間もなく令和6年度が始まります。新年度は障がい者に関する法律や制度などの変更が多くあります。その中の大きな一つが障害者法定雇用率2.5%の引き上げです。令和5年「障害者雇用状況の集計結果」を見ると、多くの企業がすでにその準備をしていることがうかがえます。本稿では令和5年の「障害者雇用状況の集計結果」を見るとともに、今後の障がい者雇用の動向と企業が行うべき対策について考えていきます。
障がい者雇用の変化と今後の対策は? 令和5年「障害者雇用状況の集計結果」から探る

令和5年の障害者実雇用率は2.33%で前年比0.08ポイント増

障害者雇用促進法が令和4年度に改正され、昨年度から順次施行が開始しています。令和6年度は障害者法定雇用率が2.3%から2.5%に引き上げられることに伴い、企業では法定雇用率の引き上げを見込んだ雇用を進めています。令和5年「障害者雇用状況の集計結果」から、現在の障がい者雇用の状況を見ていきたいと思います。

令和5年6月1日時点の雇用状況が厚生労働省から令和5年12月に発表されました。雇用障がい者数、実雇用率ともに過去最高を更新しており、雇用障がい者数は64万2,178.0人、対前年4.6%で、2万8,220.0人増加しています。20年連続で雇用者数は過去最高となりました。また、実雇用率は2.33%となり、対前年比0.08ポイント上昇しています。
令和5年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)

出典:令和5年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)

障がい別にみると、身体障がい者は36万157.5人(対前年比0.7%増)、知的障がい者は 15万1,722.5人(対前年比3.6%増)、精神障がい者は13万298.0人(対前年比18.7%増)と、いずれも前年より増加しています。特に、精神障がいの雇用数に関しては、例年と同じように伸び率が大きくなっています。また、昨年は身体障がい者の雇用数は対前年比0.4%減でしたが、今回はプラスとなっています。

雇用率の全体的な増加傾向には、令和6年度から障害者雇用率が2.5%、令和8年度からは2.7%に引き上がることが決まっており、これに向けて企業が準備していることが大きな理由となっています。特に従業員数の多い企業では雇用率アップに備えて何年かをかけて計画的に採用を進めており、今回の数字はこれを示しているものと言えるでしょう。

障がい者雇用が義務付けられる対象は、従業員43.5人(短時間労働者は0.5人で計算)以上の企業となっており、法定雇用率達成企業の割合は50.1%(前年48.3%)でした。法定率を未達成の企業は5万3,963社で、このうち障がい者を一人も雇用していない企業は3万1,643社となっています。

企業規模別の状況について見ていきましょう。雇用されている障がい者の数は、全ての企業規模で前年より増加しています。

事業規模別 雇用障がい者数
・43.5~100人未満:7万302.5人(前年は6万6,001.0人)
・100~300人未満:12万2,195.0人(同11万7,790.0人)
・300~500人未満:5万4,084.5人(同5万2,239.5人)
・500~1,000人未満:7万3,435.5人(同6万9,375.5人)
・1,000人以上:32万2,160.5人(同30万8,552.0人)


また民間企業全体の実雇用率は2.33%(同2.25%)となっていますが、企業別の実雇用率も、全ての企業規模で前年よりも雇用率は増加しています。特に1,000人以上の企業は、前年(2.48%)に続いて法定障害者雇用率を達成しており、雇用率アップを想定して雇用を進めていることが、以下の結果からもわかります。

事業規模別 障がい者雇用率
・43.5~100人未満:1.95%(前年は1.84%)
・100~300人未満:2.15%(同2.08%)
・300~500人未満:2.18%(同2.11%)
・500~1,000人未満:2.36%(同2.26%)
・1,000人以上:2.55%(同2.48%)

令和5年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)

出典:令和5年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)

法定雇用率を達成している企業の割合についても、全ての規模の区分で前年より増加していました。

事業規模別 法定雇用率達成企業の割合
・43.5~100人未満:47.2%(前年は45.8%)
・100~300人未満:53.3%(同51.7%)
・300~500人未満:46.9%(同43.9%)
・500~1,000人未満:52.4%(同47.2%)
・1,000人以上:67.5%(同62.1%)

