VOL.05
組織風土変革で挑む、選び、選ばれる関係の構築
SMBCグループ人財ポリシーが導く新たな人事戦略
株式会社三井住友フィナンシャルグループ様

INTRODUCTION
三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)では、「SMBCグループ人財ポリシー」のもと、社員が挑戦できる環境づくりや多様な人材の活躍推進など、経営戦略と密接に連動した大胆な人事施策を展開しています。今回は、グループCHRO(兼 三井住友銀行 取締役専務執行役員)として組織変革をリードする小林喬氏と、ベネッセコーポレーションで多くの企業の人事制度改革を支援してきた飯田智紀氏による対談を実施。SMBCグループが改革に取り組む背景や、とりわけ注力している組織風土変革、そしてこれからの人事に求められる役割について語り合っていただきました。(以下敬称略)
会社と社員の選び、選ばれる関係を目指し、まずは組織風土変革から着手
飯田三井住友銀行(以下、SMBC)様では今年1月、人事制度改革を実施されました。まずは、その背景や狙いについてお聞かせください。
小林長年人事に携わる中で、近年、企業環境や人事に求められる役割の大きな変化を肌で感じています。そこでまずは、我々自身の組織風土を見つめ直す必要がありました。これまでのSMBCは階層意識が強く、全員が同じ方向を向き、スピード感を持って動く――そのような組織風土が根付いており、ある意味ではそれが私たちの強みでもありました。
しかし、ビジネスのグローバル化や高度化が進み、それに伴って人材の流動化や多様化も加速する中で、組織と社員の関係性は大きく変わりつつあります。これから未来に向けて「この会社で働きたい」と思ってもらえる人材を一人でも多く増やし、確保していくためには、社員がやりがいや充実感を感じながら働ける環境を整えていかなければなりません。
そして、もう一つ重要なのが、私たちの組織の核となる“個の強さ”をどう生かすかという点です。社員が情熱を持ってお客さまや社会のために尽力するためには、個の力を大切にし、最大限に伸ばしていく必要があります。しかし、従来のような階層意識の強い組織では、社員一人ひとりの可能性を伸ばすことも、考え方や価値観を尊重することも難しいでしょう。まさに、こうした思いが人事制度改革の出発点となりました。
飯田「人こそが競争力の源泉」であると断言される一方で、会社と社員が対等な「選び、選ばれる関係」を目指すと掲げられていますね。
小林かつて、会社と社員の関係は「会社が社員を守り、その代わりに社員は会社に尽くす」という、いわば主従的なものでした。しかし今では、そうした伝統的な日本型(JTC:Japanese Traditional Company=日本の伝統的な大企業)の雇用モデルは崩れつつあります。価値観やキャリア観が多様化する中で、会社もまた“選ばれる存在”にならなければなりません。
そうなると、「人事が決めたことには全社員が従う」「一つの仕組みや制度で全社員を包摂する」といったこれまでの発想は、もはや限界を迎えています。そこで人事戦略を再構築する前に、まずは組織風土変革から着手しました。2018年、私が人事部長に就任した頃のことです。ドレスコードフリーの導入を皮切りに、エンゲージメントサーベイの実施など、さまざまな施策を展開していきました。
さらに2023年には、会社と社員が目指すべき姿を示した「SMBCグループ人財ポリシー」を策定し、それ以降はこのポリシーを旗印に、人事制度改革を進めました。
飯田その「人財ポリシー」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
小林会社と社員が「選び、選ばれる関係」の中で、互いの成長と価値創造を実現していくことを目指すものです。具体的に、会社として社員に求めているのは、「プロフェッショナル」「チームワーク」「挑戦」です。
一方で、その実現を目指す社員に対して会社が提供するのは、「自分らしさの表現」「お客さま・社会への貢献」「キャリア形成と自身の成長」です。
会社が社員に求めるものと提供するものは常に相関していて、双方の好循環の創出が企業価値向上につながると考えています。
エンゲージメント・アンバサダーの配置で自律的な組織改善のサイクルを回す
飯田多くの企業では、まず「制度の刷新」から着手しようとする傾向がありますが、そうした中で組織風土変革から着手されたという点は非常に興味深いです。小林様ご自身には、そこに特別なこだわりやお考えがあったのでしょうか。
小林私は長年、人事の仕事に従事してきましたが、実は2016年からの2年間岡山で法人営業部長を務めました。そこで改めて客観的な視点で人事を見ることができ、また現場の若い社員と話をする中で、「人事は抜本的に変わらなければいけない」と強く感じたことがきっかけです。
そして2018年に人事に戻り、人事部長に就任したのですが、そのときに、いきなり制度から変えるのは順序が違うと考えました。制度改革には経営陣の理解や人事部内での合意など、一定の積み上げが不可欠です。それに「一人ひとりにフォーカスする」「個々のやりがいを重視する」といった目標を掲げても、組織風土が従来のままでは機能しません。そもそも、制度だけ変えても意味がないというのが、当時の私の認識でした。
また当時、「銀行の将来に不安を感じる」という社員の声も多く、人材の流動化が進む中で退職者も増え始めていました。そうした状況も踏まえ、制度を変える前に、組織風土を変えることが急務だと判断しました。
飯田組織風土変革の一環として、インナーコミュニケーションにも注力されていますが、なかでもエンゲージメント・アンバサダーの配置は、非常にユニークなアプローチだと感じます。また、人財ポリシーの実現という観点では、人財ポリシースコアの導入も画期的ですね。
