最近改めて、「EQ」(Emotional Quotient:感情指数)に注目が集まっています。これは、IQ(知能指数)の対比となる言葉で、「EI」(Emotional intelligence:感情的知性)を特定の指標で測ったものです。
第11回:経営幹部の「EQ(感情知性)」を高め、“個人の特性”に合った最適なマネジメントを
最近改めて、「EQ」(Emotional Quotient:感情指数)に注目が集まっています。これは、IQ(知能指数)の対比となる言葉で、「EI」(Emotional intelligence:感情的知性)を特定の指標で測ったものです。読者の経営者の皆さんの中には、『ハーバード・ビジネス・レビュー』で発刊されている関連書籍シリーズ『ハーバード・ビジネス・レビュー[EIシリーズ]』のうち、いずれかをお読みになられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、2016年発刊のロングセラー『成功者がしている100の習慣』(ナイジェル・カンバーランド 著)では、“100の習慣”のうちの4番目に「心の知能指数(EQ)を高く保っている」が挙げられています。


いわゆる“感情知性”を指す「EQ」は、米国の心理学者であるダニエル・ゴールマン氏が1995年に著書で提唱したことをきっかけとして広まりました。日本でも、同書の翻訳版が1996年に出版され、最初の“EQブーム”が起きました。

EQは、「心内知性」=“自分を知る力”、「状況判断知性」=“自分を相手に伝える力”、「対人関係知性」=“相手を知る力”の3つからなります。

そもそも、優れた経営者はIQとEQを兼ね備えています。田中角栄の名言に「人は理では動かず情で動く」というものがありますが、私の場合は、EQを日本に導入した高山直氏(株式会社EQ取締役会長)から教えていただいた、「人は『理』(左脳、IQ)で理解し『情』(右脳、EQ)で動く」とのフレーズをいつもお話ししています。

成果をあげるリーダーとは、“IQだけでなくEQも使える人”です。IQは「できる人」(知識やスキルの優れた人)、EQは「できた人」(人間性の優れた人)。当社でよく使うフレーズに「できる×できた人」というものがありますが、経営幹部には“専門性の高さ”と同時に(あるいはそれ以上に)、“人としての成熟”や“包容力”なども欠かせません。

ここからは、「EQを使ってマネジメントするとはどういうことか」について、その一部をご紹介してみます。

「社会的自己意識」、「抑うつ性」、「特性不安」を判断してマネジメントする

できるリーダーは“ノセ上手”であり、部下のタイプを見て言い方を変えています。同じことを言っても、響く人と響かない人がいるためです。例えば、部下から明日のクライアントへの提案について、こんな相談があったとします。

「明日のプレゼン、私は上手くやれるでしょうか?」

彼の準備は上司のあなたから見てもなかなかよくできており、問題ないと思えたため、以下のように答えました。

「大丈夫だよ。私も同席することになっているから自信を持って臨みなさい。」

ここで、あなたはてっきり、「そうですね! 頑張ります。ご支援よろしくお願いします!」といったポジティブな反応を期待してしまうでしょう。しかし実際の部下の反応は、「はい……わかりました」と、なにやら逆に不安げな様子です。一体、何があったというのでしょうか。

上記のように、「大丈夫」、「頑張れよ」と言われたときに、“勇気づけ”として捉える部下もいれば、単に“プレッシャー”と捉える部下もいます。誰に対しても同じように声をかけるのが平等・公平と思っている人も多いのではないかと思いますが、実は同じ言い方でも、相手の捉え方は人によって変わってしまうのです。

このような場合、まずは当該の部下について、以下の事柄に着目してみましょう。

●周囲からの目をどう捉えているのか
●過去のことをどう見ているのか
●未来をどう見ているのか


上記は、“心の知能指数”といわれる「EQ」の24要素のうち、以下の3つに関連するものです。

(1)社会的自己意識
「社会的自己意識」とは、「自分が周囲からどう見られているか」という意識を表します。この意識が高い人は、「周りからどう見られているか」を非常に気にするため、「あなたのこういう行動がお客様から評価されているよ」という言葉が励みになります。一方で低い人には、「あの人はあなたのことをこう思っているよ」と伝えても、さほど響きません。こういった人には、周囲の目を気にしない分、“腰の軽さ”や“大胆さ”があります。

(2)抑うつ性
「抑うつ性」とは、過去に対して意識の向く度合いを表します。これが高い人の場合、過去を引きずらない傾向があります。しかし、「過去を引きずらない」という長所がある反面、「過去から学べない」という側面もあります。このような部下には、「あのときのこの行動が良くなかったね」などと気づかせてあげることが大事です。一方で、抑うつ性が低い人にとっては、そのようなアドバイスは不安の材料となってしまうこともあります。

(3)特性不安
「特性不安」は、未来についてどう捉えるかを表します。これが高い人は、「なるようになるさ」との精神から、未来が曖昧でも気にしないタイプです。一方で低い人は、未来が明確に見えなければ心配になります。そのような人には、計画をきちんと立てさせて、「こうしたら上手くいくよね」と想定させてあげることが大事です。


起業家は、総じて「特性不安」が高い人が多いです。ただし、その起業家が経営する会社には、「カリスマ経営者の下で方針・指示に忠実に従って仕事をする」といった特性の人が多く集まる傾向があり、特性不安が低い従業員が少なくありません。この場合に危険なのは、経営者の方針がいきなり変わったり、ある時から方針が曖昧になってしまったりした際に、従業員たちが「自分たちは今後どうなってしまうんだろう」と集団不安に駆られることです。経営トップは、明確な方針を常に出し続ける必要がありますね。

