「さあみなさん、今日研修で学んだことをぜひ現場に実践して下さいね」と言う講師。実際研修後のアンケートでも5点満点で平均4.5点以上と評判がいいが、しかし現場では何も変わらないという声をよく聞く。
研修内容を現場に定着させる意外で簡単な方法

 その理由は簡単。現場は今までの仕事のやり方や慣習があり、研修で新たな方法を学んで現場で実践するよりも、今までのやり方や慣習の方が勝つからである。
 「会議のファシリテーションのやり方を研修で学んだ。次の営業会議で活用して見よう」とトライしても、現場の上長が「おい、俺のやり方に文句があるか」と言われたら引っ込むしかなく、学んだスキルは日に日に潜在化してしまい、使えないなってしまうのである。

 ではどうすればいいか。
「社内SNS(ソーシャルネットワークシステム)」をちょっと工夫し、演出する方法をお薦めしたい。
 SNSとはFacebookのようにWebを介して友人・知人や共通の趣味の人とつながり、コミュニケーションを取る「場」である。社内SNSだけに閉じた形で情報交換をするツールである。
 この社内SNSに、研修参加者とその先輩上司を入れたグループを形成し、社内SNS上で研修時に作成した行動計画の振り返りとアドバイスを行うのだ。
 グループには研修参加者の先輩や上司も全員入れ、事務局として人事担当者と可能であれば研修講師にも入っていただく。2週間に1回、活動計画の振り返りを参加者にUPしていただき、上司や先輩だけでグループ参加者全員が、社内SNS上で全てそのやりとりをオープンに見られるだけでなく、適宜アドバイス等のコメントを書き込めるようにして、PDCAを回すことを行う。

 社内SNSはグループ間でコミュニケーションがもともと活発化するような機能で成り立っている。部下Aさんの行動計画の下に、上司先輩の書き込みが現れるので、どういう経緯でアドバイスがあり、気付きを得たかがわかりやすい。写真もあれば、なお親近感も沸く。メールだと最新のコメントが一番上と、SNSの流れとは逆になるため、一番下に戻ってから読み上げてこないと、最新のコメントにいきついたかがわからない等のストレスや不便な点はないのである。

 またSNSのコメントは長文には向かないので、気付きを与え、具体的な行動を促す内容をシンプルでわかりやすい文章にしなくてはいけないので、SNSで指導を重ねるプロセスの中で、先輩や上司の指導力も鍛えられるというメリットもある。
 「いいから、やっとけ!」「今月どうなるのだ、何とかしろ!」「だいたいお前はいつも、この間も同じようなミスを・・・」と叱ってばかりで、具体的な行動に結びつくヒントがない指導をしていると、それが文章に出てしまうため、上司・部下間だけでなく、他の部下、先輩、上司にも、指導のプロセスが丸見えになる。的確なアドバイスが出来ないと恥を書くため、上司、先輩は部下指導について自ら学び、レベルアップせざるを得なくなるのである。

 また、ちょっとした事でもSNS上に文章で書くので、部下から見ると「ちゃんと書いた自分の意見を先輩、上司は受け止めてくれた」と思うようになり、話を聞いてくれる先輩・上司に対し信頼感が沸いてくる効果もある。
 さらに他の先輩・上司のやりとりも閲覧できるため、そのやりとりの中から、学びや気づきを得ることも実は非常に多い。研修でも他のメンバーの発表を聞いて「ハタと気づいた」となる効果がここでも起きるというわけだ。
 コメントの履歴も残るので何度もリマインドして学ぶことも出来ることも大きなメリットになる。
 またメールよりもSNSの方が感情を表す顔文字や絵文字をコメントに入れやすくなるので、感情・気持ちも込めたコメントを書けるので、誤解なく、より心に伝わるものであることも特徴である。

 社内SNSでPDCAを繰り返していくと思わぬ副産物が出てくる。そのグループの中で本当に優秀な人は誰かが炙り出されてしまうのだ。研修参加者であれば、誰が素直で言い訳せず、行動力があるか。課題設定力がどれだけ上がってきて仕事の成果に結び付けているか。他のメンバーや上司、先輩に対する態度はどうか等、これも丸見えになる。
 同様に先輩、上司の中で誰が優秀であるかも可視化されてしまう。「指導の仕方がワンパターンなので、相性がいい部下でないと成長しなさそう」等、実際に書き込みはなくても、やりとりの中で見えてしまうのである。(これは人事が本当に欲しい情報の一つだろう)

 この取り組みを進めていくと、誰かが成長したら、直属ではない先輩、上司や研修参加者の仲間からも「おめでとう!」等のコメントが入るようになり、義務ではないが、気付いた時にナナメから率直に指導やアドバイスが飛んでくるようになり、部署全体のコミュニケ―ションの風通しがよくなる。
 この風通しは地域や勤務時間帯を超えて広がる。全国各地に拠点があり、少人数やシフト制で普段あまり顔を合わさない組織でも社内SNSなら書ける時に書き、その履歴が残るので全世界どこにいても、活動がすぐ近くにいるのと錯覚するくらい可視化され共有されるのである。

 最後に、この取り組みを3か月くらい続けると、いつの間にか「関係者全員で研修参加者を育てよう」という雰囲気に変わり、学習を促す組織文化になってしまうことも大きな効果だ。そのためには、スタートが肝心で、軌道に乗るまでは、人事や研修講師がコーチング的に質問して引き出したり、具体的な行動のアドバイスをしたりして、横から研修参加者と先輩、上司を支えながら、小さい成功を出していくことが要諦となる。社内SNSは社内のイントラネットの機能として存在しても、意外に使われていないので思い切って使ってみるとことをお勧めしたい。


HR総合調査研究所 客員研究員 松本利明
(人事コンサルタント)

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