連載第1回では、企業が採用力を身につける必要性を、第2回では、経営戦略と人事戦略が密接な関係にあることをご紹介しました。第3回となる今回は、それらを踏まえたうえで、人材獲得に有効な採用手法となるダイレクト・リクルーティングについてご紹介します。

企業による能動的な採用活動、ダイレクト・リクルーティングとは

ダイレクト・リクルーティングの考え方そのものは、非常にシンプルです。株式会社ビズリーチでは、ダイレクト・リクルーティングを「人材採用の募集活動を第三者に任せきるのではなく、企業が能動的に転職潜在層にもアプローチする採用手法」と定義しています。

ダイレクト・リクルーティングというキーワード自体は株式会社ビズリーチが生み出した造語ですが、同様の考え方に基づいた採用手法は海外では10年近く前から当たり前のように取り入れられています。

外部の採用パートナーばかりに依存せず、採用力を身につける

これまで日本における採用活動は、求人広告や人材紹介会社など、外部の採用パートナーの力を借りることが主流であり、多くの企業もその流れに沿っていたかと思います。しかし、これから先、労働人口の減少にともなう人材獲得競争がますます激化することは確実です。そうなれば採用活動に多くのお金を投下できる企業しか求める人材を採用できないという事態に陥りかねません。

一方、ダイレクト・リクルーティングを通じて企業そのものが採用力を身につければ、外部パートナーの力を借りる必要がなくなり、例えば地方の中小企業が大手企業の管理職を招聘(しょうへい)したり、競合企業の優秀な社員を引き抜いたりといったことも可能になります。では、ダイレクト・リクルーティングとは具体的にどのような手法なのか。ここでは3つの事例を交えてご説明します。

人材データベースの活用

「ビズリーチ」や「LinkedIn」などが保有している人材データベースを活用し、直接スカウトする方法です。職種・業種、学歴、語学力、マネジメント経験、在籍企業名などを軸に、人材データベースのなかから求める人材を企業が自ら検索し、直接アプローチをかけます。

最大の特徴は、管理職や専門職、グローバルな人材などに直接コンタクトをとれること。「データベースを検索し、スカウトを送付する」という工数は発生しますが、国内外の優秀な人材に直接連絡をとれるという大きなメリットがあります。

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)

「Facebook」や「Twitter」などのSNSを利用して直接アプローチする方法です。海外ではここ数年で普及しつつありますが、日本ではまだ浸透しきっていない採用手法なので、母集団形成をするにあたって競合が存在しないブルーオーシャンといえるでしょう。また、SNSではありませんが最近ではPowerPointなどのプレゼンテーションファイルを自由に公開・シェアできるWebサイト「SlideShare」などを通じて、興味を抱いた人物に直接アプローチするケースなども出てきているようです。

SNSを積極的に活用している方は「新しいモノや流行に敏感」「積極的に情報収集を行っている」「キャリアに対する意識が高い」といった特徴に当てはまりやすいといわれています。そうした人材を採用したいのであれば、試す価値は大いにあるでしょう。

社員紹介

社員が自分の友人・知人に自社を紹介する手法で、いわゆる「縁故採用」です。実は海外の企業では、社員紹介による採用が最も大きな割合を占めています。「優秀な人材を採用しやすい」「紹介者が社内にいるため、会社になじみやすい」など、メリットも数多くあります。

しかし、日本では自分の友人や知人に対して、自分の会社を勧めることは、あまり一般的ではありません。そこで必要になるのは、友人や知人をオフィスに連れてきたくなる受け皿づくりです。社員紹介に対するインセンティブの設計や、社外の方も参加できる懇親会、勉強会、スポーツ大会などのイベントの開催や企業ボランティアなど、まずは会社に連れてきたくなる制度や環境を整えるなどしてみましょう。

いかに「転職潜在層」を引きつけられるかが鍵

どの手法にも共通しているのは、アプローチしたい人材が「転職したい」と考えているとは限らないということ。転職意欲がない、もしくは転職意欲が薄い「転職潜在層」と呼ばれる方を見分けることが難しいため、そうした方々にも必然的にアプローチすることになります。そこで、そうした方々の気持ちを動かすために有効なのがスカウトメールです。

企業やポジションの魅力に加えて、なぜスカウトしたいと思ったかなどをしっかりまとめ、転職への動機づけとなるようなスカウトメールを、一回のみの送信ではなく、定期的に送るようにしておきましょう。連絡は数カ月ごとでも、一年ごとでも構いません。スカウトメールを受け取った方が「そろそろ転職しようか」と考えたときに、選択肢の一つに加えてもらえる土壌を整えておく。言い換えれば「自分の会社のファンになってもらっておくこと」が大切です(スカウトメールの具体的な書き方は、第4回以降の記事のなかでご紹介する予定です)。

採用力強化は、外部パートナーとの連携にも役立つ

これまで「採用力を身につけるために、能動的に動こう」とお話ししましたが、求人広告や人材紹介会社を利用すること自体に何ら問題はありません。ただし、活用方法を誤ってしまうと、大切な会社の資産をムダにしてしまう可能性があります。最も回避しなければならないのは、以下の2点です。

【1】 人事が現場の実態を把握できておらず、外部パートナーからの意見やアイデアをうのみにしてしまい、いざ求人を展開しても現場のニーズとのミスマッチばかり発生する
【2】 現場社員が人材要件を設定するものの、採用市場の現状を知らないため要求がハイスペックになり過ぎて、母集団そのものが形成できずに終わる

こうした事態は、企業側がきちんと人材要件を固めていないために発生してしまいがちです。外部パートナーに協力を仰ぐ際には、「絶対に外せない応募資格は何か」といった人材要件をまず企業側できちんと決めておくことが大切になります。

その上で「競合他社と比べた時の強みは何か」「逆に何が弱みになっているか」「募集するポジションやスキルに対して給与額は適切か」「自分たちのターゲットがこの媒体に一定数存在しているか」といった、採用計画などの要件をしっかり固め、これらの情報をきちんとパートナーに共有することが大切です。

まとめ

ダイレクト・リクルーティングで重要なのは、どういう人材を採用したいかを定め、そのターゲットを採用するために最適な方法をきちんと考えることです。こうした取り組み一つ一つが、採用力強化につながります。人的コストと金銭的コスト、ポジションごとの採用難度などを包括的に考慮しながら、その時々で最適な採用ツールを組み合わせ、採用戦略を組み立てていきましょう。
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