味の素は1909年創業の老舗企業であり、日本人の食文化を象徴する企業でもある。食が豊かになった今日では味の素を食卓に置く家庭は減ったが、焼き魚と漬け物が主菜だった戦後の食卓の中央には醤油と味の素が常置されていた。そして物心がついた幼児が最初に覚える言葉のひとつが「あじのもと」だった。
その味の素が元気である。2014年3月期に最高益を見込む日本企業は200社以上あり、味の素もそのひとつ。同社は世界26の国・地域に従業員約2万8000人を持つグローバル企業だが、国内市場でも「Cook Do」などが好調である。
伝統と元気を併せ持つ味の素が重視してきたのが、「安心して働ける職場環境の実現」。そして2000年代に入って強化してきたのがメンタルヘルスへの取り組みだ。メンタルヘルス問題はともすれば建前と実態が乖離しやすく、うつなどメンタル疾患に陥った社員への対応が難しい。そこで味の素のメンタルヘルスへの取り組みを紹介したい。東京・京橋の味の素本社で、横尾亜子さんにお話を伺った。

2007年に制度化された「メンタルヘルス管理の方針」

――味の素のメンタルヘルス対策の詳細を資料で拝見すると、とてもしっかりと制度化されています。どのようにしてこのような制度が出来上がったのでしょうか?

 以前から味の素は社員の健康管理に取り組んできた。そして2000年頃に産業医がカウンセリング的手法を用いた面談を取り入れ、2003年に健康管理規定としてルールや制度を整えた。このときの規程に「治療出社制度」も明文化されている。この「治療出社制度」については後ほど説明する。

 この健康管理規程を運用して実績を積み上げ、2007年に「メンタルヘルス管理の方針」を制度化した。

健康重視が味の素のど真ん中の考え方

――さっそく「メンタルヘルス管理の方針」をお聞きしたいと思います。どのようなスタンスでメンタルヘルスの予防、および治療に当たっておられるのでしょうか?

 4つの方針がある。1つ目は「早期発見・早期治療・早期休業」だ。メンタル疾患は治るという前提に立ち、早めに休んで、しっかり治す。

 2つ目は「再発防止を最重点においた復帰プログラム」だ。うつ症状を緩和し、痛んだ心を治すだけでなく、休業中に痛みにくい心をつくる。

 3つ目は「休業中にしっかりイメージトレーニング」だ。自己の働く姿をイメージし、違う視点で自分の価値観を点検してもらう。

 4つ目は「仕事ができる状態まで回復してから職場復帰」だ。ある程度の仕事がこなせる状態まで回復していることを確認したうえで職場復帰させる。

 この4方針の背景にあるのが健康管理の基本的な考え方だ。「健康は最も重要な、個人の、そして会社の資源」というのが味の素のど真ん中の考え方であり、「安全・健康が第一 業務の成果は第二」と明文化されている。

 ただ健康を守るのは自分自身であり、会社はそのセルフケアを可能なかぎり支援する。メンタルヘルスでもその考え方を貫いている。

異動はさせず、現職場への復帰が原則

この記事にリアクションをお願いします!