人で勝つ 〜HRBP(HRビジネスパートナー)の真の役割とは〜

HRサミット2018/HRテクノロジーサミット2018講演録

企業を差別化する最も大きなファクター、それは人だ。単にビジネスパートナーの御用聞きになることではなく、人と組織で最高のパフォーマンスを出し、「人で勝つ」ことこそ、HRBPに求められる真の役割である。日本企業の多くがさまざまな組織課題を抱え、変革を迫られている中で、戦略人事の要であるHRBPがチェンジリーダーとなり、人で勝つため、何が必要となるのか、グローバル企業で経営幹部、人事責任者を歴任した八木洋介氏にお話しいただいた。

講師


  • 八木 洋介氏

    八木 洋介氏

    株式会社people first 代表取締役 / 株式会社 ICMG 取締役 / 株式会社 IWNC 代表取締役会長(元 株式会社LIXILグループ 執行役副社長)
    1955年生まれ。1980年に京都大学 経済学部 卒業、1992年にマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院MS取得。1980年に日本鋼管株式会社(現JFEスチール株式会社)入社。1996年から1998年までNational Steel Corporationに出向(CEO補佐)。1999年に GE横河メディカルシステム株式会社入社。2000年から2004年までGE Medical Systems Asia、2005年から2008年までGE Money Asia、2009年から2012年までGE Japanにて責任者として人事などを担当。2002年より日本ゼネラル・エレクトリック株式会社取締役。2012年 株式会社住生活グループ (現 株式会社LIXILグループ )執行役副社長 人事・総務担当。2017年株式会社people firstを設立して、代表取締役(現任)。2017年株式会社ICMG取締役 及び 株式会社 IWNC 代表取締役会長(現任)。経済同友会幹事 雇用・労働市場委員会副委員長。著書に「戦略人事のビジョン」。講演、雑誌などに記事多数。


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日本企業が抱える多くの組織課題の根っこは同じ

今日は、「人で勝つ」ということについて、HRBP(HRビジネスパートナー)の役割や、HRBPになるためには何を磨かなければならないかといったことを掘り下げながらお話ししたいと思います。まず、触れたいのは、今、日本の多くの企業が抱えている課題についてです。日本の企業に変革を迫る、さまざまな組織課題があると私は思います。
 例えば、「グローバル経営がうまくいかない」という点。これは私が日本の企業の方々からよく相談を受けることのひとつです。グローバル経営とはダイバーシティです。ダイバーシティがうまくいっていない日本の企業は、グローバル経営をうまくできるはずがありません。異なるバックグラウンド、異なる意見を持つ人が大勢いる中で、その違いをただ放っておいても、グローバル経営はできないのです。グローバル経営とは、いろいろある経営判断の選択肢の中から「これで行く」と1つに決めて前に進もうとするなかで、統合基盤を構築し、横串を通し、グローバルな組織がバラバラにならないようにグリップを効かせることです。それができるグローバルリーダーが少ないことが、日本企業の大きな問題だと私は思います。
 また、日本の経営、日本の人事の従来のやり方は、他国に輸出することができません。日本では会社のトップが集まる会議は、年齢層の高い男性ばかりですが、この状態を外国に持っていけば訴訟が起きます。定年退職も国によっては訴えられます。世界で通用する経営、人事ができなければ、グローバル経営はうまくいくわけがないということです。
 「イノベーションが進まない」ということもよく言われます。そういう企業は、細かい制度、ルールだらけの硬直的なカルチャーをつくっていないでしょうか。評価や給与の仕組みは、メリハリのないものになっていないでしょうか。海外では、AI分野の優秀な人材を獲得するため、新卒でも1年目から数千万円の給与を与える企業が出てきています。誰でも一律の初任給でいいのでしょうか。新しいアイデアが生まれるカルチャー、制度に変え、評価や報酬の仕組みも変えていかないと、イノベーションは進みません。
 ほかにも、「決められない、遅い」、「ダイバーシティが進まない」、「生産性・エンゲージメントが低い」など、さまざまな課題がありますが、問題の根っこは同じだと思います。ひとつは、自らイニシアチブを取って変革を行っていくリーダーが少ないこと。もうひとつは、時代遅れで硬直的な制度、構造です。職能資格制度に代表されるような、1970年代に機能していた制度のままでは勝てません。

