「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下、女性活躍推進法)」が2015年8月28日に成立した。常時雇用する労働者の数が301人以上の事業主に対しては、①自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析 ②状況把握、課題分析を踏まえた行動計画の策定、社内周知、公表 ③行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出 ④女性の活躍に関する状況の情報の公表 が義務付けられた。法律が施行される2016年4月1日までに上記①②③の実施を、以降は④を実施していくこととなる。常時雇用する労働者の数が300人以下の事業主は努力義務となっている。
 HR総研では2016年2月24日~3月3日に、女性活躍推進法への対応状況と企業での女性活躍推進・女性登用がどのような状況であるかアンケート調査を行った。その結果についてレポートする

3月初旬時点で「行動計画策定の着手」が50%

最初に女性活躍推進法で定められた施策のうち着手していることはどれかについて、従業員数が301人以上の企業(4月1日までに届け出義務のある企業)に聞いた。アンケート回答期間中(2/24~3/3)においては「対応についての情報収集」が最多で70%、続いて「女性活躍の状況把握」が61%、「女性活躍の課題分析」が57%であった。届け出期限である3月31日まで1か月を切った段階で、まだ約4割が状況把握と課題分析に取り組めていなかったわけで、短期間に実施し、届け出までこぎつけなければならなかったということになる。
 調査時点で、「行動計画の策定」まで着手していたのは50%で半数であった。「状況と行動計画の社内周知」「状況と行動計画の都道府県労働局への届出」まで着手できていたのはわずか16%である。また約1割であるが「優良企業認定への申請」に着手している企業もあった。

〔図表1〕女性活躍推進法について着手した施策

「女性活躍推進・女性登用に関するアンケート」調査結果

女性活躍推進の届け出における課題は「行動計画策定の目標数字」が約4割

3月31までの届出に関して課題と感じていることは何かを聞いたところ、「行動計画において、目標数字をどのくらいにすればよいのかわからない」が最多の37%だった。女性活躍推進法では、採用した労働者に占める女性労働者の割合や、男女の平均勤続年数の差異、管理職に占める女性労働者の割合などを調査し、その結果分析を踏まえて、目標数値を設定することとしている。目標数値は計画期間内に達成を目指すものとして、各事業主の実情に見合った水準とすることとされているものの、いったいどのような数字であれば実情に見合った水準であるかの判断が難しいということであろう。

 続いて「行動計画策定において、何を目標にすればよいかわからない」が24%、「どうすれば均等法違反にならないように行動計画を作成できるかわからない」という声も17%あった。一方、「特に課題はない」という企業も2割あった。

〔図表2〕女性活躍推進法に関しての届出に関し、課題だと感じること

「女性活躍推進・女性登用に関するアンケート」調査結果

女性活躍推進の目的は「人材の有効活用」が6割超

従業員数300名以下を含むすべての企業に、女性活躍推進を行う目的は何かについて、優先度の高いものを3つまで選択してもらった。最も多かったのは「人材の有効活用のため」で62%である。第2位は「社内の活性化をはかるため」で46%、第3位は「優秀な人材を募集・採用するため」で44%であった。

 もともと安倍政権では、少子高齢化など労働人口減少に対応するために女性活躍推進を唱えてきたのだが、本調査で自社の女性活躍推進の理由として「労働人口減少に対応するため」と回答したのは22%と少数に留まっている。多くの企業で国の意向とは別に、自社のビジネス向上を目的として女性活躍推進を図っている実態が明らかになったと言えよう。

 人材の有効活用、社内活性化、優秀な人材の採用を選択した理由としては「旧来の補助的な役割にとどまらず、各々の能力向上、本人のモチベーションアップ等により、社内の活性化、生産性の向上を図りたい。そのような社風を形成し、優秀な人材も採用していきたいため。」(商社)という声や、「女性の比率が低いのは、採用時に女性の募集が少ないだけでなく、女性を活用しきれていないのが原因と考えられる。優秀な人材にできるだけ長く務め活躍してもらうことが、企業の発展に求められているため。」という声があり、性別によらず優秀な人材を活用し採用していきたい、という意向が多く見られた。

