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五輪の新種目「年金の重量挙げ」で日本が落選?

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2014年08月28日

マーサー ジャパン株式会社   年金コンサルティング コンサルタント  キャリック ケン

東京オリンピック・パラリンピック開催により「おもてなし」ブームに火がつくも、その盛り上がりは老若男女を問わず人気が爆発した「じぇじぇじぇ」と「倍返し」には遠く及ばなかった気がする。サービス大国とも呼ばれる日本において、できて当たり前のおもてなしは大きなブームにはならないだろう。かつてケニア出身の環境保護活動家、ワンガリ・マータイ氏が日本の「もったいない」精神を世界に広めたときと通ずるものがある。日本では至極当然でも世界からみると賞賛に値する。五輪に「おもてなし」と「もったいない」精神を競う競技があれば、日本は金メダルの最有力候補になるだろう。

こうした強みがある一方、日本の弱みといえば問題が山積みとなった年金制度である。世界各国の年金制度を「十分性 」、「持続可能性 」、「健全性 」の3視点で比較したグローバル年金指数ランキング(マーサー・メルボルン・グローバル年金指数*1)が10月7日に発表されたが、日本は20カ国中17位という残念な結果となった。日本は3視点のいずれにも低評価をつけられたが、特に評価が低かったのは持続可能性の項目だった。その起因となるのは年金制度が創設された当初から予想以上に進む少子高齢化。皆さんも一度は図1をご覧にはなっているだろう。

つぼ型とも言われるこの形は、若くなるにつれグラフがすぼんでいく。最近は上昇傾向にはあるが、日本の出生率(一人の女性が産む子供の数)は1.39*2と、世界と比べるとかなり低い。さらに 日本は長寿大国でもある。医療技術の発達や、栄養価の高い食生活によって平均寿命はいまや女性で86.4歳、男性で79.9歳である。
*2 厚生労働省 「平成25年我が国の人口動態(平成23年までの動向)」この分布を現役世代(15歳~64歳 ※)と高齢者(65歳以上)の割合で考えると、高齢者1人を現役世代2.6人が支えていることになる。
※ 15歳は労働者として雇うことが出来る最低年齢。65歳は厚生年金の支給開始年齢。出生率が高くなれば、高齢社会を支える人材が増え、国の年金制度の持続性としては健全な方向に進む。しかし出生率は政策の一つや二つで高くするのは難しい。ましてや日本の出生率を高くするために子を産む親はいないだろう。
しかも出生率が上昇したとしても、その影響が現れるのは生まれてきた子供が大きくなる数十年単位の時間が必要である。その間にも現役世代が支える高齢者の数は増え続けていく。厚生労働省が発表している死亡率*3をもとに7年後(2020年)の人員分布を試算してみた(図2)。2013年の分布と比較して、増えた部分を緑色、減った部分を赤色で表しているが、かなり赤い部分が多いことが分かる。ちなみに出生数を加味していないため、7歳未満は表示していない。
*3 厚生労働省 「第21回生命表(完全生命表)」

7年後になると、高齢者1人を現役世代2.1人が支えている結果となった。これがさらに8年後(今から15年後)になると1.9人にまで落ちる。
先ほどの年金指数の調査では、日本の制度の年金指数を改善する方法の一つに「公的年金制度の支給開始年齢の更なる引き上げ」を挙げている*2。
*2 厚生労働省 「平成25年我が国の人口動態(平成23年までの動向)」厚生年金の支給開始年齢を現状の65歳から68歳に引き上げる案が検討されていたが、現段階では「中長期的課題として考える必要がある」にとどまっている*4。
もし「高齢者」の定義を65歳以上ではなく、68歳以上とした場合、分析上は2020年時点で高齢者1人を支える現役世代の人数は2.1人から2.6人に増える。現状と同じぐらいの負担を維持できることが分かる。
*4 第20回 社会保障制度改革国民会議「報告書」五輪で「年金の重量挙げ」が正式種目となった場合、日本は重いバーベル(高齢者の数)を少ない筋力(現役世代)で持ち上げることになる。グローバル年金指数ランキングでも分かるように日本はメダルどころか、参加することすら危うい位置にいる。7年後の東京五輪を目指すスポーツ選手同様、現状の問題点を把握し、今のうちに今後の計画を立てる必要があると考える。 
※本記事は2013年11月時点の記事の再掲載となります。

マーサー ジャパン株式会社  年金コンサルティング コンサルタント   キャリック ケン

kenマーサーにおいて国内外企業の退職給付債務計算や退職給付制度改革、年金ALM等に参画。
退職給付サーベイを担当。
ニューヨーク大学院数学専攻修了。

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