ストレスチェックの義務化や、近年のうつ病といった精神障害の労災請求の増加によって、企業における「メンタルヘルス」対策の重要性が増してきている。また、テレワークの普及によって新たなストレスに晒される従業員も増えており、メンタルヘルスへの注目がこれまで以上に集まっている。「メンタルヘルス」とは、心や精神面での健康状態のことを指し、職場や従業員の生産性、経営リスクマネジメントと密接につながっている。本記事では、メンタルヘルスの定義や不調のサイン、対策による職場への効果などを紹介する。

「メンタルヘルス」とは?

「メンタルヘルス」とは、精神的、心理的健康状態を意味する。加えて精神的、心理的な健康の回復、維持や増進と、それらにまつわる状況も指すことが多い。メンタルヘルスを損なうと、物事に集中できなくなる、決断力が鈍るなど、精神的な症状が表れて業務に支障をきたす。また、症状を放置しておくとうつ病などの疾病を発症し、最悪の場合は自殺してしまう。

厚生労働省は精神障害の労災認定件数が3年連続で過去最高を更新するなど(2010年度:308件、2011年度:325件、2012年度:475件)、メンタルヘルスを損なう働く人が増加していることから、労働安全衛生法を改正。2015年12月1日から従業員50名以上の職場で年に1度、定期的にストレスチェックを実施することを義務化した。

ストレスチェックの結果は事業者が確認するだけでなく従業員にも返し、必要な場合は本人の希望に応じて作業の転換、労働時間の短縮など就業上適切な措置を講じなければならない。このストレスチェックの義務化によって、職場で働く人の「メンタルヘルス」に注目が集まるようになった。


「メンタルヘルス」の不調を示すサインは、行動面や体調面に表れる

人は「メンタルヘルス」に不調をきたすと、行動に変化が現れ、体調も変化する。不調の初期のうちに、これらの兆候をつかむことで、決定的なメンタルヘルス不全に陥る前に従業員の健康を守ることができ、職場の生産性も維持できる。管理職としてチームを率いている人や、人事部門で働いている人は、是非ともこれらの兆候を覚えておきたい。

・行動に現れるサイン
行動に表れるサインとしては「出退勤の変化」、「パフォーマンスの変化」、「行動の変化」の3種類に大きく分けられる。

(1)「出退勤の変化」
出退勤の変化の例としては、遅刻や早退、有給休暇の取得の増加、無断欠勤などが挙げられる。また、勤務中も明確でない理由で離席したり休憩したりすることが増えているようなら注意が必要になる。そして業務負荷に変化がないのに、退社時間が遅くなる傾向が見えたら、メンタルヘルス不全を起こしている可能性が大きいと言える。

(2)「パフォーマンスの変化」
メンタルヘルス不全を起こしかけ、あるいは起こした人は、物事に集中できなくなる、決断力が鈍るなど、精神的な症状が表れて業務に支障をきたす。その結果、業務処理能力が全体的に低下する。業務の進捗が滞る、メールの返信や書類提出が遅れる、アウトプットの質が落ちるなどの兆候が現れたら、メンタルヘルス不全を疑った方が良いだろう。

また、メンタルヘルスが悪化すると集中力が落ちる。すると、会議や打ち合わせに出席しても以前のように発言しなくなるといった変化が確認できる。症状がさらに進むと、会議を欠席し始める。

メンタルヘルスを損ないうつ病を発症する人には、元々真面目で責任感が強い人が多い。自身の精神的な変調を感じても、周囲に迷惑をかけてはいけない、あるいは、精神的疾患にかかったと会社に知られてしまうと、会社に居所がなくなると考える人も多い。

こうなると、その人が1人では処理できないほどの多量の仕事を抱え込んでしまい、誰にも相談できずに長時間の残業をしながら仕事を片付けるようになる。また、業務上必要な上司への報告や連絡、相談をしなくなるという点もひとつのサインと言える。さらに、自分でも仕事をなかなか進められないと感じながら、無理矢理仕事を進めるため、業務上のミスや事故が起こることも多い。

(3)「行動の変化」
かつては出勤時に元気よくあいさつしていた従業員が、まったくあいさつをしなくなったら要注意だ。加えて、服装や髪型の手入れが行き届かず、だらしなくなっていたら、自身の身だしなみにも気が回らないほどメンタル上の不調で頭がいっぱいになっている可能性が高い。

また、かつては社内の誰とでも仲良くしていた従業員が、対人関係のトラブルを引き起こすのもサインの1つと言える。さらに、業務中の独り言がやけに増えたり、業務中に突然泣き出したりといった症状が現れたら、すぐに対処すべきだ。