一方で「特性不安」が高い部下に対しては、基本的には、さほど方針の説明に慎重になる必要はありません。あまり細かいことを言わずとも、自ら進んで行動していきます。この場合のリスクとしては、特性不安が高い人には“うかつな人”も多いため、逐一状況を確認してあげたほうがよいでしょう。

本項の冒頭で例に挙げた「プレゼンに不安を抱える部下」は、その反応から見ると、おそらく特性不安が低いタイプだったのでしょう。そのため、上司としては、「このような準備がしっかりできていて、クライアントはこのように評価してくれると思うから、予定通りの資料でしっかり伝えることに徹しよう。私もプレゼン中にフォローするから、大丈夫だ」というように、具体的に「大丈夫である論拠」を伝えてあげることが必要です。

「セルフエフィカシー」、「アサーション」、「感情的被影響性」の注意点

次に、以下の事柄について着目してみましょう。

●気力に満ちあふれているか否か
●自己主張をしっかりできるか否か
●合理的か、情緒的か


上記は、「EQ」の24要素のうち、以下の3つに関連するものです。

(4)セルフエフィカシー
「セルフエフィカシー」とは、自ら気力を創出する力です。これが高い人は自信があり、「なんでもできる」と思っています。反対に低い人は、いまひとつ自分に自信を持てておらず、消極的になりがちです。そのような、セルフエフィカシーが低い人に、「頑張れ」や「大丈夫だ」と言うのは危険です。本人が自信を持てていないために、その言葉がプレッシャーになり、ストレスを与えてしまいます。

前項で例に挙げた部下は、セルフエフィカシーも低い可能性が高いです。特性不安の対処では、未来の計画を見せてあげることが大事でしたが、セルフエフィカシーが低い人に対しての具体的なプロセスを提示する意義は、石橋を叩かせて、自分なりに「いけるぞ」と思わせてあげることにあります。

(5)アサーション(自主独立性)
「アサーション」とは、自分を積極的に主張することができる力です。「課題動機型」(仕事の課題・テーマそのものが行動の原理となる)の人は、これが高い傾向があります。ちなみに、「課題機動型」と対照的なのが、「関係機動型」(人間関係が行動の原理となる)です。「課題機動型」が高い人にとっては、ボスがあれやこれやと言うことが鬱陶しく感じられることがあります。そのため、「信頼して任せたぞ」と、まさしく委任型のマネジメントが適しているでしょう。アサーション力は高いため、仕事はしっかりやります。とにかく細かいことを言わずに、良い意味で“放っておく”ことが効果的でしょう。また、遂行能力を認めてもらうことが大事なタイプでもあるため、「うまく進んでいるね!」などと褒めてあげることも得策です。

(6)感情的被影響性
「感情的非影響性」とは、簡単にいうと「相手の感情に影響を受けやすいかどうか」ということです。一般的に、経営者の場合は低く、女性には高い人が多い傾向があります。これが高い人は、例えば、道端で女の子が泣いているのを見てもらい泣きしたり、怒っている人を見て心が揺れてしまったりします。つまり、相手の感情に同調しやすいのです。一方、感情的被影響性が低い人は、泣いている女の子を見ると、「なぜ泣いているんだろう? どうしたら助けてあげられるだろう?」といった考え方をします。感情的に同調するというよりも、状況を客観的に判断するというスタンスです。

感情的被影響性の高い人を情緒的に動機づけると、少し危険です。ムードに流されやすいため、「よしいくぞ!」となったときに高揚するのは良いですが、気持ちが高ぶっているだけで行動がともなっていないようなこともありえます。また、仕事で失敗した時や、お客様からクレームをもらった時など、ストレス度が高い状況では頭が真っ白になるため、少しクールダウンさせてあげることが大事です。感情的・情緒的な情報は可能な限りなくし、仕事のプロセスや状態に焦点をあてるようなコミュニケーションを心掛けましょう。「どうした、お客様が怒っているぞ」、「大変だ、なんとかしなければ」といった、感情を揺さぶる情報はいったん置いておき、「ここの改善策をまず考えてみよう」、「もう一度この情報を整理し直して、優先順位を確認してみてくれ」など、具体的なプロセス・作業にフォーカスさせてあげることが大事です。一方で良い状態の時には、すぐやる気に火がつくため、感情をたきつけて、「今日もいこうぜ!」といったポジティブなノリが効果的になります。ポジティブな状況ではアクセルとして使い、ネガティブな場面では刺激を回避する。こうした使い分け方もありますので、参考にしてみてください。

「EQ」は開発できる“可変的なもの”である

ここまで、「部下の感情タイプ別のマネジメント方法」についてご紹介いたしました。

EQのサーベイ指標からの状況把握と対応策については、普段から部下の行動や反応を見ていれば、どのタイプなのか推測できるでしょう。部下の特性に気づいたら、それに合うようなコミュニケーションを取るのが、優秀なリーダーの上手いやり方です。優れた経営者や、社内外の人たちを惹きつける力を持つカリスマ経営者たちは、こうしたEQ活用を意識か無意識かに関わらず行なっています。

大事なことは、「EQは開発できる可変的なものである」ということです。活躍する社長には、「私的自己意識が高い」、「社会的自己意識が低い」、「抑うつ性、特性不安ともに非常に低い」、「気力創出力系因子が全般的に非常に高い」、「対人関係知性、状況判断知性ともに非常に高い」、「情緒的感受性が非常に低い」といった傾向があります。

御社の経営強化策として、ぜひ“EQコミュニケーション”を駆使できる経営幹部の育成・トレーニングに取り組んでみて欲しいと思います。
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