出典:令和5年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)

出典:令和5年 障害者雇用状況の集計結果(厚生労働省)

障がい者雇用の変化と今後の対策

最近の障がい者雇用に関する状況を見ると、障害者雇用率の引き上げが発表されたこともあり、障がい者雇用ビジネスに対する関心が高くなってきています。実際に障がい者雇用ビジネス利用企業は約1,000社、働く障がい者は約6,500人以上いることが報告されています。このような傾向を踏まえて、今までの障がい者雇用の施策は法定雇用率の達成を重視する傾向がありましたが、質や職業能力の開発・向上などを考慮するものとなりつつあります。

また、障がい者雇用の考え方が変化していると感じている別の大きな点は「人的資本経営」についての議論が進んだことがあげられます。人的資本経営とは、人材をコストのかかる資源ではなく、資本として捉える新しい経営のあり方や考え方のことを指します。

人材を重点的に投資すべき資本とみなし、企業の中長期的な成長を目指す経営指標の一つとして捉えるようになっています。近年では人的資本経営を投資の判断基準にする投資家が増えており、企業としても積極的な取り組みが求められています。

この人的資本に含まれる人材は、ダイバーシティ(多様性)として国籍や性別、年齢、経歴などに関係なく多種多様な人材が含まれます。この中に障がい者を含めている企業はまだ少ないものの、一部の企業では障がい者も含めて人的資本としていこうと考える企業がでてきています。

人材の中でも「女性」、「外国人」などはダイバーシティの一部として捉えられることが多かったのですが、障がい者雇用というと一部の外資系企業以外では「障がい者」は別枠として考えていることがほとんどでした。そのため「障がい者にできる業務は何か」という視点から考えるため、障がい者の業務として多く挙げられるものは事務(事務補助)、軽作業、清掃等が多く見られていました。しかし、これらの業務はITやAIの進化やリモートワークなどが取り入れられ、業務自体の見直しが求められることもあります。

人的資本経営的な観点から障がい者雇用に取り組もうとしている企業に見られるのは、障がい者ができる業務は何かを考えるのではなく、「本業に資する業務は何か」、「それに携わってもらうためにどうするのか」を考えていることです。このような取り組みを始めている企業では中長期的な視点も含めて人事部門だけでなく、経営企画や事業企画の人材も含めたプロジェクト的な取組みや検討からスタートすることが多くなっています。

そもそも「障がい者」についてのイメージは、個々人によって持っている印象が全く異なります。身近に障がい者がいる人は、その障がい者が障がい者雇用でイメージする障がい者になりがちです。例えば、家族等に知的障がい者がいると、障がい者雇用でも知的障がいができる業務を探してしまいがちです。知的の遅れがなく得意な分野がある発達障がい者を知っているのであれば、その能力を活かしたことができるのではないかと考える人もいます。また、普段接する機会が限られているのであれば、メディアで見るサポートが必要な人をイメージすることもあります。障がい者雇用というと一言でまとめられてしまっていますが、その障がい種別や能力は様々です。自社ではどのような人材を求めているのか、障がいによる違いや特性をどのように業務に活かせるのかを考えていくことは、障がい者雇用だけでなくこれからの人材戦略にも活かすことができます。

なお、雇用の全体割合では身体障がいが最も多い人数を占めていますが、新規採用では半数ほどが精神障がい手帳所持者の応募となっています。障がい者雇用は、身体障がい、知的障がいと広がり、最後に精神障がいの順でカウントができるようになってきた経緯があります(精神が雇用率にカウントができるようになったのが平成18年、義務化が平成30年)。この間、精神障がい手帳に含まれる発達障がいの理解が進み、精神障がいで手帳を取得する人の幅が広がっています。つまり精神障がいの人材のスキルや能力に変化が見られています。

もし、今までの障がい者雇用の取り組み方で、中期的な採用が難しいと感じているのであれば、今までの「障がい者雇用」の考え方とは違った人的資本経営の視点から「障がい者雇用」を捉え直すことが必要です。また、精神障がい手帳所持者の採用や人材活用を考えていくことも求められるでしょう。

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