VOL.02
個人の想い=My Aspirationの実現を応援したい
~働き方や価値観の多様化が進む時代、進化を続ける東京海上日動火災保険の人事施策に迫る~
東京海上日動火災保険株式会社様
INTRODUCTION
全国各地に支店を持つ企業において、社命による異動・赴任は常に起こりうることです。しかし、東京海上日動火災保険株式会社では、社員の同意がない転居・転勤を廃止するという姿勢を打ち出しました。
「社員と会社は対等」、「個々の社員のキャリア観を大切にしたい」と言葉でいうのは簡単でも、こうした価値観を人事施策に反映させるのは非常に困難です。そこへ挑もうとする同社の思いや狙いは、どこにあるのでしょうか。
そこで今回は、同社の執行役員 人事企画部長・目黒誠之氏を招き、株式会社ベネッセコーポレーションの執行役員・飯田智紀氏を聞き手として、新たな施策へと踏み出した経緯と、クリアしなければならなかった課題などを解き明かします。(以下敬称略)
のべ300時間にも及ぶ議論を経てスタートした新たな人事制度
飯田東京海上日動火災保険様は、社員一人ひとりが思い描くキャリアビジョンや志である「My Aspiration(願望、大志)」を大切にする人事施策に取り組んでおられます。その象徴が総合職の社員の「同意に基づく転居・転勤制度(本拠地からの転居を伴う転勤の同意有無を毎年選択する)」。リテンションの観点で考えると素晴らしい制度だと思う一方、経営戦略的な観点では難しい施策だとも感じます。どのようなプロセスでこの制度の導入に至ったのか、お聞かせいただけますか。
目黒損害保険事業は“People's Business”といわれます。形のない商品をお客様に届けるためには、人(people)の力が重要。創業以来ずっとそこに注力してきました。しかしAIの発達・普及など社会は急激に変化しています。これからの時代、人が果たす役割って何だろう? そんな議論を始めたのが2021年のことでした。
答えのひとつが、会社の成長に必要なのは若い力だということ。そこで若手社員にヒアリングを実施したところ、「行けといわれたところへ行く」、「石の上にも3年」といった旧来型の雇用環境に対して違和感を持っていることや、自分のキャリアは自分で作っていきたいという強い思いを抱いていることが明らかとなったのです。
自分自身のキャリアをしっかりと考えてもらって、それを会社が後押しする。そんな制度にしていかないと、せっかくの優秀な社員を引き留められないのではないか。そこで、本人の同意がない転居・転勤は廃止する、という方針を2022年に打ち出したのです。
実は経営層や部長クラスからは反発もありました。知らない土地に行って、いろいろな人と出会って、慣れない環境で仕事をすることでこそ成長できる、という意見です。しかし、現代の価値観はまったく異なります。
社員の側からも懸念の声が挙がりました。各地の支店で働く現地採用の社員にとっては、本店から赴任してくる人の存在が刺激となり、成長の要因にもなっています。同意なき転居・転勤が廃止されると、うちの支店には誰も来なくなるのではないか、同じメンバーだけで何十年も働くことになるのではないか、といったネガティブな反応があったのです。
こうした課題や葛藤、その解決策などについて検討を重ね、会社としての最終的な意思決定へと至るまでに、およそ2年半、のべ300時間にも及ぶ議論を要しました。
飯田「社命による異動でこそ積める経験やキャリア」という部分について、新しい制度の中ではどのような施策で補っていくのでしょうか。
目黒各支店の社員が本店の仕事に関われる、逆に本店の社員は地方の仕事に関われる、という「プロジェクトリクエスト制度」を新たに作りました。社内で動いているさまざまなプロジェクトを開示し、手挙げ式で、自身の業務量の最大20%をそのプロジェクトに割くことができる、という仕組みです。
たとえば採用業務は本店の人事の仕事ですが、来年度の新卒採用に関する方針設定やイベントの立案などについては、この「プロジェクトリクエスト制度」で集まった人材にも加わってもらっています。本店にいながら多彩なメンバーと出会える、地方から本店の仕事を取りに行く機会を得られる、それらが刺激になる、と好評です。
これをさらに強化した、自分のやりたい仕事・部署へ完全に移籍して活躍してもらう「JOBリクエスト制度」もあります。いわゆる手挙げ式の社内公募制度で、これまでは応募100人に対して1人か2人、つまり1~2%しか実現できていなかったのですが、社員が持つキャリア自律への積極的な意識に応えるため、2030年には30%にすると宣言し、実際に昨年は10%程度になりました。
また一定のエリア、たとえば「九州エリアの転勤ならOK」という人もいますので、こうした人材の採用や異動を柔軟に進めていくことにも取り組んでいます。
ミドルマネージャーの意識改革とスキルアップが不可欠となる
飯田若手社員に自分のキャリアを考えてもらう、いわゆるキャリア自律においてポイントとなるのは、会社の成長と個人の成長をつなぐ姿勢だと思います。
中期経営計画の中で事業ポートフォリオの未来像に触れて、従来とは異なる人材が必要となる事実、また昔も今も将来においても変わらずに必要となるスキルを明示し、あなたの現在地はどこなのか、フィードバックすることが重要です。そうすることによって社員一人ひとりが、組織の中で活躍するために進むべき道筋を考えるようになるのではないでしょうか。
