第13回 企業と従業員の新しい関係「エンゲージメント」について、 『Louder Than Words』の著者ボブ・ケラー氏に聞く

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「エンゲージメント」というHR用語をご存じだろうか。日本では「婚約」という意味で使われることが多いが、「契約」や「約束」という意味もある。そして「エンプロイー・エンゲージメント(employee engagement)」というHR用語は、従業員と企業の関係を示しており、日本語に訳せば「相互に貢献し、成果を出す幸せな関係」という意味が近い。
この概念の提唱者がボブ・ケラー氏だ。
2012年4月26日(木)にボブ・ケラー氏の話を聞く機会が得られた。ケラー氏は「グローバル企業が取り組むべき課題、“タレント マネジメント”と"エンゲージメント"について考えるワークショップ」(株式会社シルクロードテクノロジー主催)で講演するために来日した。このワークショップには、数多くの日本企業から、経営者、人事部門責任者が参加され、日本企業におけるエンプロイー・エンゲージメントの意義や実践について議論する予定だという。今回、そのワークショップに先立ち、インタビューを受けていただいた。
同席するのは株式会社シルクロードテクノロジー 上級副社長ウィリアム・エド・ヴァセリー氏と、日本法人の石橋愼一郎社長。

企業と従業員による相互のコミットメントがエンゲージメント

−−では、ケラー氏からエンプロイー・エンゲージメントの基本的な考え方について伺いたいと思います。

ケラー わたしは25年間をグローバル企業の人事部門で過ごしてきました。その経験を通じて、「環境が劇的に変化しても、継続的に成長できる企業の決め手はエンプロイー・エンゲージメントなのではないか」と気づいたのです。
エンプロイー・エンゲージメントとは、「企業と従業員による相互のコミットメント」と考えるとわかりやすいのではないでしょうか。相互のコミットメントとは、企業は従業員の能力を最大限引き出すよことを約束し、従業員は企業としての業績へ貢献することを約束するのです。

従業員満足度からエンゲージメントへ転換

−−エンゲージメントという言葉は、日本では近年になって使われるようになってきましたが、アメリカでは以前から一般的な考え方だったのでしょうか。

ケラー アメリカでも長らく「従業員満足度」が優れた職場の指標として使われてきました。しかしこの10年間に従業員満足度ではなく、従業員エンゲージメントの実践へ指標が変化してきたのです。
満足度の高い従業員がいたとしても、その従業員が業績に貢献できていなければ、「従業員満足度」はその従業員がその企業で働くことの妥当性を表しているとはいえません。実際、そのような例が数多くありました。たとえばコダックですが、最も従業員満足度の高い企業として有名でしたが、残念ながら経営破綻しました。GMも優れた退職金や企業年金制度を持ち、従業員満足度が高い企業でしたが、2009年に破産申請しました。新生GMではエンプロイー・エンゲージメントを向上させるために、シルクロード テクノロジーのRedCarpetというシステムを導入したそうです。
従業員満足度は、いまや企業の健全な成長を実現できる指標ではないのです。エンゲージメントは従業員の満足度ではなく、企業と従業員がパートナーシップを結んで構築し、継続的に繁栄するモデルです。

“ジェネレーションY”はロイアリティを持たない

−−アメリカの“ジェネレーションY”や日本の団塊ジュニアなどの若い世代の就業すること価値観はこれまでの世代と異なるように思えます。

ケラー その通りです。若い世代は同じ会社に勤め続けることを前提としていません。企業が従業員にロイアリティを持たせたいと考えても、彼らはそのことに価値を感じていないのです。そのような価値観の変化がロイアリティからエンゲージメントへと重点が変化してきた背景にあります。

−−現代の人材はロイアリティが低下しており、従来型の忠誠心を期待することができないことは理解できます。また従業員満足度と業績がリンクせず、企業と従業員の関係を再構築する必要性もわかりました。エンゲージメントの狙いやそれを実践するためのポイントについて説明していただけますか。

