全6回にわたり、日本企業が今後労働市場から求められる「働きやすさ」をどのように「見える化」し、持続的な企業価値向上につなげていくべきかを考察・提案する連載コラムの第3回目。

第3回、第4回では、「健康課題」解決のため、業種や職種パターンを4つに分類し、それぞれについて具体的な事例を交えながら実践方法をご紹介していく。
働きやすさの「見える化」(3)健康経営で社員も会社も元気になる!

健康課題の第1象限~管理・事務系職種~

*前回記事はこちら

 いざ健康経営に取り組むにあたっては、まず自社の健康課題を把握することからはじめられたい。いったいどのような健康障害や増進阻害要因があり、またはそのリスクが潜在し、現実にどのような損失が発生しているのか、職場単位で調査・分析するのである。
その手法やリソースについては後の稿に詳述するが、その際に有効なフレームワークとして、次のような概念図を用いるとよいだろう。



 この図表は『会社の業績は社員の健康状態で9割決まる』(古井 祐司 著/幻冬舎メディアコンサルティング/2015)をもとに作成したものだが、これを本稿では便宜上<健康課題マトリックス>と呼ぶことにする。
この<健康課題マトリックス>の縦軸は「公私にわたる生活リズムを自らコントロールすることが容易かどうか」という観点を表しており、いっぽう横軸は「デスクワークを中心としているか否か」という観点を表している。

 <健康課題マトリックス>上で表現される4つの象限それぞれの特徴のうち、まず第1象限(右上)を記述すると「デスクワーク中心で生活リズムが規則的」な状態を指すことになるが、そのような業種または職種は一般的に、「管理・事務系職種」ということになろう。

 この「管理・事務系職種」一般の作業態様として、室内・連続・長時間・座位のPC作業、という特徴が挙げられるが、それによる腰痛・肩凝り・目の疲れ・足のむくみといった健康課題が目立つ傾向にある。
 また、基礎代謝が比較的低いためにメタボリック症候群になりやすく、業務内容や勤務時間によっては睡眠の質が悪化するケースも見受けられる。
 主な対策としては、次のような行動が一般に効果的である。

 ・休憩時間等に運動して血行を促進する
 ・深座で腰を上下左右に動かす・首を回すなどのストレッチ
 ・1~2分目を閉じる・窓から遠方を眺めるなど目を休める


 また、実際の活動事例として、たとえば次のような実践が報告されている。

 ・従業員のデスクに昇降デスクを採用して立って執務作業を行うことや、打合せコーナーの壁面をホワイトボードにして、立って打合せをすることを推奨。(株式会社フジクラ)
 ・共用コーナーの自販機の前に、従業員がぶら下がってストレッチできる雲梯を設置。休憩の際などに利用を推奨。(同社)
 ・毎朝、敷地の清掃活動に従業員が自主的に参加。(伊那食品工業株式会社)
(経済産業省「平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業 健康経営に貢献するオフィス環境の調査事業 健康経営オフィスレポート」および東京商工会議所「健康経営倶楽部」HPより抜粋。以下、事例はすべて当該資料より抜粋。)

 特に上記伊那食品工業の清掃活動は、従業員同士だけでなく地域住民とのコミュニケーション機会にもなっているという点で注目すべきである。

健康課題の第2象限~建設・製造業等現業職~

 次に、健康課題マトリックスの第2象限(左上)の特徴を記述すると「非デスクワーク中心で生活リズムが規則的」な状態を指すことになるが、そのような業種または職種は「建設・製造業等現業職」ということになろう。

 この「建設・製造業等現業職」一般の作業態様として、他の業種・職種にくらべ身体的な活動度が高い、という特徴が挙げられるが、このような労働に従事する者は高カロリー・高塩分の食事を好む傾向があるといわれている。
したがって、その点肥満や高血圧のリスクが高いといえよう。
 主な対策としては、次のような行動が一般に効果的である。

 ・塩分、アルコール、ひいては食事摂取量そのものを控える
 ・栄養士などによる食生活指導や情報提供


 また、実際の活動事例として、たとえば次のような実践が報告されている。

 ・専任看護師が常駐して血圧、骨密度などの健康状態を測定できる設備を揃えた「健康パビリオン」を開設。地域住民にも開放。(伊那食品工業株式会社)
 ・契約農家から直送される旬の新鮮野菜を従業員全員に現物支給。(ゆめみ株式会社)
 ・社内でゆで卵とチーズの食べ放題実施(産業医にタンパク質を摂取することの重要性をアドバイスされたもの)。(同社)
 ・カロリー表示があり栄養バランスのいい弁当を総務で一括注文。(タナベ環境工学株式会社)
・社内の自動販売機のメニューを刷新。甘いジュースや炭酸飲料の代わりに特定保健用食品のお茶や果汁100%ジュースに。(同社)
 ・所管の全国健康保険協会支部に案内してもらったアプリを活用。歩数、体重、血圧等の日々の数値や3年分の定期健康診断結果等を当アプリに入力し、健康状態の「見える化」を全社員に呼びかけ。(同社)

 本稿でご紹介したいずれの実践例においても、高額な予算や部署の新設、長期の計画等は必ずしも要していない。経営資源の限られがちな中小企業においても、健康経営は十分実践可能であることがおわかりいただけただろうか。

 次回は引き続き、健康課題の第3象限および第4象限について、解説していく。

※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です


社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー
代表 健康経営アドバイザー 楚山 和司

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