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第5回 若年アルバイトはなぜ1日で辞めてしまうのか? ~定着のための面接・受け入れの工夫~

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2014年04月04日

若年アルバイトに対して、「期待しているのに、1日や数日で急に辞めてしまう人が多くて困っている」と悩んでいる採用担当者は多い。彼らはなぜ短期間で辞めてしまうのか。また、そんな若年アルバイトを辞めさせないようにするにはどんな工夫が必要なのか。
若年雇用に詳しい柘植智幸氏にお話をうかがった。

 

■同じ「厳しい」も、企業とバイトの間で温度差

なぜ若年アルバイトはすぐに辞めるのか。

その一番の理由は、事前に聞いていたよりも仕事が厳しかったり、想像と違っていたりすることです。

そう聞いて、「面接で厳しいと伝えているし、本人もわかりましたと答える。最初から厳しいことは納得しているはずなのに……」と思う採用担当者が多いかもしれません。

しかし、企業の言う「厳しい」と若年アルバイトの受けとめる「厳しい」には、大きな温度差があったりします。こちらが思う「厳しい」度合いが、彼らに伝わっていないのです。

企業側は業績を上げるため毎日必死です。特にコスト削減で人員に余裕がない場合など、アルバイトに対しても「早く一人前になってほしい」「早く仕事を覚えてほしい」と要求しがち。また昨今は、店員の態度への不満など悪い噂はすぐにネットなどで広まってしまうため、お客様からのクレームに敏感に反応し、アルバイトがちょっとでもミスをすると怒鳴ってしまう店長さんが増えています。

一方、特に学生のアルバイトなどは社会経験がほぼないため、事前に「厳しい」と聞かされていても、その度合いがわかりません。しかも、アルバイトの立場である自分が、難易度の高い仕事を任されたり、そんなに怒られたりするとは思っていない場合が多い。したがって、自分ではちょっとしたミスと思うことで叱られたりすると納得がいかず、「そこまで言われて頑張るつもりもないので…」と、すぐに辞めてしまいます。特にアルバイトの場合、正社員に比べると、また次を探せばいいと思いやすいので、決断が早く躊躇がないのです。

 

■若年アルバイトを辞めさせないポイント

<面接での工夫>

では、彼らに長く勤めてもらうためにはどうすればいいのか。
まず、面接での工夫からお話しましょう。

・面接の時点でスタンスを具体的に伝える
面接時、どの店長さんも「うちはアットホームな雰囲気だし、何かあれば僕がカバーするから大丈夫」と店舗の良い点は伝えておられると思います。これはもちろん大事なことです。しかし、若年アルバイトが辞めてしまう多くの理由は、クレームが生じたり、彼らが何か失敗するなど、うまくいかなかった時のフォローに不満が生じるからです。ですから、面接の段階で、次のように伝えておくことをお勧めします。

「のびのび働いてほしい。ただ、うちは客商売なので、君がお客さんに対して何か失礼なことをしたり、お客さんからクレームが入りそうなことがあったら、そのときは厳しく叱るよ。同じミスを繰り返してほしくないから。ただし、それはあくまで君に成長してほしいからであって、君という人格を否定しているわけではないからね」

こんな具合に、事前に「どんな時にどんなふうに厳しいのか」を明確にして伝えておくわけです。そうすれば、注意されたり叱られたりしたときに、なぜそう言われたのかを自分なりに納得できるようになるため、すぐに辞めたりはしなくなるでしょう。

・面接にアルバイトリーダーも同席させる
面接の場にアルバイトリーダーもしくは、アルバイト教育担当の社員を立ち会わせ、どの人がいいか選ばせるのも一つの方法です。なぜなら、店長が採用をしても、実際に新人アルバイトに仕事を指示するのは、アルバイトリーダーや若手社員であることが多いからです。採用段階から彼らの意見を取り入れれば、自分で選んだ人材ということで、責任感が芽生え、新人アルバイトの面倒をよく見るようにもなります。

面談に立ち会ってもらうのが勤怠ルール上難しければ、アルバイトリーダーがシフトに入る日の仕込み時間などを狙って面接を行い、応募者が帰った後、そばで様子を見ていたアルバイトリーダーに「どう思った?」と意見を聞くだけでも違うと思います。