・体調変化という形で現れるサイン
メンタルヘルスの変調が身体に及ぼすことで現れる症状としては、肩こり、背中や腰の痛み、だるい、食欲不振など。また、頭がボーっとする、微熱、吐き気、頭痛、など風邪のような症状も起こる。耳鳴り、不眠、動悸といった症状は、メンタルヘルス不全が原因でなくても、深刻な病気が原因となっている可能性があるので、すぐに従業員を受診させたほうが良いだろう。

しかし、「この症状があればメンタルヘルス不全」と確定できるものはない。ほとんどの場合、メンタルヘルスの変調をきたすと、上記の症状が複数、しかも同時に現れる。多くの症状を訴えている、あるいは長期間にわたって症状を確認できるような場合は、メンタルヘルス不全を強く疑うべきだ。

そして、上記の症状のうち1つだけ、あるいは数個を訴える従業員がいるときは、「気のせいだ」、「疲れているのだろう」と簡単に片付けることなく、前述の「行動に表れるサイン」を同時に発していないかを確認しよう。同時に発していたなら、医師を受診させた方が良い。

「メンタルヘルス」対策による職場への3つの効果とは?

職場で「メンタルヘルス」対策を講じることで、従業員だけでなく職場全体にも効果が期待できる。大きく分けて3つ紹介したい。

(1)職場の生産性の低下を防止できる
1つ目は、職場の生産性低下を予防できるという効果だ。メンバーの1人がメンタルヘルス不全を起こし、業務を以前とは同じペースで処理できなくなると、チーム全体の生産性が低下する。しかし、この時点で問題はまだまだ小さい。

メンタルヘルス不全の兆候を示していたメンバーが本格的にメンタルヘルスを悪化させると、出勤することすらできなくなってしまう可能性がある。メンバーが1人欠けてしまうことになるため、残ったメンバーに多大な負荷がかかることになってしまう。

ほかの部署からの異動や中途採用などで欠員を補充しても、新たに加わったメンバーが業務に慣れて、ほかのメンバーと同じように業務を処理できるようになるには時間がかかる。また、従業員が職場に耐えられなくなり、退職という道を選んでしまうこともある。

(2)従業員の生産性や活力が向上する
従業員全員がメンタルヘルスに対する理解を深め、メンタルヘルス悪化につながる要因を職場から取り除いていくと、生産性と職場の活力を上げることができる。管理職は部下一人ひとりの仕事を見守り、チームの一員として欠かせないというメッセージを部下に発信することで、従業員の仕事に対するやる気が高まり、チームの結束が固くなり、活気あふれる職場となるわけだ。

そのために管理職は、部下一人ひとりに割り当てた仕事が適切かどうかを常にチェックし、少し進捗が遅れてしまったメンバーがいたら、疲れていないかをしっかり確認しよう。明らかに疲れている様子を確認できたら、数日休暇を取らせてもいいだろう。リフレッシュして、休暇明けに以前と同じように働いてくれれば、大きな問題に発展する前に対処できたと考えるべきだろう。

従業員は、メンタルヘルスに対する理解を深めることで、同僚の職場での様子から、メンタルヘルス不全に陥りつつあるメンバーに早めに声をかけることができる。支え合う文化がある職場では、従業員が強い帰属意識を持ち、エンゲージメントの向上にもつながるだろう。

(3)経営リスクマネジメントにつながる
業務で機械や自動車を使う必要がある職場では、特にメンタルヘルスの変調に敏感になる必要がある。メンタルヘルスの変調で集中力が落ち、注意力が散漫になった状態で、機械を操ったり、自動車を操縦したりした結果、事故を起こし、同僚や顧客、あるいは無関係な一般人を傷つけ、死亡させてしまう可能性もある。こうなってしまうと、損害賠償などの話になり、企業として大きな出費を強いられるだけでなく、事故が大きく報道されることで、企業としての社会からの信頼も失ってしまう。

また、企業の不適切な対応によって、症状を悪化させてしまうと、労災請求や民事訴訟にもつながるので、メンタルヘルス不調の従業員への意識的なケアが求められる。
「メンタルヘルス」が悪化することで、一緒に働く従業員の健康だけでなく、職場の生産性や離職率にも影響を及ぼしてしまう。対策を講じるうえで、同僚同士、またはマネジメント層だけがケアにあたっても、職場への効果は薄い。テレワークの普及によって、新たなストレスに晒される従業員が増えている今。本記事を機に、従業員全員で就労環境の改善を図れているか、職場内で確認し合ってみてはいかがだろうか。


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