AIが協働パートナーとなる時代、人間に残される思考は「コンセプチュアル(概念的)思考」になる。それはつまり──雑多な出来事・情報から本質を抜き出し、概念を形成する。客観的認識にとどまらず、主観的意志(信念・理念)を行動に変える。そのコンセプチュアル思考における5つの基本スキルについて拙著『入門コンセプチュアル思考』からサマリー解説する。今回はその2つめ──「モデル化」のスキル。
コンセプチュアル思考の基本スキルとして2番目に紹介するのは「モデル化」です。モデル(model)とは模型を意味します。世の中で起こる事象や経験をそのままとらえるには複雑すぎることがよくあります。また、目に見えなかったりするので、他者と共有することがむずかしいことも多い。そんなとき、物事の構造や仕組み、関係性などを単純化して模型のように表し、とらえやすくすること。それが「モデル化」です。

モデル化して考えるというと少しむずかしいことをやっているように感じますが、私たちはふだんの仕事現場でよくやっています。
例えば、売上げがなかなか上がらない状況に接しているとき、漫然と対策を考えるのではなく、売上げをつくる要因をツリー化して押さえ、どこに重点的に手を打つか議論します。そのツリー図起こしがモデル化して考えるということです。

同様に、生産性を上げようとするとき、工程を分けてながめ、そこにある因果関係を取り出して適切な対応策を考えます。そういった全体をプロセスに分ける、因果関係を押さえるというのもモデル化です。

また、市場参入するときに市場を漫然とながめるだけでは手の打ちようが見えてきません。そんなとき、2つの軸を切って全体を4つの象限に分けて市場を概括することが必要です。
4象限チャート上で参入企業の分布をながめ、自社の狙う位置を考える。あるいは参入プレイヤーのタイプを4つに分け、自社のタイプを決める。そんなときにこのモデル化作業は役に立ちます。

さらには、集客や課金の仕組みを整え、利益が取れる構造を発明するビジネスモデル構築もモデル化の1つです。

このように、コンセプチュアル思考においてモデル化とは、抽象次元に上がって物事の仕組みを単純化して表すスキルといえます。そのとき、構造や関係性をひと目で把握し、他者にも伝えやすくするためにチャートやグラフ、概念図といった図的表現を用います。図的表現を用いることの利点は次のようなことがあげられます。
○ 量の把握、変化・プロセスの把握が比較的容易になる
○ 構造の把握、位置の把握が比較的容易になる
○ 言語の壁を越えてコミュニケーションできる
○ イメージ的な思考を促進する
○ 複数の人の間で共通の理解イメージを持てる
○ 記憶に残りやすい
○ 一括してながめられる(文章や音声情報は順次的に受け取らねばならない)
……など
ではここで、物事を図的に類型化する思考ワークをやってみましょう。モデル化の題材は「仕事の報酬」です。下の2つのステップで行います。
【作業】
〈1〉「仕事の報酬」として思い浮かぶものをいくつもあげなさい。
〈2〉それら仕事の報酬を類型化し、1枚の図(絵)にまとめなさい。
「報酬」という言葉を辞書で調べると「労働に対する謝礼のお金や品物」などと出てきます。このワークでは報酬の意味をもう少し広げて、「仕事をやった後に(ごほうびとして)得られるもの」とします。
まずは作業1です。これはブレーンストーミング的に、カード大の付箋紙を用意し、そこに思いつくものをどんどん書き出します。下に並べたように、おそらくいろいろなものが出てくるでしょう。

さあ、あなたならこれらの「仕事の報酬」の素材をどのように構造化し、1枚の絵図で肚落ちしやすいように表現するでしょうか──。
ではまず、モデル化の典型的な答案を1つ紹介しましょう。ヨコ軸に「物質的な報酬/精神的な報酬」、タテ軸に「自分でためるもの/他者から受け取るもの」を取り、2軸平面図としてまとめたものです(下図)。
4象限の各所に類型化された報酬群が配置されています。軸を切る目線も根源的なところに下りていっていますし、類型化も適当です。これくらいできれば、及第点といったところでしょうか。