 また、3割が「社会的要請・時代に流れに適応するため」という外部要因を選択しているが、同じく3割の企業は「多様な人材の活用によりイノベーションを創造するため」と内部要因をあげており、「男性比率が非常に高い企業ですから、凝り固まった考え方だけではイノベーションは起こせないと考えているため。」(メーカー)など、女性の活躍によってイノベーションを起こしたいとしている企業もある。
 「法律を遵守するため」は37%で、建築・土木関係や機械系の企業では「女性の活躍の場が限られていることから、法律を遵守することを最優先に考えている」といった、どちらかというとネガティブな受け取り方をしているようである。 

〔図表3〕女性活躍推進を行う目的

「女性活躍推進・女性登用に関するアンケート」調査結果

指導的地位の女性割合「2020年30%」目標達成に取り組んでいるのは約3割

指導的地位に占める女性の割合を30%にする、という国の目標が設定されたのは、平成15年(2003年)のことで、内閣府男女共同参画推進本部が決定した目標である。目標設定当時、17年先の未来を見ていたものであるが、2016年の今年はわずかあと4年を残すところとなった。現状で企業がこの目標に対してどのように取り組んでいるのかを聞いたところ、「すでに目標を達成している」が10%、「2020年30%目標達成に向けて取り組んでいる」が12%で、合わせて約3割が目標達成済もしくは達成を視野に入れての取り組みをしていることがわかった。
 「2020年30%目標達成は無理だが少しでも現状改善をしようと取り組んでいる」が最多の27%。「2020年30%目標とは関係なく取り組んでいる」が16%で、約4割が目標達成は目指さないものの取り組み自体は行っており、これらを含むと指導的地位の女性割合を増加させようとしている企業は全体としては65%となる。

 一方、「2020年30%目標達成は無理なので取り組んでいない」が11%、「そもそも女性比率を向上しようと思っていない」企業が13%あり、合わせて24%である。規模別にみると300名以下では37%となっており、今回の女性活躍推進法が義務づけられていない300名以下では3社に1社が女性活躍推進に関して無施策であることがわかった。

〔図表4〕指導的地位の女性割合「2020年30%」目標達成に取り組んでいるか

「女性活躍推進・女性登用に関するアンケート」調査結果

3年前より女性管理職が増加しているのは大企業では56%

女性管理職は3年前より増えている企業は全体では37%、1001名以上規模では56%であり、半数以上の企業で女性管理職が増えているという結果である。さらに細かく見ると、1001名以上規模企業では、メーカーでは65%、非メーカーで48%が女性管理職が3年前より増加していると回答している。大規模企業では前述の202030施策によりこれまでも女性活躍推進を行ってきていて、そうした成果が表れていると言えよう。
 しかし現状の女性管理職の割合を聞いたところ、1001名以上規模では、0%(管理職は男性のみ)が8%、5%未満が42%であり、半数の企業で女性管理職割合が5%未満であることから、3年前より女性管理職が増えている傾向はあるものの、あらゆる業種業態で指導的地位の女性割合30%という目標にはまだまだ遠いことがわかる。

〔図表5〕3年前と比較して「女性管理職」の割合は増えているか

「女性活躍推進・女性登用に関するアンケート」調査結果

女性活躍推進・女性登用の課題は「女性の意識・就労感」が約5割で最多

女性活躍推進・女性登用を図っていくうえで何が課題となっていることをすべて選択してもらったところ、最多となったのは「女性の意識・就労感」で47%であった。「女性社員を昇進させようと本人に打診しても、責任の重さから固辞されるケースがある。まずは、女性の意識改革を進めるべきだと考える。」(メーカー)、「管理職を目指そうという意欲があまり感じられない」(メーカー)といった声が聞かれる。女性が昇進や責任のある地位に就くことを望んでいないという現状があることが判明したが、ではなぜ女性が仕事に対してそのような意識・就労感となっているのかが根本的な問題である。