目黒会社のパーパスと個人のAspirationを、どう結びつけるか。これを弊社では「LINK(リンク)させる」と表現し、ミドルマネージャーがメンバーのMy Aspirationを、個々の社員が会社のパーパスを理解して擦り合わせる「LINK対話」に取り組んでいます。
その一環として年初の対話では、あなたのMy Aspirationは何ですか? どういう人になりたいと考えていますか? 将来のあるべき姿に向けて何を学びますか? といった対話を踏まえて、個人目標を5つぐらい書き出してもらい、その進捗を半期ごとに確認しています。
飯田My Aspirationを書き出し、その実現へ向けての取り組み状況を確認するわけですね。この作業が定着しているのは素晴らしいことだと思います。ただ、その前段、会社のパーパスと個人のMy Aspirationを擦り合わせる場面では、ミドルマネージャーの果たす役割が相当に大きく、制度運用におけるキーポイントとなるはずです。ミドルマネージャーの成長支援、あるいは課題感も伺いたいところです。
目黒ミドルマネージャーの対話力をどう高めていくかというのは、確かに大きなポイントです。同意なき転居・転勤を廃止するといっても、その人のMy Aspirationを考えた時に、ある場所へ行き、この仕事をやってもらうことがベストだ、というケースはあり得ます。家族や恋人と離れることになるけれど、あなたの成長に欠かせない大切な2年、3年になる。その点について納得してもらい、強制することなく、背中を押し、本人から手を挙げてもらう必要があります。
飯田そのためにはコミュニケーションスキルの開発が不可欠です。ましてや「同意なき転居・転勤の廃止」に取り組もうとすれば、ミドルマネージャーとしてはこれまでの経験をベースにした対話ができません。むしろ過去の体験や価値観を捨てる、いわゆるアンラーン(unlearn)が求められるでしょう。
経験していないこと、これまでになかった価値観、けれど次の世代のためには必要なんだと腹落ちしてもらい、まずミドルマネージャーから変化してもらう。それでこそ対話力は強化され、キャリア自律も機能するようになるのだと思います。
目黒年1回実施しているマネジメント研修では、組織ごとに全マネージャーが集い、さまざまなテーマでディスカッションします。そこには必ず「チームメンバーとの対話力をどう高めていくか」という議論を組み込んでいるのですが、どうしても同じような成功体験ばかり、しかも今後通用するかどうか、という話になってしまいます。そこで外部から講師を招き、まさしくアンラーンなどについて学ぶことにも取り組み始めています。

また、研修は終わると内容を忘れてしまう人も多く、それを防ぐためと、「LINK対話」の効果を指標化する意味も込めて、例年実施しているエンゲージメントサーベイを活用することにしました。「自身のMy Aspirationと会社のパーパス・組織の目指す姿のつながり(LINK)を感じていますか?」といった質問を追加したのです。
これによって、マネージャー自身は「できている」と思っていても部下の側は「うまく会話が進んでない」と感じたりなど、ミドルマネージャーの対話力が可視化されることになります。各マネージャーには、このサーベイ結果を受けての感想や「今後どうしていくか」を必ずメンバーに発信してもらい、改善計画も作ってもらうことにしました。さらに去年からはこのサーベイ結果をマネージャー間で共有することも始めています。
効果は劇的で、各ミドルマネージャーはかなり刺激を受けて、本気で「LINK対話」に取り組む人たちが増えたという実感があります。
協力:株式会社ベネッセコーポレーション(Udemy Business)
このあと
- 研修を形骸化させない「エンゲージメントサーベイ」活用
- 新しい人事制度を推進するなかでも忘れてはいけない「人事の姿勢」
- データ活用・HRテックの導入がポイントになるなか、大事にしたいアナログの存在意義
について話題が続きます
PROFILE
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東京海上日動火災保険株式会社
執行役員 人事企画部長目黒 誠之氏
1998年、東京海上日動火災保険株式会社に入社。その後、グループ会社の東京海上日動あんしん生命への出向や長崎支店への転勤、人事部・経営企画部などでの勤務を経て、東京海上ホールディングス事業戦略部にて、新規事業開発に従事。現在は、東京海上日動火災保険の人事企画部長として、人事政策全般を指揮する。100年後もお客様の「いざ」をお守りするため、人事制度・運用変革やDE&Iの推進、エンゲージメント向上の支援などに尽力している。
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株式会社ベネッセコーポレーション
執行役員 社会人教育事業領域担当
(Udemy日本事業責任者)飯田 智紀氏
新卒でソフトバンクグループ株式会社に入社。経営企画・グループ会社管理、事業再生・国内外投資業務などに従事。その後、2015年9月に株式会社ベネッセコーポレーションに入社。2018年4月よりUdemy(ユーデミー)事業を中心とした社会人向け教育および組織開発関連事業の責任者となり、2024年4月より現職。
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