株式会社ベネッセコーポレーション | HRプロ

VOL.04

伊藤忠商事が目指す
『厳しくとも働きがいのある会社』の実現
~生産性と企業価値向上につながる“厳しさ”と“温かみ”の両立

伊藤忠商事株式会社様

Udemy Business

INTRODUCTION

ワークライフバランスへの配慮や多様性の尊重など、社員に寄り添う人事施策が注目される昨今。一方で、働きやすさを追求するあまり「厳しさ」を語りづらい風潮も広がっています。そうした中、伊藤忠商事株式会社は『厳しくとも働きがいのある会社』を目指すと掲げました。若手から敬遠されがちな「厳しさ」という言葉をあえて掲げた狙いはどこにあるのでしょうか。今回は、同社で人事施策の設計・運用に長年携わってきた垣見俊之氏を、株式会社ベネッセコーポレーションでオンライン学習プラットフォーム「Udemy」の統括や企業の人事制度改革支援を担当する飯田智紀氏が訪問。伊藤忠商事の理念とポリシーが生み出した施策とその効果について伺いました。(以下敬称略)

『厳しくとも働きがいのある会社』とは何か?

飯田御社は『厳しくとも働きがいのある会社』の実現を組織の方向性として掲げていらっしゃいます。どのような経緯でこのフレーズに至ったのか、背景や意図についてお聞かせください。

垣見多様化する人材一人ひとりが生き生きと働ける環境づくりは、まさに人的資本経営の要です。当社は過去より他社に先駆けてさまざまな制度や施策を導入してきました。
たとえば女性活躍の観点では、今から20年前に配偶者の海外勤務帯同のための休職制度や、法定を超える3年間の育児休業制度を整えました。しかしながら、実際には、配偶者の海外赴任に帯同し、その間出産・育児休業などが重なり5~6年職場を離れた社員が、結果的に離職してしまうというケースが散見されました。ビジネスが急速に変化する時代に、長期のブランクを経て復帰することは容易ではなく、働き続ける事を目的として打ち出した施策のはずが、「働きやすさ」を志向する事になってしまった結果、目的とは真逆の人材の流出に繋がってしまったわけです。
2010年、現会長CEOの岡藤が社長に就任したタイミングで、制度全体の再検討に着手しました。その際、改めて「仕事には成果が求められる」という基本に立ち返ったのです。社員が成果を意識し、会社への貢献を前向きに捉えること。それは楽しさややりがいがある反面、もちろん厳しさも伴います。この両面をありのままに示す意味で『厳しくとも働きがいのある会社』というメッセージに集約しました。

飯田確かに、どの企業であっても、成果や生産性を重視する姿勢、つまり“プロフェッショナル意識”が重要になります。『厳しくとも働きがいのある会社』の本質もそこにあると理解できました。
一方で、現代では「働きやすさ」や個人のウェルビーイングが強く求められています。あえて「厳しく」という言葉を掲げられた背景には、どのような決意や考えがあったのでしょうか。

垣見仕事の厳しさといっても、それは叱責や長時間労働、ハラスメントではなく、あくまで成果を求める姿勢のことです。働き方やキャリア観が多様化した今でも、仕事においては成果を出す事が不可欠であり、その点には厳しさを伴うことも事実です。それを率直に示し、社員に対し明確なベクトルを示し価値観を共有することが大切だと考えました。

働きがい創出と生産性向上のための新たな施策

飯田「働きやすい会社」から「働きがいのある会社」へのカルチャーシフトを進めるうえで、どのようなポリシーが施策の根底に必要だとお考えですか。

垣見社員のモチベーションやエンゲージメントを高めるだけでなく、生産性を向上させることにつながる人事施策であることが重要だと考えています。
当社は他の商社よりも3割ほど社員数が少ないため、一人ひとりの生産性を高めなければ競争に立ち向かえません。生産性が上がり、企業価値が高まることは当社のブランド価値の向上にも直結する。その点を常に意識しています。