 原因として挙げられるのは、「女性ロールモデルの欠如」(32%)だ。「前例がないため推進しづらい」(情報処理)、「ロールモデルが存在しない為、若手がイメージしにくい」(商社)ということである。また「出産・育児による女性の退職」(30%)も、「一番活躍してもらいたい時期が出産・育児の時期と重なるので、十分な活躍にどうしても限度がある。」(運輸)というのが現状だ。

最近では「保育園落ちた」のブログが安倍総理の国会答弁にまで発展したように、政府は少子化の解消のために出産を推奨し、一方で女性に企業で働き輝けと推進して、その具体的な支援である保育園での育児に関しては待機児童問題が解決しないという、子供を持つ親にとって八方塞がりの状況となっている。出産が女性の役割であるのは自然の摂理であるが、育児や子供の教育は誰が担っていくべきなのかについて解決していかなければ、企業で女性に輝けといってもその実現は難しいのではないか。
 
 企業側の認識が女性活躍推進・登用の足枷になっていることも否めない。「経営陣の意識」が課題であるとしたのが34%、「風土・社風」と「男性上司の意識」がともに30%である。また「長時間労働が前提のワークスタイル」も26%ある。「転勤、長時間労働、重責が非常にネック。これは女性に限らず若い社員に共通だ。」(商社)という声が代表するように、女性の働き方の問題というより、日本企業での働き方の問題であると捉える方がよさそうである。

 女性の能力に起因するとしたものでは、「女性の管理職適性/リーダー適性」が28%、「女性のリーダーとしての能力」が25%ある。これには、「実在の女性従業員が、採用時には将来の管理職候補として採用していないし、管理職候補として、教育、スキルアップしていない。」といった採用時からの職制や入社後の教育が影響しているだろう。

「女性活躍推進・女性登用に関するアンケート」調査結果

女性活躍推進の問題は、女性の問題ではなく日本全体の性別分業意識の問題

今回の調査に協力いただいた企業人事の皆さまの自由記述から見えてくるのは、女性活躍推進にあたり、女性の仕事の仕方や女性に関する制度を充実させることだけでは問題解決につながるわけではないという実態だ。女性活躍推進にあたり何より必要なのは、「育児は女性の仕事」という性別分業意識の国民レベルでの改善ではないだろうか。その代表的な声をご紹介しよう。

 「やっと子供を預けることができ、働きたいという熱意を買って採用した女性社員。お姑さんから『もう少しちゃんと子育てをしたら』の一言がプレッシャーで、頑張り屋の彼女も1年後に、泣く泣く退職。親や年配の自分の生きた時代をよしとする価値観が、大学生の就職や仕事と家庭の両立をしようとする若い世代を苦しめる。価値観や時代の変化について情報発信してもらえる機会や機関があればと感じる。」(サービス)

 「女性社員が多い職場ですので、制度は整っております。しかし結婚・出産を経て活躍する女性役職者のロールモデルがおりません。それは社内の風土では無く、女性社員の配偶者の理解が得られないことが多く、実際に男性社員にヒアリングしてみても、同僚なら構わないが、自分の妻には家に居て欲しいと思うという声がほとんどでした。その為、日本人男性の意識を変えることが必要なのではないかと思いました。」(メーカー)

 日本の国力の維持・発展のために労働力不足の解決を担う施策として焦点があてられた女性活躍推進法。この法律の施行と企業による施策の実施が、日本の企業全体の国民が幸せになる働き方につながっていくことを期待したい。

【調査概要】
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2016年2月24日~3月3日
有効回答:179社(1001名以上:50 社、301~1000名:52社、300名以下:77社)

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