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持続する組織は教育の目的を理解している

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2014年08月06日

◆「社会人基礎力」のうち不足する能力を尋ねると?

「教育」は人が要となる持続可能な組織を語る上で外せないテーマです。ゆくゆくは自社を持続可能な組織へと牽引してくれる人物に育ってくれることを願い,各社各様の教育を行います。では,「どのような教育を行うのか?」という視点で,若手社員に対する「求める人物像」と「不足している能力」について触れてみたいと思います。

経済産業省は「社会に出てどのような仕事に就いても求められる必要な能力」として,特に若者に求める能力を「社会人基礎力」に定義しています。ここに整理された12の能力要素の充足ぶりを企業に尋ねた調査では,約半数の企業が「主体性」の不足を挙げました。続いて「課題発見力」の不足が43%,「創造力」「働きかけ力」の不足が30%台となりました。そして図表1 に示したように,東証一部企業では「働きかけ力」「ストレスコントロール力」の不足が多くの企業から挙げられており,また,中堅・中小企業では,大企業よりも「実行力」「計画力」「柔軟性」の不足が多く指摘されました。上記から考えれば,不足している能力を補うための教育の実施が最良と思われます。またはこれら不足する能力を教育して満たされた人物こそが「求める人物像」となります。

◆持続可能な組織のとるべき 教育方針とは?

しかし,現実はそんなにシンプルではありません。先ほどの調査で「求める人物像」と「不足している能力」との関係を調べた結果では,求める能力と不足している能力は必ずしも一致しているわけではありませんでした(図表2 )。

それは企業が業務を行うために必要となる能力から逆算して,求める能力を設定しているからです。仮に「規律性」が望まれるなら「課題発見力」よりも「柔軟性」よりも「規律性」の教育が優先されるべきです。それを実行できる会社は“持続可能な組織”といえるでしょう。

組織の持続可能な成長を視野に入れるとき,短命な使い捨ての「道具」にしてしまうか,将来の会社を背負う「人」として育てられるか,その差はケタ違いです。

◆教育の目的と手段の 本末転倒に注意

先の図表2 で無視できない点は,最も求められている能力の「主体性」が,最も不足している能力の「主体性」と同じであることです。世の中には若手社員に限らず社会人の主体性を鍛える教育コンテンツがたくさんあります。裏返せば,それだけ需要があることを物語っています。

事実として,ある会社では主体性を身に付けるために多額な金額と多大な時間を投じて教育を行っています。「これでもか!」「もっとだ!」「まだダメだ!」と毎年,繰り返し繰り返し実施していること自体は素晴らしいのですが,いっこうに目に見えた変化や成果が上がってこない会社でした。ふと疑問に思い,「どのような主体性を持った社員になってもらいたいのですか?」と,その会社の教育担当者へ聞くと,「一人ひとりが創業者のように自主的で自律的な主体性を持つことが理想です」とおっしゃいました。私は間髪入れずに「創業者のような自主的で自律的な主体性とはどのような考えを持ち,どのように行動すればいいのですか?」と聞き返しましたが,担当者は即答できず窮してしまいました。それは教育の目的と手段が入れ替わってしまったことを露呈しているのと同様です。

「主体性」という旗印は抽象的で都合のよい言葉です。しかし,義務的なルーチンの研修によって主体性が身に付くでしょうか。また,主体性を身に付ければ誰でも創業者のような人物になれるのでしょうか。その主体性の意味する理由や背景を忘れ,形骸化したトレーニングに若手社員を巻き込んできたとすれば,担当者の責任は重大です。それは,教育が目的に変わってしまった悪い例といえます。一方,持続可能な組織・人事に限れば,教育の目的と手段が逆になり,社員を迷走させてしまうようなことは一切ありません。

◆自社の教育がズレていないか 簡単に判別する方法

もちろん,このような過ちは皆さんご承知なのですが,それでも珍しい話ではなく,よく散見されます。自社の社員が迷走していないか心配でしたら実験をしてみて下さい。方法は,12ある社会人基礎力のなかから自社がいちばん求める要素について若手社員と管理職の2 人に少し突っ込んで聞くだけです。例えば,「主体性って何ですか?」と。「主体性とはどのような考えを持ち,どのように行動することですか?」とヒントを加えても構いません。

会社によって回答が違うことは想定できます。また同じ会社内であっても職種の違う人に聞けば見解が変わるでしょう。

私はある会社の営業職の若手と管理職にインタビューをして驚いたことがあります。

入社2 年目の若手営業は「主体性とは,決められた時間内で言われたことを無心に頑張ることです!」と答えました。そして営業部門の管理職からは「自ら課題を設定し,その課題を解決するために必要な社内外のパートナーに協力を要請し,率先して取り組むこと」との回答を得ました。

この2人はそれぞれがソリューション営業としてお客様を担当しており,その求められる要件は役職や階級によって変わりません。もちろん「主体性」に込められた思考と行動の要素も大きくは違いません。ではなぜこのようなことが起こるのでしょうか? 上記の会社では教育の実施が目的になってしまっていたからです。

OJTに代表される現場教育も,OFF-JTで括られる集合研修も,横文字と数字で理論武装されたコンサルティングもすべてある目的を遂げるための手段であることを人事部門は決して忘れてはいけないのです。

 

※本記事は2013年5月時点の記事の再掲載となります。

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