人と組織で最高のパフォーマンスを出すために

次に、私が考える人事とはどういうものかということをお話ししたいと思います。私がこれまで長く人事に携わってきた中で、こだわり続けてきたのは、人こそが会社を差別化する最も大きなファクターだということ、「人で勝つ」ということです。どうやって人で勝つか。それは活力です。とかく人事というと制度をつくる人が多いのですが、制度で人の活力が上がるでしょうか。ルールや制度で縛るのではなく、リーダーや人事の人たちが、いかにして人の潜在力を言葉で、態度で引き出していくか。そこがいちばん大事だと思っています。このときに、100人の組織であれば、100人全員に声をかけて、少しずつ会社の目指す方向に向けると大きなパワーになります。そのことによって会社のベクトルを強く、大きくするのです。
 人事に求められる最も重要な役割は、チェンジリーダーだと私は思います。なぜなら、今は世の中が大きく変わりつつあり、変わりつつある世の中に対応していくためには、社員が変わらなければならないからです。そうであれば、社員の最も近くにいる人事こそが変わらなければなりません。人事が変革の抵抗勢力になるということはあってはいけません。人事が先頭を切って物事を変えていくというマインドセットが大事です。
 そして、最強の組織をつくること、まさにそれがHRBPの大きな役割だと思います。人と組織で最高のパフォーマンスを出す、それが「人で勝つ」ということです。では、何をすればいいのか。人と組織で最高のパフォーマンスを出すことをゴールと定めれば、自ずとわかります。最高の人を採用して、最高の人を発掘して、最高の人を育てて、最高の人に一番大切な仕事をやってもらえばいいのです。重要なことは制度で縛らないということです。人を活かし、最適組織をつくり、現場に任せる。自立したリーダーを育て、勝つ文化、やる気の風土を構築し、オペレーション・メカニズムで結果を出していく。そうやって、人で勝つのです。 
 ぜひ考えていただきたいのは、自分たちのやっていることが、本当に人と組織で最高のパフォーマンスを出すことにつながっているのかということです。そうすれば、自分たちが何をやらなければならないか、自分たちのやっていることが会社の変革の妨げになっていないかといったことにすぐ気がつくと思います。

「変革は難しい」とあきらめる人が多い理由とは

人事に求められる最も重要な役割はチェンジリーダーだと、私は申し上げました。変革ということを考えてみましょう。皆さんはダニエル・カーネマンという心理学者、行動経済学者をご存知でしょうか。彼が唱えた有名なプロスペクト・セオリーというものがあります。人間には損失回避性があり、利得より損失を強く感じる傾向があるという理論です。たまたま100万円を拾った場合と、100万円を盗まれた場合、同じ金額でも、後者の方が心理的インパクトが大きい人が多いということを彼は統計的に明らかにしています。人間とは必ずしも合理的ではないということです。つまり、企業において何かが変わるということは、基本的には既得権益を失うということです。この変化が起これば自分はこれを失ってしまう。一方ではこういうことが得られると言われても、どうだかわからない。失うことへの抵抗感の方が強いのです。したがって、多くの人は変革が嫌なのです。
 しかし、この損失回避性を持たない人も一部にはいます。その人たちがやるべきことは、変革に反対する人たちの言うことを聞くのではなく、「前を向いてやろうじゃないか」と鼓舞することです。全員一致でやろうとすると、いつまでも変革はできません。変革は、リーダーが先頭に立って自ら巻き起こし、大胆かつスピーディに、人々を啓蒙し、巻き込みながら実現させていけばいいのです。その中で、多くの人の抵抗感がなくなっていきます。
 また、私が特に申し上げたいのは、変革は完璧である必要はない、勝てばいいということです。多くの人は、変革は100点満点でやらなければならない、だから難しいと誤解しています。しかし違うのです。100点満点で全部変えようとすれば難しいですが、ビジネスの競争相手は何点取っているでしょう。10点だとすれば、こちらが11点取れば勝てるのです。完璧にやろうと思わずに、できることを一つひとつやっていく。それならできますね。一つひとつやっていくうちに加速度がついてきます。社員の力というのは思った以上にすごいものです。会社を変えることが良いことだとみんなが受け入れていくと、会社は想像以上に変わっていきます。変革は簡単です。ただし、あくまでも主役は自分だということを忘れないでください。