ケラー 従業員満足度とエンゲージメントの違いは「求める」と「提供する」の違いです。従業員満足の視点では、従業員は会社から「給料を求め」、福利厚生などの「便益を求め」企業は従業員に「労働を求めます」。しかしエンゲージメントでは、従業員は会社に自らの能力によって「価値を提供」します。企業は、従業員の提供した価値を評価し、それを最大化できるような「環境や報酬や機会の提供」を約束します。エンゲージメントは組織と従業員とが相互に「貢献する」ことを約束することなのです。

もう一つの重要なエンゲージメントの核心的な価値はイノベーションです。
イノベーションの例を個人的な経験から紹介しましょう。私が『Louder Than Words』という本を書いた時、当時23歳だった娘が「ビデオを作ってYouTubeに投稿したらいい」と提案しました。当時の私はYouTubeについてよく知らなかったのですが、提案通り5分間にまとめたビデオを作って投稿しました。結果、このビデオはEmployee Engagementについて世界で2番目に多く視聴されました。つまり娘の提案が私のビジネスモデルにイノベーションを引き起こしたのです。
企業でも同じことが起きています。若い従業員は、私たちの世代とは異なる価値観を持っています。私たちとは違う価値観を持っているからイノベーションを起こせる可能性があるのです。

若者を生かし切れないシニア層に、ダイバーシティの再定義を提案

−−これまでのお話しを聞いていると、日本の問題はシニア層にあるように思えます。かれらは高いロイアリティを持って仕事をしてきましたが、エンゲージメントという価値を理解せず、若者やグローバル人材を活かしていません。そこに現代日本の大きな問題があるのではないかと思うのですが、有効な処方箋はありますか。

ケラー それは良い質問です。シニア層が異なる自分とは違った価値観を受け入れることができないのは大きな問題です。この問題を解決するには、エンゲージメントだけではなくてダイバーシティ(多様性)についてもワークショップを開催してみるのがいいでしょう。イノベーションは新しい価値観から生まれるのであって、新しい価値観を包摂するダイバーシティへの取り組みは、非常に重要なのです。

エンゲージメントを実現するテクノロジー

−−シルクロードテクノロジーは東京・大阪に拠点を構えて活動されているので、日本の労働市場についても詳しいと思いますが、ヴァセリー氏はどのように感じていますか。

ヴァセリー 日本の労働市場は外国に比べると規制が厳しく、余剰な人材の解雇が難しいといわれています。従業員のロイアリティを向上させるという考え方は、日本の終身雇用をベースにした長期的な企業と従業員の関係においては有効だったのではないでしょうか。日本のお客様から、ある日本企業がグローバル化を推進していく際に、海外では従来のロイヤリティの醸成という関係性が全く機能せず、優秀な人材の離職率の高さが深刻な問題となっているという話を聞きました。
今こそ、日本企業にはロイアリティに代わるものとしてエンゲージメントが必要なのです。そしてエンゲージメントを実現するのはテクノロジーが大きな力となります。
シルクロードテクノロジーでは、グローバルな人材管理ができるパフォーマンスマネジメントシステムを日本の顧客企業に提供しています。またラーニングマネジメントシステムも提供しており、これらはクラウドシステムなので、世界拠点のすべての人材の能力と成長を一元的にマネジメントできます。

日本の人事はターニングポイントに差し掛かっている

−−石橋社長は、シルクロードテクノロジーの日本法人の責任者として、日本の労働市場を見てこられました。日本では従業員満足度を上げることによって、製品やサービスのクオリティが上がり、顧客満足度が上がるというモデルが信じられてきたと思いますが、現状は変わってきましたか。

石橋 学生が新卒入社しても3年で3分の1が辞めてしまうことでわかる通り、従来型のロイアリティを従業員に求めても無意味です。人材市場が多様化し、職場で働く人材も多様化しています。彼らに力を発揮してもらうには、権限を与えてやりがい感、達成感を実感できるようにする仕組みが必要であり、多くの人事関係者が、それに気づき始めたのではないかと考えています。これはHRに関わる人間にとって大きな変化であり、日本の人事はターニングポイントに差し掛かっていると思います。

−−本日はセミナー前の多忙な時間を割いていただき、ありがとうございました。
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著者プロフィール

The Employee Engagement Group CEO ボブ・ケラー

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