なぜ周りは動いてくれないのか 〜相手のタイプと状況に応じた説得の技術(後編)

人・組織にかかわる調査報告『人材開発白書』

成果をあげるために、ミドルマネジャーは何をすべきなのでしょうか。人を通じて成果をあげることがミドルの仕事です。ミドルが孤軍奮闘しても効果は望めません。しかも、働きかける相手は部下だけではありません。上司や他部門など、周囲のあらゆる人を巻き込まなければなりません。しかし、単に理路整然と説明するだけでは、相手は受け入れてはくれません。熱意だけでも相手は動かせません。周囲を動かすために、ミドルはどのような影響力を行使すべきなのか。国内のビジネスパーソン1,500人への定量調査結果をもとに説明します。

ケース(2) 横の組織を動かすために

前編はこちらから

B課長が課の目標を達成するためには、事業部内の他の職種の協力が必要だった。しかし、その協力依頼は、相手にとっては手間ばかり増えるものであり、簡単に受け入れてもらえないことは明白だった。
そこでB課長は、そのことが事業部全体にとってどれだけ意味があることなのか、どれだけ業績改善につながることなのかを客観的に説明した。事業部レベルの視点から、依頼の正当性を訴えることにしたのである。

このような方法でも効果があるだろうが、横の組織に受け入れてもらえる確率をより高める別の方法がある。相手の利害と一致しない依頼に応じてもらうために、B課長には、あと何が必要か。

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同じ会社であっても、あるいは同じ事業部であっても、組織が異なれば利害が異なります。その中でも、なんとかして依頼に応じてもらわなければならないこともあります。どうすれば、利害が異なる横の組織の協力を取り付けることができるのでしょうか。

問題意識を共にする仲間に呼びかける

分析の結果として浮かび上がったルートの1つが、図表2-1です。「喜んで受け入れたい」と思ってもらうためには、「内容の魅力・共感」と「依頼者への支援心」を感じさせることが効果的であり、その源泉は「人柄の良さ」と「日頃の献身的行動」になっています。これは、部下の主観に訴える方法(図表1-2)と全く同じです。
この分析結果を見たときに、少し不思議に思いました。相手の主観に訴えることが効果的だということは、部下に対してであれば理解できます。ところが、横の組織の場合は相手も管理職です。主観で判断するのではなく、客観的、合理的に判断することが普通でしょう。
しかし、調査に寄せられた自由回答コメントを読めば納得できます。例えば、このようなものがありました。

「部門にとらわれない本来的な取り組みに共感し、応援したくなった。」(サービス業、営業部門)
「いろいろな部門を巻き込んで解決しようとする姿を見て、協力しなければと思った。」(サービス業、営業部門)

相手組織のマネジャーも同じ境遇に置かれています。様々な問題意識を持ち、何かを変えたいと思うことはたくさんあるものの、制約やしがらみの中でなかなか実行に移せないでいるのです。そのよう中で手を挙げた同僚がいれば、応援したくなるのが心情なのでしょう。
こうした分析結果から、横の組織を動かすには、崇高な目的を掲げ、問題意識を共にする同僚を少しずつ増やしていくことが有効な手立てになるといえます。
ただし、「日頃の献身的行動」を忘れてはいけません。いくら崇高な目的を掲げたとしても、最後に梯子をはずしてしまいそうな人には協力者は集まりません。このコメントが物語っているでしょう。

「普段から自分のことしか考えていない人だったら、だめ。お互いに助け合えるような人間関係が大切。」(製造業、営業部門)

相手のメリットを訴える

もちろん横の組織のマネジャーは、主観だけで判断しているわけではありません。いくら心情的に協力してあげたくても、自分の組織成果に対する責任をないがしろにすることはできません。自組織にとって意味のないことにまで協力することはできないでしょう。そのため、協力を取り付けるためには、相手部門のメリットに訴えることが大切です。それが2つ目のルートです(図表2-2)。
ここでの「自己・自部門のメリット」は、相手組織がメリットを感じているかどうかを示しています(回答者が相手組織なので、“自部門”は相手組織のことであり、“自己”は相手組織のマネジャーです)。多少なりともメリットを感じれば、もしくはデメリットが和らげば、心理的に受け入れやすくなります。このようなコメントがありました。

「部下のスキルアップにつながると感じた。」(製造業、営業部門)
「こちらの業務状況や方針を考慮して計画を立ててくれていた。」(製造業、生産部門)

横の組織に協力を依頼する場合は、自分の部門の成果や思いを熱く語ってもあまり効果はありません。相手組織のメリットを訴求すべきです。
そしてその鍵となるのが、「業務上の権限」です。もちろん、権限を使ってメリットをゴリ押しするわけではありません。そもそも横の組織には職位上の権限は通じません。相手のメリットを作り出すには、それなりの権限が必要だということかもしれません。あるいは、権限のある人の依頼を引き受けておけば、後々何かあったときに頼りやすくなるという思惑が働くのかもしれません。

しかし、ケース(2)にあったような、もともと利害が一致していない場合はどうでしょうか。簡単に相手のメリットを見出せるわけではありません。相手は損を被ってまで協力するという判断は、なかなかは下せないでしょう。利害が対立する横の組織から協力を引き出すには、どうすればよいのでしょうか。

ケース(2)を考える_利害が対立している場合

知恵を絞ってWin-Winのスキームを考える

利害が対立する依頼内容のデータだけを切り出して分析した結果が、図表2-3です。
分析結果は、図表2-2とほぼ同じです。異なる個所は、「自己・自部門のメリット」(つまり相手のメリット)をもたらす源泉が見出せなかったというところです。利害対立が激しい場合は、たとえ業務上の権限があったとも簡単にはWin-Winの連携スキームに仕上げることはできず、かといって他に鍵になるものもないことを示しています。ケースバイケースなのでしょう。

とはいうものの、利害の対立状態はチャンスでもあります。利害対立という言葉からはネガティブなイメージが浮かぶでしょうが、そういうわけではありません。利害対立それ自体が悪いわけではなく、扱われ方によって、良くもなれば悪くもなります。建設的に扱われれば、トレードオフを解消するような画期的なアイデアを生み出される可能性もあります。
そのため、この難しい状況から目をそらさずに、知恵を振り絞らなければなりません。

著者プロフィール

富士ゼロックス総合教育研究所 研究室長/首都大学東京 大学院ビジネススクール 非常勤講師 坂本 雅明

1969生まれ。1992年にNEC入社。NEC総研を経て2006年より現職。戦略策定・実行プロセスの研究に従事。また、戦略策定の研修・コンサルティング、戦略策定合宿の企画・ファシリテーションを担当。一部上場企業の顧問として中計策定や新事業開発、子会社の経営支援にも携わる。首都大学東京では社会人学生向けに戦略策定コースを担当。一橋大学大学院修了(MBA)、東京工業大学大学院博士後期過程修了(博士(技術経営))。
主要著書に『戦略の実行とミドルのマネジメント』(同文舘出版、2015)、『事業戦略策定ガイドブック:理論と事例で学ぶ戦略策定の技術』(同文舘出版、2016)
富士ゼロックス総合教育研究所『人材開発白書』

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