その他、メタファー(比喩)を用いる図も有効的です。答案例[2]はヒト、答案例[3]は樹木をメタファーとして、報酬群をいろいろに当てはめています。こうした身近なものになぞらえる図は注目されやすく、記憶に残りやすい、肚落ちしやすいという利点があります。
さらに答案例[4]は、利己/利他という独自の軸に加え、ライフワークと対になる「ライスワーク(コメの仕事=食うための仕事)という言葉選びが効いています。そして中央に置いた「すべての報酬は自己成長に通じる」というコアメッセージが効いていて、全体として思考の強さがあります。

このように、「仕事の報酬」をモデル的に絵図で表現することで、自分の内にそれを概念として明瞭かつ構造的に収めることができます。と同時に、複数の人間の間で概念イメージを共有するときもこうしたモデル化した絵図はひじょうに有効です。
さてここで補足的に、図的表現について簡潔に触れておきましょう。コンセプチュアル思考においては、図的な表現形式として次の2つのカテゴリーを考えます。
Ⅰ. データを図化する表現
Ⅱ. 概念を図化する表現
まずカテゴリーⅠは、統計図表でよく使われるグラフやチャートといった表現形式です。データ数値を幾何学的な図形に変換することによって、量的な把握、変化的な把握がしやすくなります。
それに対しカテゴリーⅡは、その物事がどんな構造や仕組みを持っているのか、どんな概念・意味であるのかを図化する形式です。要素を意味のあるように配置したり、階層で分けたり、因果関係でつないだり。あるいは、流れを示したり、類型化したり、ときに比喩を用いて表現する形式です。
さて、そこでこの2種の図的表現を「図解」と「図観」というキーワードを使って、深掘りしていきましょう。それをまとめたのが下図です。

左側に置かれる図的表現は、データを忠実に客観性をもって図に変換するものです。すなわちカテゴリーⅠ的なものです。地図をはじめ、統計図表に用いるチャートやグラフ、楽譜がこれにあたります。機械的モデル図(例えば、家電製品の取扱説明書の図など)もどちらかといえば左寄りです。
そこから右側にいくにしたがい、概念の視覚化へと移っていき、図として表現するものが物事の意味や本質の姿というものになります。これらはカテゴリーⅡに属するものです。この典型は概念的モデル図(例えば、先のワークで起こした「仕事の報酬」の図)です。そこには必然的に図を起こす人の独自の解釈や観が入りはじめますが、それはいっこうにかまわないことです。
概念の視覚化が行き着くところには、宗教画の極みであるマンダラや禅画、抽象アートといった表現形式があります。時空を超えて残ってきたマンダラや抽象アートは、万人が理解しえないという意味では客観的ではありません。が、観ることのできる人が観れば、それはおおいなる真理を表現していて、人を引きつけてやまないものになります。
昨今では情報を図化したものに総じて、「図解」とか「インフォグラフィックス(info-graphics)」といった言葉が当てられるようになりました。しかし、ここではそこをもう一段細かくみたいと思います。
すなわち、概念図やマンダラなどは、図解的というよりも「図観」的といったほうが近いものです。図解は、言ってみれば「図でやさしく事実を解く/図を通して実態が解る」ことです。他方、図観は「図で物事のとらえ方(=観)を示す/図を通して本質を観る」ことといってよいでしょう。
両者は図化する素材(データ的なものか、概念的なものか)も異なりますし、目的性(プレゼンテーション寄りか、思考の深化寄りか)も異なります。客観を求めるか、主観でよいとするかという点も異なります。
また、定量的データを客観的にチャートやグラフに変換する作業は、昨今の生成AIツールがいとも容易にやってくれるでしょう。しかし、物事の本質的な姿を主観的に浮かび上がらせる図観的表現となると、そこには解釈や観、意志が入るがゆえに、人間が洞察的に創造するものといえます。