小林組織風土変革の出発点として、まず力を入れたのがエンゲージメント向上でした。実は、人財ポリシーで掲げている内容も、エンゲージメントにおいて重視している事項の延長線上にあります。2020年にエンゲージメントサーベイ「Wevox」を導入し、可視化されたデータを基に現場主導で課題の特定や改善に取り組んでいます。
ただ、組織によって規模や状況はさまざまですし、自分たちだけで気づきや課題を的確に捉えるのは容易ではありません。そこで、約3,000人のエンゲージメント・アンバサダーを任命し、各組織に配置しました。人事から各アンバサダーに対してサーベイの読み解き方やポイントを共有し、それをそれぞれの組織に持ち帰って実践してもらっています。
一方の人財ポリシースコアは、掲げた人財ポリシーが社内でどこまで実現されているかを定量的に測る指標として2025年から導入したものです。エンゲージメントサーベイの項目の中から人財ポリシーと関連性の高い指標を特定・抽出してスコアとして算出しています。このスコアの変化を定量的にモニタリングしていますが、スコアが上がればそれで終わり、という話ではありません。データをきちんと分析し、そこから得られたインサイトを次の人事施策のアップデートに反映していくことを重視しています。
飯田人財ポリシーと連動させているところが肝になっているのですね。こうしたスコアは、開示目的や人事部門のための指標と受け取られがちですが、むしろ組織風土変革や「選び、選ばれる関係」が実現できているかを、部署単位で検証する仕組みになっている点が実運用に根差していて素晴らしいと感じました。しかも、それが「Wevox」と連動している点も見逃せません。
マネジメントにとっては、1年後のスコア変化を見るのが楽しみになりそうですね。さらに、来年・再来年とデータが蓄積されていく中で、再現性高く成果を上げるマネジメントが見えてくれば、自ずと評価や配置にもつながっていくのだろうと想像しています。
ただ一方で、サーベイは弊社でも導入していますが、スコアに一喜一憂するマネジメントも少なくないと感じます。そういう意味で、サーベイ結果との向き合い方も含めて、マネジメントへのトレーニングやフォローなどは行っていらっしゃるのでしょうか。
小林おっしゃる通り、マネジメントはサーベイの結果に一喜一憂しがちではありますが、スコアが高いから良い、低いからダメというものではない、ということは言い続けていく必要がありますし、そこに過度なプレッシャーを感じてほしくはありません。
人事制度改革の一環として、2026年から職務給の導入や年次運用の撤廃などを実施していきます。そうなると、マネジメントは日頃から部下の行動をきちんと把握し、フィードバックを行うなど、これまで以上に役割も負担も大きくなると考えています。そうした意味でも、マネジメント層に対するケアは、これからさらに重要になっていくでしょう。今回の新人事制度の運用にあたっても、管理職に対する事前説明や研修にはかなり力を入れました。
変革に終わりはない。不変の軸を大切に、人事自身も変わり続ける
飯田ビジネスを取り巻く環境が変わり、会社と社員の関係性も変わる中で、人事自体の立ち位置や役割にも変化が求められます。小林様はその点について、どのようにお考えでしょうか。
小林私は銀行でキャリアを積みましたが、銀行は人事の権限が非常に強いことが特徴です。もちろん現場とも話はしますが、評価や異動の権限は人事部門が持っており、そういう意味では、これまでは会社の組織風土と比較的整合していました。
ただ、ビジネスのグローバル化や高度化が進む中で、社員の専門性の重要度が加速すると、人事が各業務の専門性を正確に理解し評価することは、どんどん難しくなっています。となると、これまでのように人事がすべてを決めたり、一律の基準で評価していくといったことは、もうできなくなります。これは、旧来の制度の限界であり、人事自体の限界でもあると、ずっと感じてきました。
今のように組織風土変革に取り組みながら、人事のオペレーティングシステムも変えていくなら、人事部門のあり方やミッションも変える必要があります。そこで、新人事制度の具体的な検討に入ったとき、まず考えたのが人事と事業部門を繋ぐ役割としてHRBP(Human Resource Business Partner=事業部門のパートナーとして人事面から事業成長を支援する役割)を配置することでした。現在、各部門と連動した形で、人事と事業部門双方の立場から採用や育成などさまざまな領域で活躍しています。
協力:株式会社ベネッセコーポレーション(Udemy Business)
このあと
- AIが得意とする効率化と、人間が担うべき感性や評価の境界線
- 変化の激しい時代において、人事部門が持ち続けるべき不変のマインド
について話題が続きます
PROFILE
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株式会社三井住友フィナンシャルグループ
執行役専務 グループCHRO
株式会社三井住友銀行 取締役兼専務執行役員小林 喬氏
京都大学法学部卒業後、1990年太陽神戸三井銀行(現三井住友銀行)入行。1998年に人事部に着任。2016年に岡山法人営業部長を経て、2018年執行役員人事部長。2023年4月から現職。
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株式会社ベネッセコーポレーション
執行役員 社会人教育事業領域担当
(Udemy日本事業責任者)飯田 智紀氏
新卒でソフトバンクグループ株式会社に入社。経営企画・グループ会社管理、事業再生・国内外投資業務などに従事。その後、2015年9月に株式会社ベネッセコーポレーションに入社。2018年4月よりUdemy(ユーデミー)事業を中心とした社会人向け教育および組織開発関連事業の責任者となり、2024年4月より現職。
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