■主旨と内容

アメリカのFacebook,inc.の提供するSNSサービスは2010年7月時点で全世界のユーザー数5億人(RBB TODAY),2011年6月には7億5,000万人を超えたという報道(TechCrunch)があります。日本国内の利用者数は2010年12月で約308万人。2011年9月に1,000万人を超えたといわれます。
 トヨタ自動車が日本を含む世界50ヵ国にまたがる販売部門とマーケティング部門の社員を対象に社内向け交流サイトを立ち上げるという記事も日経新聞に出ていました。企業内SNSとして2016年までに10万人が利用する世界有数の規模にするといいます。
SNSは利用者がインターネット上で情報を気軽に交換できるツールであり,世界中で一気に普及しています。SNSは一般には個人的に利用されるケースが圧倒的に多いのが現状です。ここにきて便利さが目立つ半面,大きなリスクも内在していることに注意を向ける必要があります。

 例えば企業に勤める若手社員のフェイスブック活用者のうち約半数の人たちは自分が勤務する会社名を公開しているとされます。会社名を公開してプライベートの情報交換をしているということは,当然ながら機密情報の漏えいや個人情報流出の問題が内在しています。通常,企業は情報漏えい対策の取り組みを行っているはずですが,SNSに関してはまだまだ手薄ではないでしょうか。今後さらに利用者が増えてくると極めて危険な状況が想定できます。個々の社員が会社を離れて使用しているだけに,発言の自由と機密情報保護を巡って混乱が起こりえます。

 そこで企業としては事故が起こる前にルールを示し,組織人としてのソーシャルメディアの活用の留意点を徹底しておく必要があります。こうした規定に基づいて継続的に研修を実施すればさらに効果的です。

■検討内容

まず,規定の目的を明記します。SNSの利便性・有効性を尊重しつつ,適切な活用を推進するうえで,個人が安全に利用するためのリスクマネジメントを狙いとする,といったことを定義します。

□社内規則の遵守
 SNSの利用はそもそも個人の自由ですが,特定組織の一員である限り,その組織の行動基準やルールに準拠することが求められます。準拠すべき対象についてはすべて明記します。

□会社名公表の場合
 社名を明らかにする場合,投稿する意見や内容は個人のものであって,組織を代表するものではないことを明示してもらうようにします。

□思想・信条の自由
 SNS上のやりとりでも,人種・思想・信条等の自由を尊重するよう明記します。

□第三者の権利保護
 著作権や肖像権など第三者が保有する権利の侵害をしないよう明記します。

□訂正事項など
 言動はすべて公開される可能性があり,一度発信した情報は消去が困難です。自己責任をしっかり認識させるとともに,発信内容に誤りがあった場合は速やかに訂正し,それを公表することが大切です。一人ひとりの言動が組織の信用や名声および評価に大きな影響を与える立場であることを強調し,理解してもらいます。

□傾聴の姿勢
 ソーシャルメディアにおいては他のユーザーの声をよく聴くことも重要です。SNSにおける情報発信や対応に責任を持ち,誤解を与えないよう,相手の話をしっかり理解できるまで耳を傾ける姿勢を取るよう促します。

□議論のあり方
 SNSは良い意味でも悪い意味でも議論が起こりやすい場です。議論が起こった場合には,「感情的にならない」「建設的に対応する」「相手の批判はしない」といったガイドラインを規定に盛り込みます。

□守秘義務への配慮
 自社の機密情報と同様にビジネスパートナーなど他社の機密情報の扱いにも十分な配慮が必要です。パートナー先の言動を無断で公開することはルール違反であること,また個人や企業名が特定できてしまうような表現や内容も避けるよう注意を促します。

