先日、ある会社の若手社員の方に、「社会人として、今の私の年齢でやっておかなければいけないことがあったらアドバイスをお願いします」と言われました。それに対して私は、「もしいくつかやりたいことがあったら、40歳や60歳でもできるものは後回しにして、20代でしかできないことを優先してやったほうがいいですよ」とお伝えしました。
組織のスピードを落とさないために、経営者やマネジメント層がすべきこととは

経営者や上司に遠慮する若手社員

組織のスピードを落とさないために、経営者やマネジメント層がすべきこととは
どれだけお金を持っていても、どれだけ頭が良くても、人は、ある時期を境に日々衰えていきます。気持ちは若いと言っていても、栄養ドリンクやプロテインを飲んでいたとしても、自然の流れには逆らえないのです。

若手社員と年長者の経営者が全速力で階段を駆け上がるような競争を本気でしたら、中には例外もあるかもしれませんが、まず新入社員が勝つでしょう。「スピード」という点においては、経営者は若い社員よりも遅く、去年の自分よりも今年の自分のほうが確実に遅くなっていくことは変えられない事実です。

しかし優秀な社員ほど、経営者や上司が自らの衰えを自覚してしまわないように、気を遣った振る舞いをしてしまいます。階段を駆け上がる競争をしても、本当は二段抜かしで階段を余裕で駆け上がれるのに、一段ずつゆっくり駆け上がり、肩で息をきらす演技をして「社長、速いですね」、「先輩には叶わないですよ」と、若手社員は競争に負けます。本当は抜かすことはできても日本の社会では、上役を追い抜かすことは失礼にあたるのでできないのです。

それはそれで組織として円満に回していくという点では必要なコミュニケーションスキルかもしれません。ただここで一つ気になることは、「若手社員や部下が、上司や社長のスピードの衰えに合わせて、本気を出せなくても組織として良いのでしょうか」という点です。

上役が「なぜ部下は本気を出さないのだろう」と思っていたら、実は本気を出すと上司を追い越してしまうから遠慮していた、ということを実際によく見てきました。全員が本気を出せる組織とそうでない組織は、売上も利益も当然変わってくるのは想像に難くありません。人事的な観点のみで社内コミュニケーションをとらえると、何も問題がないように思えることも、計数的視点も取り入れた経営的な観点でみると、この状況はベストではないことは確かです。

ベストな組織というのは、常に全員がそれぞれの力を100%誰にも遠慮することなく発揮できる組織ではないでしょうか。そのためには、上席者が自分より下の層の人達に追いつかれないようなスピードで仕事をしていかないと、部下はいきいき、伸び伸びと働くことはできないのです。そうでないと、後ろから走ってきた後輩たちが上司を前に立ち往生してしまうのです。

引き継げる仕事は、後進に任せ自分を身軽にする

年齢を重ねれば体力は衰えていく方向に進んでいく中で、後ろからせっつかれないようにするためにはどうすれば良いでしょうか。それは、年齢を重ねるほどに自分自身を「身軽にする」ということです。

経営者や上席者の方達の中で、能力のある人であればあるほど、部下に任せればもう良いような仕事も「自分でやってしまったほうが早いから」とやり続けてしまったり、部下に引き継いだ仕事も「やっぱりちょっと貸して」と手や口を出したりしてしまう、ということをやりがちです。

しかしそれでは自分の手荷物が減らず、自分ではトップスピードのつもりでも、客観的に見れば年齢に比例してスピードは徐々に落ちていきます。反対に部下は仕事を取り上げられて負荷がほとんどなくなりますので、ますます身軽になり上司にスピードが追い付いてしまいます。その結果、さらに「渋滞」が起こりやすくなります。上司は「やはり自分がいないと駄目だなあ」と言いながら部下がやるべき仕事をし、部下は「まだ終わらないのかな」と上司の仕事が終わるのを待ちながら暇を持て余してしまいます。このような組織では効率の良い売上、利益の獲得は難しくなります。

こうならないためには、管理職やトップに近いポジションになればなるほど、自分で自分のスピードの鈍化を判断、自覚をし、引き継げる仕事はどんどん後進に引き継いで身軽にしていくことです。そうすれば、年齢によるスピードの衰えも、荷物を軽くすることで相殺され、これまでのスピードを維持できます。

特に組織のトップというのは、社内外を問わず他者から一番気を遣われる立場です。物理的に一番自分の衰えに気づけないポジションです。だからこそ、ご自身で直感的に衰えを感じる部分があれば、周囲に「まだまだ社長には叶いませんよ」と言われても、それを真に受けず、ご自身の直感を「正」として、後進の早急な選任や育成など、素早い判断、決断をされるのがベストです。
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