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AI時代のコンセプチュアル思考[5] ~物事に意味づけ・価値づけをする力

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2026年08月26日

AIが協働パートナーとなる時代、人間に残される思考は「コンセプチュアル(概念的)思考」になる。それはつまり──雑多な出来事・情報から本質を抜き出し、概念を形成する。客観的認識にとどまらず、主観的意志(信念・理念)を行動に変える。そのコンセプチュアル思考における5つの基本スキルについて拙著『入門コンセプチュアル思考』からサマリー解説する。今回はその5つめ──「意味化」のスキル。

仕事・事業にどんな意味や価値の背骨を通すか

事業現場では、個人も組織も日々「目標」の達成に向かって走っています。例えば──「今期売上高は●●円を目指す!」「対前年度●%の利益アップ!」「市場シェア首位奪還!」など。これら数値目標は職場にあふれています。

目標に対し「目的」という概念もあります。目的はより大きな概念で、それをなぜやるかという意味を含んだものです。意味とは「意(こころ)の味わい」と書きます。また、意味の下地には理念や信念といったものがあります。こうした精神的価値が目的のなかに含まれています。

しかし自分にとっての精神的価値を考え、それを研ぎ澄ませていく作業はむずかしい。それを具現化するための行動はさらにむずかしい。そのため、私たちはややもすると与えられた目標に働かされることに慣れきってしまい、目的や意味を考えることをしなくなります。

自分の仕事・職業に、そして担当する事業にどんな意味や価値の背骨を通すか──。これこそAIではなく、人間でしか答えの出せない深い問いとなりますが、コンセプチュアル思考はこの「意味化」の作業を扱う思考です。

事業を価値次元でとらえる

私たちはみずからの事業を考えるとき、まずは具体的次元からみはじめます。機能や仕様(スペック)はどうか、価格はどうか、デザインはどうか。そして競合他社と比べて、それらの項目で優位に立っているか、など。

確かにこれら現物的、技術的、実務的なことをどう処理していくかは重要ですが、その次元に留まっているかぎり、その事業は小さな枠のなかで縮こまるリスクがあります。そうならないために私たちは価値次元に目線を上げ、事業をとらえる必要があります。

入門コンセプチュアル思考 抽象要素 具体要素

経営学者のピーター・ドラッカーはこう言っています───

「ガスレンジのメーカーは、競争相手は同業他社と考える。しかし、顧客たる主婦たちが買っているのは、レンジではなく料理のための簡単な方法である。電気、ガス、石炭、木炭のいずれのレンジであろうと構わない」。

そう、消費者が求めているのは「熱調理の簡便化」という価値であり、それが最終目的です。ガスを使おうと電気を使おうと、炭だろうと、それは手段です。

事業の主目線を抽象次元・目的に置くのか、具体次元・手段に置くのか、これによって事業の発想や手立て、世界観は大きく異なってくるでしょう。

入門コンセプチュアル思考 ドラッカー 提供価値

最高級ホテルブランドの1つであるリッツ・カールトンにとって競合は、他のラグジュアリーホテルにかぎりません。彼らが事業目線を「ぜいたくで上質な心地」という価値に置くとき、競合はスポーツカーやエステサロン、高級腕時計にまで広がってきます。そのように目的とする価値から事業や市場をながめると、そこには異なった景色が現れてきます。

入門コンセプチュアル思考 提供価値 ラグジュアリーブランド

トヨタ自動車は近年、自社のアイデンティティーについて大きな更新をしました。すなわち、製造業から「モビリティカンパニー」への脱皮を宣言したのです。 

かつて同社は「故障が少ない、燃費がよい、お手頃価格」という価値を本質として引き抜き、その結論としてエコノミーカーをつくって売りました。昭和時代の製造業として、そのように具体次元に寄った価値抽出は当然のものでした。しかしいま、引き抜く本質的価値を「モビリティ」としたのです。となると、売るべきはモビリティのサービスとなります。