ODにおいてHRBPに求められる役割

最強の組織をつくること、すなわちOD(organization development:組織開発)におけるHRBPの役割とはどのようなものかを、さらに掘り下げてみましょう。ODとは何かといえば、私は、個人と組織の潜在能力を顕在化して、組織を活性化し、「ソフトな力」で組織のパフォーマンスを最大化することだと考えています。人事担当者が自ら現場に介入し、組織の問題点を掘り起こし、解決への道筋をつけることもODであると考えていいでしょう。
 そのためには、まず、HRBPは当然ながら、戦略パートナーであることが求められます。ジェネラルマネージャーの右腕となるため、事業部門に関するオペレーション全てに通じていて、組織設計、要員管理といった戦略サポートを行わなければなりません。しかし、より大切な役割はタレント・マネジメントです。先ほど申し上げたように、最高の人を採用して、リテインし、発掘し、育てて、年齢や性別に関わりなく、その人を活かすということです。
 それに加えて重要なのは、社員のエンゲージメントに関わる役割だと思います。社員は今、この会社を何とかしてやろうという気持ちになっているのか、それとも冷めているのかといったことを見て、元気の良い社員をさらに加速させるにはどうするか、冷めている社員に火を付けるためにはどうするかを考える。あるいは、上司との関係がうまくいっていない社員がいないかを見て、どうしてあげればいいかを考える。そして、そのための行動を起こすことがHRBPの役割だと思います。

「人で勝つ」ため、HRBPは何を磨くべきなのか

このような役割をHRBPとして果たすためには、変革者であると同時に啓蒙者でなければなりません。ボイス・オブ・エンプロイーを聞くことは大事ですが、変革を起こすときには、ボイス・オブ・エンプロイーをただ聞くのではなく、創りにいくこと、啓蒙者であることがもっと大事です。そのためにどうするかといえば、語り部となって、情熱を込めたストーリーを語り、人の心を動かすのです。ロジックをどれだけ話しても、社員は動いてくれません。ミッション、使命、目的が組み込まれたストーリーを語って人の心を動かすことで、社員のやる気を引き出し、困難をチャレンジに替えることができるのです。
 では、こうしたHRBPとなるために必要なコンピテンシーとはどのようなものでしょうか。大事なのは本質を追いかける姿勢であり、そのためには違和感を掘ること、常識を疑うことです。会社の中で当たり前のように行われてきた制度を疑ってみる。「それで勝てるか」、「それで活力は出るか」と自問自答してみるのです。また、人の心を動かす言葉を磨くことも大事です。
 さらに、変革は、反対の声があっても、それを押し切り、HRBPが先頭に立って進めていかなければなりません。徹底的に考えたら、あとは、今、正しいと思うことを正しくやるしかないのです。そのためには、学び続けることです。そして、学んだだけで終わらず、実践することが何より重要だということを最後に強く申し上げたいと思います。

著者プロフィール

HRサミット2018/HRテクノロジーサミット2018 講演録

2018/9/19-9/21開催

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