AI時代に経営幹部各位に求められる「アイデアを形にする力」。これまで3回に渡って、アイデアを実現するリーダーになるための4つのステップのうち、「想像力」から「クリエイティビティ」、そして「イノベーション」へと展開してきました。今回はいよいよ総仕上げとなる、「起業家精神」の発揮です。
「起業家精神」とは何か?
「起業家精神」、よく使われる言葉ですね。しかしそもそも、起業家精神とは一体何なのでしょうか。みなさんの定義はどのようなものですか?起業家精神といえば、ドラッカーを思い浮かべる方も多いでしょう(ドラッカーは「起業家精神」という表記も使いますが、多くは「企業家精神」としています)。そのドラッカーの定義を引用すると、
「企業家精神とは、個人であれ組織であれ、独特の特性を持つ何かである。気質ではない。実際のところ私はいろいろな気質の人たちが、企業家的な挑戦を見事に成功させるのを見てきた」
「企業家精神の原理は、変化を当然のこととする行動であり姿勢である」
(『イノベーションと企業家精神』)
読んだだけでは、なかなか難しい表現ですね。
アイデアを実現するリーダーになる4つのステップ、「インベンション・サイクル」を提唱するティナ・シーリグ教授は、起業家精神を次のように定義しています。
「起業家精神は、イノベーションを活用してユニークなアイデアを形にし、他の人たちの想像力を掻き立てる」
起業家は、事業をともに行う人、資金を提供する人、出来上がった製品やサービスを購入して使用する人など、多くの人たちの想像力を刺激し、それによって自分のアイデアを実現します。生み出した製品やサービスが、それを知った人や使う人たちに伝染して、その人たちの新たな想像力を刺激します。それにより、その人たちのクリエイティビティが発揮され、イノベーションを引き起こし、起業家精神を呼び起こす。――こうしたサイクルが世の中全体に拡散するように回るのが、インベンション・サイクルなのです。
イノベーションの事業化を目指す企業にとって起業家精神が必要なのはいうまでもありませんが、起業家のように考えることで難しい問題を解決していくという意味では、どのような事業活動、日々の業務や生活においても、起業家精神は必要なものなのです。
粘り強く続ける力の養い方
例えばiPhone、例えばシンガポールのマリーナベイサンズ。私たちを感動させる製品や建造物も、当然のことながら、元をたどれば一つのアイデアや設計図から生まれています。それが製品として世界中に流通するには、観光名所として世界中の人たちを惹きつけるホテル&カジノリゾートとなるには、アイデアや設計図で終わることなく、とてつもない手間のかかる“実行”があってのことです。
革新的なことを成し遂げるには、ブレることなく、粘り強く続けることが不可欠です。それには、「これを実現したい」というビジョンが必要であり、やる気が必要です。そして実現を達成するために、心と体、時間をそこに集中させる(フォーカス)ことが必須です。
シーリグ教授は長年の観察から、イノベーションから起業家精神の段階への移行に成功した人たちには共通のパターンがあることに気づきました。それは、彼らは充分に大胆でありながら、目標を達成できる着実な「歩幅」を知っているということです。最初は小さく小刻みな歩幅から始まって、経験を積むほどその歩幅は大きくなり、成果も大きくなる。起業家として知識が増え、資源が蓄積され、自信がついて器が大きくなると、その器に見合った大きな目標を掲げられるようになるのです。
私たちは、小さなステップを積み重ねていくことでメンタルを鍛えることができます。達成できるという自信(「処理可能感」といいます)を身につけ、もうひと踏ん張りする力がつきます。
大概の場合、最も面白いアイデアは、「もうアイデアは出尽くした」と思った後に出てきます。他の人ならばやめてしまうところで満足せず、それ以上の成果を追い求める姿勢は、「不屈の精神」(grit:グリット)と呼ばれます。
影響力を発揮する方法を学べ
偉大な成果や功績は、自分ひとりで成し遂げられるものではありません。私たちは、何か有意義なことを成し遂げたいならば、周りに働きかけて自分のやることを応援してもらい、影響力を拡げる方法を見つける必要があります。周りを巻き込んで自分の影響力を拡大する方法は学ぶことができます。有効な方法を学び、取り入れ、使いましょう。シーリグ教授が紹介している効果的な方法として、以下のようなものがあります。
●思わずその輪に加わりたいと思うような「心に残る」物語を話す
●フレームを変えてインパクトの強い物語にする(チップ&ダン・ハース『アイデアの力』)
●物語の骨組みなどのストーリーテリングの手法を取り入れてアイデアを伝える(『神話の力』など)
●影響力の原則を活用して周りを動かす(ロバート・チャルディーニ『影響力の武器』)
●自分の強みを強化してカリスマ性を高める(集中力+やさしさ+威厳。オリビア・フォックス・カバン『カリスマは誰でもなれる』)
この連載でもこれまで影響力を高める方法を色々とご紹介してきています。ぜひバックナンバーもご覧頂き、自分に合った方法を取り入れてみてください。
<実行に必要な姿勢> <発想を鍛える行動>
想像力 = どっぷり浸かる + ビジョンを描く
クリエイティビティ= やる気を高める + 実験を繰り返す
イノベーション = フォーカス + フレームを変える
起業家精神 = 粘り強く続ける + 周りを巻き込む
実行力とは物事をやり遂げる能力であり、発想力とは型破りなアイデアを思いつく能力。どちらも必要な資質ですが、片方だけでは不十分です。実行力と発想力が揃って初めて、アイデアを実現することができるのです。
実行力と発想力を併せ持つ“両効き上司”として、インベンション・サイクルを回し続け、ポストコロナに向けて新たな価値を創造し、ご活躍ください!


