

 自分が忙しいさなかでも、メンバーに対して「今日の提案はうまくいった?」「昨日は遅くまでおつかれ様」「そういえば、娘さん今年小学生だったよね。おめでとう」等、日々自分から働き掛け、話しかけているかどうか。些細なことのようですが、ここが信頼のスタートでしょう。
 ほとんど自分から話しかけてこなかったり、仕事で成果を出した際に「おめでとう」の一言もない人から、「会社の方針で決まったから、頼む」と急に話をされて、従う気になりますでしょうか?

 日々のちょっとした働き掛けの積み重ね。これがエトスであり、エトスがあってこそ、ロゴス・パトスの効果が高まって、メンバーを動かせるのです。
 「頭が良くて熱い」だけでは、メンバーは動きません。
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