□正確性
 人に聞いたことや噂,憶測に頼ることなく,事実に基づく正確な情報の発信が不可欠であることを伝えます。

□迅速対応
 相手・関係者への返答(フィードバック)が必要なときは,迅速かつ真摯に対応するよう促します。

□相手先利益への配慮
 特定の企業や商品を評価する場合は,その評価がその相手先の不利益にならないよう配慮することを明記します。

□訴訟について
 万一,ビジネス上のパートナーに不利益が生じた場合には,本人や会社は場合によっては,名誉棄損や守秘義務違反などで法的紛争の当事者になりうることを伝え,その際には相応のリスクを負う立場になることを自覚してもらいます。
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 最後に留意すべきことは,この規定が組織の活性化や自由な発言の締め付けになってはいけないということです。あくまでもSNSを有効活用するうえでのリスクを最小化するための最低限のガイドラインであることを確認しておきます。そのためには,規定の語尾も「○○しない」という否定表現を少なくし,「○○にする」といった肯定表現を増やす工夫が望まれるでしょう。

SNS利用規定

第1 条(定義)この規定はソーシャルメディアの個人利用においての一定のガイドラインについて定めるものである。

第2 条(目的)ソーシャルメディアは有効に活用することによって,社員および関係者が有益な知見やアイデアを積極的に共有し組織の活性化につなげることができる。ただしソーシャルメディアを運用するにあたり一定のソーシャルメディアリテラシーが前提となるため,ここに守るべき当社としての一定の利用ルールを定めることとする。

第3 条(対象者)当社役員および当社に勤務する社員,その他契約社員,臨時社員等を対象者とする。

第4 条(法令および社内規則等)ソーシャルメディアの利用者は,著作権や財務情報公開などに関する法令を遵守する。
2 「企業行動憲章」ならびに「行動規範」,契約書の内容や関連する就業規則の内容,個人情報保護方針を遵守し,良識ある社会人として健全な社会常識から逸脱した言動がないように自らを律し,フェアなコミュニケーションを行う。

第5 条(思想・信条の自由)人種・思想・信条等に関する差別や誹謗中傷は行わないようにする。

第6 条(第三者の権利)著作権・肖像権・プライバシー・個人情報など,第三者が保有する権利を尊重し,侵害しないようにする。

第7 条(機密情報の保護)公表前の商品情報・サービス情報,買収や合併に関する情報,その他業務上知りえた当社に関する情報および取引先に関する情報に言及しないようにする。

第8 条(守秘義務)ソーシャルメディアでのやり取りの中で知りえた他社や相手先の言動を,相手先の許可なく公開しないようにする。また相手先を特定できるような表現や内容を使用しないようにする。

第9 条(会社名公表の際の留意点)ソーシャルメディア上で所属会社名を公表する場合は投稿する意見や内容が個人のものであって組織を代表するものでないことを明記する。
2 当社での仕事や当社に関する話題をコメントに掲載する際には,以下の免責文を入れることとする。「このサイトの記載内容は私自身の見解であり,当社の立場や意見を代表するものではありません」

第10条(参加の心構え)ソーシャルメディア利用においては情報発信や対応において責任を持ち,誤解を与えないようにするために,まず他の参加者の声を傾聴し,不要な議論や争いは起こさないようにする。
2 議論が起こった際には感情的にならず,批判や攻撃を行うことなく建設的に対応する
3 参加者の知識や経験を広く共有し,多くのコミュニティの成長に貢献する。

第11条(内容の訂正)一度公開した情報は完全に削除できないと認識し,慎重に対応する。発信した情報に誤りが判明した場合は,速やかにその事実を公表する。

第12条(正確性や迅速性)伝聞や推測に頼らず正確な情報を発信し,誤解を招くような不正確な表現を避け,正確な表現を行う。
2 相手先の発言などへフィードバックを行う場合には迅速かつ真摯に行う。

第13条(相手先への配慮)特定企業の商品やサービスを評価する場合はその評価が相手先に不利益にならないように留意する。

第14条(商標等)許可なく当社のロゴや商標を使用することは禁止する。

第15条(訴訟等)ソーシャルメディア利用によって会社や相手先に不利益を与え,名誉棄損や守秘義務違反等の法的紛争に発展した場合は,相応の損害賠償や法的処分を受ける可能性があることを発信者は予定すること。
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