<受け入れの工夫>

次に、採用後の工夫について見てみましょう。採用段階はかなり気力や労力を使うのに、受け入れたら一気に気を抜いてしまうケースは案外多い気がします。しかし、受け入れ後の現場対応こそ、彼らに長く働いてもらう重要なポイントです。

・初日はアルバイトリーダーがいる時に
まず、雇い入れ当初のシフト組みは、慎重に行いましょう。特に初日や最初の数日間は、教育係のアルバイトリーダーや社員と一緒に入れるようにします。教育係の彼らは、業務を教えるなかで「あの人は一番長いベテラン」とか「店長は厳しいけれど、人を育てる気持ちのある人だ」など職場のスタッフの特徴や働き方、人間関係など、店のあらゆる情報を新人アルバイトに話します。新人も最初は右も左も分からず不安に感じていた職場に対し、何でも話せそうな先輩がいることで安心し、サークルのような感覚で仕事を楽しむようになっていきます。アルバイト仲間ができると、若年層は辞めにくくなるものです。

・シフトと業務は力量に合わせて考える
繁閑日と任せる業務に配慮することもポイントです。

例えば、居酒屋の場合、金曜夜が一番忙しいですよね。そんな日に、新人ホールスタッフのバイトが初日だと、かなりつらいものです。忙しくて誰も指示してくれないため、何をすればいいのかわからない。そのうえお客様からは、注文や依頼が絶えない。途方に暮れるしかなく、居心地が悪くなって、辞めたくなってしまうのです。

ですから、もし忙しい日からのスタートになった場合は、「ごめん、君はホールのアルバイトだけど、今日は誰も仕事を教える余裕がないから、皿洗いをお願い」といった具合に、あえて単純な一つの作業に集中してもらうなど、任せる業務を工夫しましょう。そうすればアルバイトも楽な気持ちで職場に馴染んでいけます。

反対に、あまりに暇な日に入れて、ひと通りの仕事を一気に覚えさせようとするのもいけません。人は一度にそんなに多くの仕事を覚えられないものです。「1日目にひと通り教えたから大丈夫」と、翌日からいきなり、できることを前提に指示しても、アルバイトは戸惑うだけです。業務は一度に全部教えようとは思わず、最初は2~3の業務を教えるくらいに留めておきましょう。そのほうが確実に仕事を覚えていきます。

・店長の働きぶりもアルバイト定着に影響する
アルバイトに長く続けてもらうには、店長自身の働きぶりも重要な要素です。

アルバイトは店長と一緒に働くうちに、店長の仕事に対する姿勢や考え方を学びとります。そうすると「ああ、こういう見方や考え方があるのだ」「仕事ってこういうものなのだ」と意識も変わっていきます。尊敬できる人だと思えば、自然に「この店長のもとでもっと学びたい」「長く働きたい」と思い、仕事もより一生懸命頑張るようになります。ですから、アルバイトだからといって教育を軽視せず、しっかりOJTを行い、店長の働きぶりを見せるようにしましょう。

飲食業や販売など接客業をはじめ、アルバイトがお客様と接する最前線に立ち、重要な立場を担っている職種は多い。それらの職種は、彼らの態度一つひとつが店の評価につながります。彼らが店に愛着を持って長く勤めることは、お客様への満足度や売上向上にもつながってくるでしょう。

今回ご紹介した若年アルバイトを辞めさせないポイント、ぜひ参考に実践してみてください。

 

株式会社じんざい社 代表取締役社長 柘植 智幸

株式会社じんざい社 代表取締役社長
1977年大阪生まれ。35歳の若手ながら年間200日以上、研修、セミナーをこなす。専門学校卒業後、自分の就職活動の失敗などから大学での就職支援、企業での人財育成事業に取り組む。就職ガイダンス、企業研修、コンサルテーションを実施。組織活性化のコンサルティングや社員教育において新しい視点・発想を取り入れて、人を様々な人財に変化させる手法を開発し、教育のニューリーダーとして注目を集めている。シンクタンクなどでの講演実績も多数あり。「採用崩壊!~若者に好かれる会社、見捨てられる会社~」(同友館)、「ゆとり教育世代の恐怖」(PHP研究所)、「働く哲学」(同友館)など著書多数。

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