これまでの連載では、企業が採用力を身につける必要性や経営戦略と人事戦略の関係性、またダイレクト・リクルーティングの具体的な手法について紹介してきました。第4回となる今回は、ダイレクト・リクルーティングに成功した企業の事例を紹介しながら、具体的な活用方法やそのメリットについてご紹介します。

企業の採用力アップにつながる、ダイレクト・リクルーティング

これまでの連載でもお伝えしてきましたとおり、ダイレクト・リクルーティングは、企業が人材採用を行う際、人材紹介会社などの第三者を介さずに、直接、能動的に転職顕在層・潜在層にアプローチする手法のことです。

労働人口の減少にともない、人材獲得競争の激化が懸念される昨今、求人広告や人材紹介会社を介した従来の採用手法では、採用活動にお金と時間をかけられる企業しか、欲しい人材を採用できなくなってしまいます。しかし、ダイレクト・リクルーティングによって企業が採用力を身につけることで、限られた資金やリソースしか確保できない企業でも優秀な人材を獲得することが可能になるのです。

まずは、大阪に本社を構える専門商社・モリト株式会社の採用成功事例から、ダイレクト・リクルーティングの活用方法を見ていきましょう。

求める人材に3年間めぐり合えず、ビズリーチを導入

モリト株式会社は、100年以上にわたり、ハトメ、ホック、面ファスナーなどの服飾の付属品(パーツ)を提供してきた老舗の専門商社。現在は、車や鉄道などに用いる輸送機器資材や映像機器分野の製品などにも携わっています。そのモリト株式会社がグローバル成長企業をめざし、国内外の企業のM&Aや新規投資を進めていくために求めたのが、グローバル品質保証とIT関連の各部門で活躍するハイスペックなスペシャリスト。求人広告や人材紹介会社を利用して採用活動を始めました。

しかし、応募や紹介によりたくさんの候補者と会うことはできても、スキルが見合わない、価値観や方向性が合致しないなど、求める人材になかなか出会えないことが課題でした。本社が大阪の企業であることもネックとなり、すでに品質保証の人材は2年近く、IT人材に関しては3年以上採用が決まらないという状況でした。

求める人材を自分たちで探し、自分たちで「口説く」方法はないだろうか――。

そう考えていたときに出合ったのが、ダイレクト・リクルーティングを推進する「ビズリーチ」。企業が人材データベースを検索でき、直接アプローチできるこのサービスにこそ、採用難の突破口があるだろうと考えたのです。

1カ月で求めていたスペシャリストの採用に成功

ビズリーチを導入するとすぐに、職種や経験などさまざまな軸から対象者の絞り込みをスタート。現場の品質保証部門の人間もデータベースを確認し、求める経験と知識を持つ人材を探していきました。採用に至ったのは、品質保証の豊富な経験を持つ、まさにこれまで求め続けてきた人材でした。直接話をするために面談を設定し、その方の勤務地である関東に二度出向くなど、迅速かつ熱意ある対応で、3年間待ち望んだ人材を獲得。ビズリーチでスカウトしてから内定までに要した期間はわずか1カ月と、驚くべきスピード採用を実現しました。

ここからは、モリト株式会社の採用成功事例から読み取れる、ダイレクト・リクルーティングの4つのメリットをご紹介します。

【メリット1】
候補者の絞り込みを経て、求めるスキルや経歴を明確にしていく

ダイレクト・リクルーティングは、企業が自ら候補者を絞り込んでいくため、そのプロセスの中で、求める人物像がどんどん明確になっていきます。モリト株式会社では、ビズリーチを利用して絞り込んだ候補者全員の職務経歴書を印刷し、一人一人の経歴をじっくり読み込むことで、本当に欲しいのはどういった人材なのかを明確にし、社内での共通理解をより深めていきました。

またこれによって、実際に候補者と直接話す面談や面接の場で、企業側が何を求めているのか、必要なスキルはどういったものかをぶれずに伝えることができるため、候補者の迷いや不安を拭い去ることにもつながります。

【メリット2】
応募や紹介を「待っていた時間」を能動的なアプローチにあてる

従来の採用手法では、企業は常に、応募や紹介を「待つ」側でした。そして、いざ現れた候補者が求める人材ではなかった場合、企業は「諦める」か「もう一度待つ」しか選択肢はありませんでした。ダイレクト・リクルーティングの場合、候補者を集めるところからすべて企業側で行うため、時間とパワーは必要です。しかし、検索条件を変更するなどして、求める人材に別の角度からアプローチしたり、候補者数の増減を見るなど、ただ「待つ」のではなく、能動的に採用にかかわる時間を増やすことができるのです。

【メリット3】
希望勤務地などの条件も直接アプローチすることでクリア

希望勤務地などの条件面は、従来の採用手法ではネックになりがちです。たとえば人材紹介会社が、十分なスキルを持つ候補者を見つけても、希望勤務地を見て「希望に合わないため、採用確度が低い」と判断して紹介しないといったこともあるからです。

ダイレクト・リクルーティングでは、企業側が候補者の情報を直接チェックできるので、「候補者が希望している条件に合わない部分もあるけれど、どうしてもこの人物にアプローチしたい」という熱意によって、直接コンタクトをとることができます。仕事内容の魅力を前面に押し出して伝えることで、希望勤務地の優先度が下がる可能性もありますし、そもそも、勤務地に強くこだわりがないケースもあるのです。

【メリット4】
現場を巻き込むことで「自分たちが採用した人材」という意識を持ってもらう

モリト株式会社が採用した人材は、現場の品質保証部長が自らビズリーチのデータベースを検索し、見つけた方でした。同社では人事部が絞り込んだ候補者の職務経歴書を現場にも共有し、同等のスキルを持つ人物を実際に検索して探し出してもらうことで、求める人材の採用がいかに難しいかを全社で認識するようにしました。その認識を持って自分たちで探し、採用した人材に対しては、「自分たちが採用した人材なのだから、ともに切磋琢磨しながら頑張ろう」という意識が生まれ、受け入れる際の心持ちはまったく変わってきます。社員一人一人がリクルーターである、という意識を広げられるのも、ダイレクト・リクルーティングならではの利点です。
今回ご紹介したのは1社の事例ですが、採用課題やダイレクト・リクルーティングで解決できる悩みなど、どの企業にも通じる部分があったのではないでしょうか。
これまでの連載で、ダイレクト・リクルーティングについてご説明してきましたが、次回からはより具体的な手法や採用ノウハウについてご紹介していきます。求める人材要件の設定や母集団形成のポイントなど、実践的な内容を網羅し、採用の現場で活用できる情報発信を続けていきたいと思います。
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