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AI時代のコンセプチュアル思考[1] ~物事を定義する力

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2026年08月16日

AIが協働パートナーとなる時代、人間に残される思考は「コンセプチュアル(概念的)思考」になる。それはつまり──雑多な出来事・情報から本質を抜き出し、概念を形成する。客観的認識にとどまらず、主観的意志(信念・理念)を行動に変える。そのコンセプチュアル思考における5つの基本スキルについて拙著『入門コンセプチュアル思考』からサマリー解説する。今回はその1つめ──「定義化」のスキル。

持つべきは「知識の量」から「概念のゆたかさ」へ

今日、私たちは「知識量」というものをきわめて重要視しています。すなわち、情報や知識を多く取り込み、状況に応じてそれらを素早く操作できることが賢いことであり、人生・キャリアの成功にもつながるという思い込みがあるわけです。

また、情報や知識を消費する時代にもなりました。SNSやビジネス広告の世界で次々に湧き出しては消える流行語・バズワード。日々加速を止めない科学の発達によって更新される知見や技術。私たちはそうした変化の絶えない情報や知識に対し、一面ではそれらを刺激物として求め、また一面ではそれらを見過ごすことへの恐怖を感じています。いずれにせよ、情報や知識の多量摂取が常態化しているのが現代生活の特徴です。

そのために私たちは「あ、その情報なら知っているよ」「その知識ならすでにインプット済み」となれば、その時点でもうその情報や知識に関心をなくします。そしてまた次の新しい情報・知識狩りに目を向ける。

コンセプチュアル思考は、こうした知識量偏重の流れに1つの提起を行うものです。すなわち1つの物事について、それを断片の知識としてアタマで“さくっと(軽く)”覚えるのではなく、ゆたかな概念として肚で“どっしりと(分厚く)”つかむことを目指します。

例えば「成長」という言葉があります。この言葉の意味は中学生以上であればだれでも知っているでしょう。ちなみに『広辞苑 第七版』では、成長とは「育って大きくなること。育って成熟すること」とあります。しかし辞書的な意味を知識として持っているからといって、その言葉をゆたかに概念として肚に落としているかどうかはわかりません。

下に掲載したのは、私が実施しているコンセプチュアル思考ワークショップで、「成長とは何か」を自分の言葉と絵図で定義してみようという設問に対する参加者からの答案の数々です。「成長」という一見わかりきった言葉、知ったつもりになっている単語を、どうゆたかに概念として保持しているのかが試されます。

成長とは何かを定義する図

フランスの作家マルセル・プルーストはこう言いました───
「発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目をもつことだ」。

流れゆく多量の情報・知識に振り回されることなく、1つの概念を深く、分厚く起こし、それを基軸として情報や知識を肉付けしていく。そうした人間側が独自に起こす概念的な思考の軸があればこそ、AIツールは強力な武器になります。

基本スキル[1]定義化 ~物事の本質をつかみ表す

コンセプチュアル思考の基本スキルとして磨きたい1番目は「定義化」です。定義とは「●●とは□□である」と簡潔に言葉で表すこと。その作業に実際じっくり取り組んでみると、とてもむずかしいことに気づきます。しかしこの定義という作業に取り組むことにより、物事のおおもとにまなざしを向けることを学び、本質をつかもうとする思考態度が身につきます。そして自分の言葉で凝縮して表現しようとアタマの汗をかきます。

定義を行う際の中核になる作業は抽象です。抽象の本筋の意味は「引き抜く」。物事から何を本質として引き抜いてくるか。ここが概念的に考える力の基礎になります。

言葉の定義なら辞書を見ればすぐそこに答えが出ているではないかと思われるかもしれません。しかし辞書が示すような客観的定義ではなく、自分自身の本質をみる目と、独自の言葉で主観的定義をする力こそが重要です。

ではここで、私が研修・ワークショップの場でやっている「定義化」ワークを紹介しましょう。定義する概念は「仕事」です。ワーク概要とワークシート、記入例は下のとおりです。

[ワーク概要]
1)これまで自分(あるいは他者)が行ってきた仕事/業務/職業についての体験・
 出来事・見聞などを思い浮かべてください。
2)「仕事とは何か」「仕事についての解釈」を自分なりの言葉で表してください。
 (できるだけ端的な表現で)
3)その定義をふまえ、仕事とはどういうものであるかを図や絵で表してください。
4)自分が行う仕事を持続的に進化・深化させていくための行動習慣としてどのよう
 なことが考えられるでしょう。 

コンセプチュアル思考ワークシート

さて、このワークに対し、実際のワークショップではどんな答えが出てくるでしょう。下に紹介するのは、私の主宰する「概念工作塾」で受講者たちが出してくれた答案の一例です。

コンセプチュアル思考ワークショップでの答案1
コンセプチュアル思考ワークショップでの答案2

いかがですか。「成長」という概念の解釈・把握イメージが十人十色でゆたかに広がっていることがわかります。

では、このワークの設計意図を紹介しておきましょう。下図のとおり、作業1→作業2→作業3→作業4の一連の流れを私は「π(パイ)の字思考プロセス」と名づけています。

コンセプチュアル思考のΠの字思考プロセス

「πの字思考プロセス」は、抽象化→概念化→具体化の流れになります。流れの起点は、日々の生活のなかの雑多な経験や出来事を見つめること。そこから本質を引き抜いて、言葉で定義します。さらには絵図で描いて、肚に落とします。この過程を通じ、概念が明瞭に強く形成されます。そして最後に、つかんだ概念を抽象次元で終わらせないよう行動・実践に変え、具体次元に下りていく。

Πの字思考 具体と抽象の往復

そしてその行動・実践によって気づきが生まれます。気づきは新たな経験として蓄積され、次の新たな抽象化へとつながっていく。

そのように具体次元と抽象次元とを何度もぐるぐると回るほどに「観」が醸成されてきます。このプロセスの回し方の「強い/弱い」「厚い/薄い」「大きい/小さい」「バランスがとれている/偏っている」などによって、醸成される観に個人差(というか個性)が出てきます。

コンセプチュアル思考 観がつくられるプロセス

「抽象化→概念化→具体化→気づき→(新たな)抽象化」を強力に回していくことで、堅固な観が醸成されていきます。「ぶれない軸」が立ち上がってくるといってもいいかもしれません。

それはまさに「ジャイロ効果」ともいうべき、回転すればするほど目に見えない自転の軸が立ち上がる現象に似ています。

コンセプチュアル思考 ぶれない軸の醸成

このように概念的思考の基本はものごとの「定義化」です。定義する力は概念形成・観の醸成に強く関わり、「内なる羅針盤」づくりにつながるものです。

さて、こうしたものごとを定義するワークをAIツールにやらせることはじゅうぶんに可能です。そして実際、AIツールはいろいろな答えを出してくるでしょう。しかし何でもかんでもまずAIツールにきいて、AIツールが出してきた答えを「ほほー、面白いのが出てきた」といってそれを鵜呑みにして、毎度使い続ける人はどうなるか……。おそらく自分の内に羅針盤ができず、働くうえで、そして生きるうえで、基軸を持たずに漂流してしまうリスクを抱えることになるでしょう。

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