飯田働きがいにつながり、生産性と企業価値向上に資するものとして、どのような施策見直しや導入を進められたのでしょう。

垣見まずはフレックスタイム制度の廃止です。きっかけは2011年の東日本大震災でした。金曜の午後に震災が発生し、週末には被災地の状況が徐々に明らかになりました。翌週月曜の早朝から岡藤をはじめとする経営陣が「当社として何かご協力できることが無いですか」とお客様を訪問し朝10時に帰社した所、社員の多くは、何事もなかったかの如く平常通り、フレックスのコアタイムである10時に続々と出社してきている状況でした。お客様のニーズに応えるマーケット・インの発想からかけ離れた状況を目の当たりにし、お客様ときちんと向き合えているのかという強い危機感を抱きました。これをきっかけとして改めて“現場主義”に立ち返ることとなり、フレックスタイム制度の見直しにつながったのです。
また、夜遅くまで働くことは際限もなく非効率だという考えのもと、仕事が残っていても残業は夜8時までとし、翌朝早く出社の上始業する朝型勤務制度を2013年に導入しました。さらに、せっかく仕事を早く終えてもその後で深夜まで飲み歩くのでは意味がないということで、社内の飲み会や歓送迎会、お客様との会食は一次会のみ・午後10時までとする『110(イチイチゼロ)運動』も実施しています。最近ではお客様からも「伊藤忠さんは110ですね」と認知いただいています。
リモートワークが広がった今、業務内容によっては、在宅勤務が合理的・効率的なケースもありますが、当社では、お客様や組織内でのコミュニケーションを重視し、現場主義の徹底を基本方針としています。出社を基本とし、在宅勤務は効率性に資する場合に限り週2日までとしています。
また、日々の業務改革も欠かせません。たとえば会議体です。以前は経営会議で使用される資料は、補足説明用も含めると膨大な量に及んでいました。それだけの資料を担当者が残業してまでして作成しても、ほとんど日の目を見ることはありません。また、各組織の会議でも、発言の機会がほとんどない社員も会議に出席しており、会議が多くの時間を奪っていました。そこで、会議の数や参加人数、そして資料の削減を進めました。

飯田こうした施策に対して、社員の反発や戸惑いはなかったのでしょうか。

垣見労働組合からはフレックスタイム制度廃止への強い反対がありましたし、社員からも多くの反発がありました。それでも、何度も議論を重ね、最初は「できる限り9時に出社し、“現場主義徹底”でお客様のもとへ足を運びましょう」と呼びかける形から始めました。それを数か月続けた結果、制度そのものの廃止へとつながりました。
生活スタイルの変化や、海外のお客様との連絡対応などを踏まえると、朝型勤務の導入にもさまざまな意見や反発がありました。導入当初の数か月間は、人事・総務部が毎晩8時前に社内の各フロアを見回り、退社と消灯を促して、少しずつ定着させるべく働きかけた事で会社の本気度を感じたことと思います。

“働きやすさ”と“働きがい”の両立が大きな成果を生む

飯田先ほど「働きやすい会社」から「働きがいのある会社」へのシフトと申し上げましたが、必ずしも働きやすさを犠牲にしているわけではありませんよね。

垣見厳しさだけを求め過ぎると社員は疲弊し、会社にも閉塞感が生じます。“働きがい”を感じるには、社員が仕事に集中できる環境づくりに会社が責任を持ち、しっかり整備することが大前提です。
たとえば朝型勤務を支える施策として、朝早く出社した社員には軽食を100種類以上用意し3品まで無料で提供しています。ファミリーマートの協力を得て新商品や季節商品を提供したり、メニューも週替わりで入替えしています。早朝出勤の割増賃金も管理職を含めて支給対象としています。本社の社内診療所には複数の医師が常駐し、社員の健康維持・増進に努めると共に歯科治療やインフルエンザ予防接種に対応しています。海外出張後に空港から会社へ直行することも多いので、本社にはシャワールームを設けたり、真夏には外回りから戻った社員が体を冷やせるクールダウンルームも用意しています。
社員の集中力やパフォーマンス向上のための投資を惜しまないことで、会社の本気度が伝わり、社員も「自分も会社に貢献しよう」と考えるようになっていると思います。また成果が出ればしっかりと評価される仕組みも設けています。当社の変動給(賞与)は、会社業績連動部分と個人業績連動部分に分かれていますが、個人業績分が6割を占めており、メリハリも大きくつけています。こうした仕事に集中できる環境づくりと、成果を求める厳しさの両立が、当社の強みにつながっていると感じています。