入門コンセプチュアル思考 トヨタ 価値の抽象

人が便利に移動できること───これがモビリティの価値です。この価値提供を事業として具現化する業種はいろいろ出てきます。自動車メーカーはもちろん、バス会社、タクシー会社、鉄道会社から、駐車場会社、地図会社、そして電車乗り換え探索アプリ開発会社などまで。

入門コンセプチュアル思考 提供価値 モビリティ

こうしたさまざまな業種が参入するモビリティ産業において、どこが支配的な立場でビジネスをすることができるでしょうか。それはモビリティ価値を統合化してサービス提供できるプラットフォームを構築したところです。自動車メーカーはよい品質のクルマをつくっていればよい、バス会社は安心・安全な輸送サービスをやっていればよい、といった具体次元に硬直的に留まってしまうと、モビリティ産業を手段提供として支える側(いわば供給側)に組み込まれてしまうでしょう。

目的となる本質的価値をつかみ、プラットフォームを構築し、そこに供給業者を組み入れ、顧客を囲い込むところがビジネスの勝者となる時代が来ています。

入門コンセプチュアル思考 モビリティ価値 プラットフォーマー


思考ワークチャレンジ ~中核的価値の抽出トレーニング 

それでは、価値を引き抜くトレーニングをやっていきましょう。世の中にはいろいろな職業、職種、業界があります。それらは何かしら具体的なモノやサービスを売っています。しかし、そこで思考を止めてはいけません。そのモノやサービスは最終的に何の価値をユーザー/購買客に届けているでしょうか──?

【ワーク概要】
下のワークシートを使用。
〈記入①〉特定の職業・職種・業界をピックアップし、
〈記入②〉それが売っている具体的なモノ/サービスを書きます。
〈記入③〉そして、その売っているモノ/サービスの中核にある価値が何であるかを考えてください。

入門コンセプチュアル思考 価値抽出ワーク


このワークに対し、私が主宰する「概念工作塾」の受講生たちがどんな答えを出したか。その一部を下に掲示します。

入門コンセプチュアル思考 価値抽出 答案例a
入門コンセプチュアル思考 価値抽出 答案例b



変化の時代を生き抜くために「不変の軸」が要る

私たちはいま、変化の時代に生きています。ましてやその変化はますます加速し、複雑化し、あいまいで不安定になっています。そんな外部環境に対応するために、当然私たちは変化を試みる。知識や技術を変えていく、組織や市場・顧客の要求変化に対し、出すべき成果(物)や表現(物)も変えていく。そのためにKPI(重要業績評価指標)など、数値目標を綿密に立ててその達成を目指す。

たしかにこれらの対応は重要ではあるものの、これらは表層/処し方における対応です。これだけに追われていると、結局、相対的な競争に終始するだけで、独自の世界を構築できず、漂流し、埋もれてしまいかねない。

そうならないために私たちは深いところで不変の軸を持たねばなりません。その変えない軸こそ、抽象次元のものであり、在り方であり、目的的なもの(意味や価値、想い、世界観の実現)といえます。

入門コンセプチュアル思考 変化と不変

自分/自組織にとってその変えざる軸が何であるのか──それを言語化してつかむ内省ワークの1つが「提供価値宣言」です。

入門コンセプチュアル思考 提供価値宣言

さて、あなた自身、そしてあなたの所属する組織は、何の価値を世の中に届ける存在でしょうか──? 

日々行っている雑多な業務、そして日々販売している製品・サービスの根底にあるのは、どんな価値なのか。その価値の抽出は、深いところにまなざしを向ければ向けるほど、不変で普遍のものがみえてくるでしょう。と同時に、意志が行間からわき出してくるはずです。こうした不変の基軸を持てばこそ、悠然と、確信を持って変わることもできるのです。

いわずもがなですが、こうした内省の思考は生成AIツールが答えを出してくれるものではありません。AIツールに思考の補助をさせることはありますが、意味や精神的価値、目的を見出し、肚に据えるのは自分自身の作業になります。

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