先日、3月13日付で、ストレスチェックを義務付ける内容の労働安全衛生法改正案が通常国会に提出された。前回、平成23年12月に提出され結局廃案になった改正案(以下、旧改正案)とは若干変更になっているところもあり、今後の国会審議の動向が気になるところである。
ストレスチェック義務化法案、国会提出。前回との違いは?

 前回との違いで大きなポイントとなるのは、ストレスチェックが義務付けられる企業が絞り込まれたということである。つまり、従業員50人以上の事業場が義務となり、50人未満の事業場については、当面、努力義務とされている。
 ここで、50人以上というのは、産業医の選任義務がある事業場ということであるが、一体どれくらいの企業が産業医を選任できているだろうか。今回のストレスチェック制度全体の枠組みでは、産業医等の役割が非常に重要になってくると思われるため、産業医等とのネットワークが不十分な企業は法案の成立・施行に備えて早めの対応が必要であろう。

 2つ目の違いとしては、ストレスチェックを実際に行う主体が変わっていることである。前回は「医師又は保健師」に限られていたが、今回は「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(医師等)」となっている。主体が広がったわけであるが、「その他厚生労働省令で定める者」の中に、どういう資格を持った人(あるいは機関)が入ってくるかが今後の焦点となろう。
 ストレスチェック自体は現在でも大手EAP機関等で行われているが、義務化された場合、企業としてはそのストレスチェックを行う機関等が法的な要件を満たしているか(つまり、医師等によるものなのか)が非常に重要なポイントになってくると思われる。

 3つ目の違いとしては、法案の名称がそもそも変わっていることである。前回は『精神的健康の状況を把握するための検査等』であったが、今回は『心理的な負担の程度を把握するための検査等』となっている。これについては、業務上のうつ病自殺等を減らしたいと考えているであろう厚労省の“想い”の表れではないかと私は推測している。どういうことかというと、平成23年12月に厚労省は精神障害についての労災認定の基準を見直しており、そこでは『心理的負荷による精神障害の認定基準』と表現しているのである。今回の法案はこれを意識したのではないかと考えるのである。
 ただし、ここで注意したいのは、今回のストレスチェックは、決してうつ病等のスクリーニング検査ではない、ということである。ここは非常に重要で、あくまでストレスの程度を検査するものであるため、企業としては誤解してはいけない。検査結果が、本人の同意なしに企業に通知されることはないのが、それを示しているといえる。この点は、一般の定期健康診断等とは異なる仕組みである。

 以上のように、今回提出されたストレスチェック義務化法案は、企業あるいは実務担当者にとって、10年に一度あるかないかくらいインパクトのある内容である。提出されたばかりでどうなるか不明な点は多いが、義務化されると一番仕事が増えるのは実務担当者である。今から対応策(例えば、現在、健康診断を依頼している健診機関にストレスチェックへの対応の有無を確かめておく等)を考えておくべきではないだろうか。


三谷社会保険労務士事務所 三谷 文夫

この記事にリアクションをお願いします!