飯田いわば“働きやすさ”と“働きがい”の両立ですね。こうした施策の効果は数字として表れているのでしょうか。

垣見連結純利益を単体従業員数で割った「労働生産性」は、2010年と比べて5.7倍に伸びました。株価も当時の800円強から、現在は9,000円を超える水準です(2025年11月取材当時。2026年1月に株式5分割を実施)。以前は削減が難しかった残業時間も、朝型勤務導入以降、着実に減っています。
ですが、こうした定量的な成果以上に成果として挙げられるのは、社員一人ひとりの時間に対する意識が大きく変わったことです。時間が限られているからこそ、その中で集中して働き、成果を出す姿勢が根付いた事が非常に大きいです。
また、早めに会社を出て、家族との時間や友人との交流、趣味、自己研鑽などの時間に充てられるようになった点も重要です。こうした働き方の変化を通じて、“働くときはしっかり働き、休む時はしっかり休む”というマインドが醸成されたことも、成果の一つだと感じています。

飯田キャリア自律や自己研鑽が求められる時代ですが、実際には「学ぶための時間がない」と感じている人も多いのが現状です。時間の捻出は個人の努力だけでなく、会社の制度設計にも関わるテーマです。その点で御社は施策によって社員の生活習慣そのものをリデザインし、時間の使い方に対する意識改革も実現されています。本当に素晴らしい取り組みだと思います。
一方で、自律的な学びの推進だけでなく、会社として組織的・先導的な学びも生産性向上には不可欠かと思います。こうした面ではどのような取り組みを進めていらっしゃるのでしょうか。

垣見有価証券報告書に記載していますが、当社は日本企業の中でも1人当りの人材育成教育費がトップ3に入る水準となっています。社員約4,000人に対して24.5億円規模を投入し、選抜研修や階層別研修、各種能力開発プログラムに力を入れています。もちろん『Udemy』も活用させていただいています。
最近はAIなど重点分野の学習プログラムも拡充されており、部門ごとや社員ごと、必要な情報や資格取得の機会を幅広く提供できていると考えています。

協力:株式会社ベネッセコーポレーション(Udemy Business)

このあと

  • 現場の反発をどう乗り越える?改革を成功させる「ぶれない経営」と継続の力
  • 時代が変わっても守り続ける、不変の企業理念「三方よし」の精神
  • 社会のニーズに合わせて柔軟に姿を変える「商人は水であれ」の哲学

について話題が続きます

PROFILE

  • 伊藤忠商事株式会社
    上席執行理事人事・総務部長

    垣見 俊之氏

    1990年慶應義塾大学経済学部卒業後、伊藤忠商事に入社。入社以来、主に人事業務(採用・評価・制度企画・労務など)に携わった後、1990年代後半からの職務職責ベースの処遇制度への抜本的な人事制度改定プロジェクトを担当。2003年よりニューヨークに赴任しディレクターとして米国・カナダの人事全般及び経営企画に従事、2007年にグローバル人材戦略の責任者として帰任。その後、朝型勤務やがん施策を始めとする働き方改革全般を担当室長として推進し、2016年に同社人事・総務部長に就任。2019年よりユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社(現、株式会社ファミリーマート)に出向し執行役員CAO(兼)管理本部長を歴任後、2023年4月に伊藤忠商事執行役員人事・総務部長、2025年4月より現職。

  • 株式会社ベネッセコーポレーション
    執行役員 社会人教育事業領域担当
    (Udemy日本事業責任者)

    飯田 智紀氏

    新卒でソフトバンクグループ株式会社に入社。経営企画・グループ会社管理、事業再生・国内外投資業務などに従事。その後、2015年9月に株式会社ベネッセコーポレーションに入社。2018年4月よりUdemy(ユーデミー)事業を中心とした社会人向け教育および組織開発関連事業の責任者となり、2024年4月より現職。

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