2017年12月、与信管理ASPクラウドサービスを提供するリスクモンスター株式会社が、「若手社員の仕事・会社に対する満足度」調査結果を発表した。そこで、若手新卒社員の約4割が、3年以内の転職を意識していることがわかったが、彼らが転職を考える理由は何なのだろうか。若手社員は、仕事に何を求めているのだろうか。調査結果を分析し、考察してみる。
低下する若手社員の定着率…彼らが転職する理由と仕事に求めるもの

終身雇用への意識低下

同調査で、調査対象者600名に聞いた「仕事・会社に対する勤続意欲」について、「3年後も勤務し続けていると思う」と回答した人は58.2%、「3年後は勤務し続けていないと思う」は41.8%だった。

興味深いのは、「3年後は勤務し続けていないと思う」理由だ。1位の「給料が低いから」(44.2%)、2位の「仕事にやりがいを感じないから」(30.3%)に次いで、「最初から転職するつもりだから」が16.7%で3位に入っている。特に、新卒入社1年目の社員を中心として「最初から転職するつもりだから」への回答率が高くなっており、昨今の就職においては、終身雇用に対する意識が低くなっている様子が伺える。

入社年次別では、「3年後も勤務し続けていると思う」と回答したのが「新卒入社1年目」59.0%、「新卒入社2年目」64.0%に対して、「新卒入社3年目」では51.5%と、ほぼ半数まで低下している。キャリアアップを目指して、条件の良い転職をするためには、多少経験も積みつつ、まだ新しい環境にも柔軟に対応していける20代後半が良いタイミングと捉えられているということだろうか。

若手社員の転職理由は二分化

若手社員が転職を考える理由を、もう少し詳しく見ていこう。

2017年11月に、総合人材サービスのパーソルキャリア株式会社が、運営する転職サービス「DODA(デューダ)」利用者を対象に、転職希望者の転職理由を調査した結果を発表した。1位は、2012年上半期から10回連続で「ほかにやりたい仕事がある」となっている。一方で、今回の調査では、「給与に不満がある」や「会社の評価方法に不満がある」など、待遇に関する不満を転職理由に挙げる人の割合が上昇していることが特徴として挙げられている。

これらの結果から、最近の若手社員の転職理由には、大きくわけて2つの側面があるのではないかと考えられる。

■売り手市場の中、より良い条件を求める
1つ目は、労働力不足で求人数が増える中、より良い条件を求めて転職を考えるケースである。

採用される側は、時代の流れの中で、終身雇用を意識して入社するのではなくなっているのかもしれない。ただ、採用する側は、とりわけ新卒社員には長く働いてもらうことを想定しているため、入社から数年は仕事の基本的なことを学ばせることも多い。もともと、強く望んで就いた仕事でなければ、その作業に「やりがいを感じない」と考えることもあるのだろう。満足のいく給与や評価が与えられていなければ、なおさら、他の会社にも目を向けてみたくなるのではないだろうか。

その人に与えられている評価が正当かどうかはわからない。ただ、隣の芝生は青く見えるものだ。特に、若手社員世代の多くはSNSを利用しており、そこで、あらゆる「隣の芝」を見る機会がある。

ロシアの情報セキュリティー会社「カスペルスキー研究所」が、SNS利用者を対象に行った調査では、半数以上が、他人の投稿を見て自分よりも楽しい生活を送っていると感じているという結果が出ており、日本人はそれを不快に思う傾向がある、というデータも出ている。

他の人が自分より良い待遇で働いていたり、仕事にやりがいを感じて生き生き働いていたりするのを見て自分と比べ、「自分にももっと良い道があるはず」と考え、転職を意識するのだろう。

■給料よりも「自分主体」を重視する若者たち
若手社員が転職を考えるもう1つの理由は、「自分探し」である。

前述した2つの調査結果のそれぞれ上位にきている転職理由、「仕事にやりがいを感じない」、「ほかにやりたい仕事がある」から読み取れるように、彼らが求めているのは給料などではなく、より「自分に合っている」と感じられる仕事だ。

日常的にSNSを使い、他人とつながったり、他人の生活を覗いたりしている若手社員の世代だが、彼らはその世界だけでは窮屈さや物足りなさを感じているという調査結果が、2017年7月に、株式会社ネオマーケティングから出されている。物質的に恵まれた時代に生まれた彼らが、消費において積極的にお金を出すのは「思い出に残る体験」や「感動的な体験」と言っているように(同アンケート結果より)、仕事においても、目に見える「お金」より、やりがいや充実感を求めるのは自然である。

また、働き方が多様化し、時間や場所に捉われず、自分の好きなことを仕事にしている人も増えている。SNSなどを通じて、そういう人たちを知る機会も増えているようだ。突然の解雇や倒産などの話も珍しくなくなり、かつてのように、受け身で会社の仕事に従事していれば会社が将来を保証してくれるような時代が終わった今、お金のために「合わない」仕事を我慢して続けるのではなく、自分主体で仕事を選びたいと考える若者も多いのではないだろうか。

企業は若者が「長く働きたい」と思える環境作りを

こうした傾向は、悪いとは言えない。AI(人工知能)技術が進歩し、近い将来、多くの職種がAIにとって代わられるとも言われる中で、惰性で仕事をしていたのでは、働き口など簡単になくなってしまう可能性がある。生き残るためには、自分のより得意な分野で勝負し、「人間にしかできないこと」を磨いていかなくてはならない。大きな成長や進化が求められるときに、「好き」「やりたい」に勝るモチベーションはないだろう。

最近は、インターンなどの制度が充実しているとは言え、どんなに考えて就職した会社であっても、実際に入社した後に自分の肌で感じることは、学生時代に想像していたものとは全く違うこともあるはずだ。実際に働き始めてから、日々仕事に取り組む中で、本当の意味で「社会とは何か」「仕事とは何か」を感じる人も少なくないだろう。経験を積んだ上で、学生時代より真摯に「自分の得意なことは何か」「自分のやりたい仕事は何か」を考え、本当に自分に合った環境を求めていくなら健全である。

企業には、各従業員にとって終身雇用の意識は失われていることを認識した上で、「最初から転職するつもりだった」という若手社員すらも、「この会社で長く勤めたい」と思わせることができるような、また、優秀な人材からは「この会社に転職したい」と思われるような環境作りが求められる。そのためには、適材適所に人員を配置し、若手社員の力も存分に活用し、やりがいを感じられるような体制を整えていくことが必要だろう。

この記事にリアクションをお願いします!