「内定先で“2030年の人材ビジネスについて論じなさい”という課題が出たのですよ。どうしましょうね(苦笑)」
 こうぼやくのは、大手人材ビジネス企業に内定している大学院の同級生だ(そう、筆者は現役大学院生でもあるのだ)。修士論文の打ち上げ飲み会での話だった。
リクナビのOpen ES騒動で考えた、これからの人材ビジネス

 2030年か。2020年でも不確定な要素がたくさんあるのに、2030年は想像がつかない。いや、ここで想像がつかないと言ったら、プロ失格なのもよくわかっている。ただ、そのプロが予想した、「◯◯業界の将来予測」などが完璧に当たるということも、また見たことがない。
 こんな未来予測の仕方もある。いま起きている出来事が、未来にどうつながっていくのか、という点である。

 例えば、先月、盛り上がったリクナビ2015のOpen ESをめぐる騒動などがそうだ。Open ESという共通エントリーシートのような仕組みが導入された件である。学生にとっての手間軽減につながるという触れ込みだ。しかし、批判が起こったポイントは主に次の2点だ。第1に、結局、大量に応募し、大量にさばくリクナビ型就活モデルを解決しないのではないかということ。第2に、紹介文機能をめぐる懸念だ。他者からの紹介文を掲載できる機能をめぐり、これは逆に学生の負荷を増やすのではないか、紹介をもらえる学生とそうじゃない学生の差を生むのではないか、教職員が依頼されたらどうするのか(リクルートキャリア社の説明文には、大学教職員には依頼しないように追記された)という声が出て、ネット上で話題になった。いや、各大学でも議論が起こっている。このあたりの論争については、法政大学教授の上西充子氏が作成したまとめに、すべてまとまっているのでご覧頂きたい(下記リンク参照)。

 ここでは、リクルートキャリア社の取り組みに対する賛否、是非はいったん手放し、ここから採用活動と人材ビジネスの未来について考えてみたいと思う。実はこの仕組みと、騒動に、ヒントがあるのではないか。

 1つの流れは、人と企業が出会うプラットフォームの競争である。言うまでもなく、リクナビと、マイナビ(を始めとする競合企業)の競争は、新卒の就職ナビというプロダクト同士の競争である。しかし、ネットビジネスというものはカテゴリーを超えた競争が起こるわけである。例えば、FacebookやGoogle、Apple、Amazon、楽天などのアカウント数が増加する中で、これらの企業が応募プラットフォームを作ったらどうなるか。このようなリスクはゼロとはいえない。

 2つめの流れは、手離れのよい人材ビジネスという流れである。黙っていても儲かる仕組みを作れるかどうか。「そんなものあるのか」と言いたくなるが、今回のOpen ESなどの取り組みは、そのように見える。例えば、リクルートグループが提供している、じゃらんnetなどは、宿泊予約のプラットフォームビジネスだ。契約した宿やホテルは販売したい日時の部屋の在庫を登録する。売上の手数料がリクルートに入る仕組みである。気づいたかもしれないが、ほぼ黙っていても儲かる仕組みである(厳密には、参画してもらうため、積極的に在庫を登録してもらうための営業行為は発生するし、参画のための審査や、画面の制作などの業務は発生する)。人材ビジネスにおいても、このように、手離れのよいものを目指していく流れはあるのではないだろうか。

 思えば、人材ビジネスは、特にこの約20年間、ウェブのテクノロジーによって進化してきた。新卒・中途、アルバイト・パート、派遣などあらゆる領域でサイトが立ち上がったし、昨今ではクラウドソーシングのように、雇用という形ではなく、仕事単位でのマッチングをもたらすものも立ち上がった。あまり言葉としては流行らなくなったが、ソー活、ソーシャルリクルーティングのように、ソーシャルメディアを使った採用活動(就職活動)も登場した。

 今後もITが人材ビジネスを変えていくというのはひとつの流れだろう。
 ただ、ここまで言っておいて何なのだが、これまでの歴史をみても異業種からの参入により、人材ビジネスで大成功した企業というのもあまり見かけない。仕組みだけに置き換えられないのも人材ビジネスである。その業界にいる者ならではの、独自のノウハウ、勘やコツが活きるものである。リクナビの時代になっても、ソーシャルリクルーティングの時代になっても、元就職情報会社や、元大手企業人事部出身者のコンサルタントはしぶとく生き残っている。ここにまた、採用の変わらない本質があるのではないだろうか。

 方向性としては、このように、手離れのよいプラットフォーム、システムができていく流れと同様に、ますます人が介在する価値が高まっていくのではないかとも考えられる。大学における企業とのつながり重視の流れなどはその証明と言えるだろう。
 そして、システムがいかに進化しようとも、それを利用して出会うのは、今のところ、個人と企業、あるいは仕事である。ここにどのような介在価値があるのか。ここが論点であることは言うまでもない。

 大きなテーマを掲げつつ、ありきたりな結論になってしまったが、今一度、人材ビジネス関係者も、企業の人事担当者も「人材ビジネスが介在する価値」について考えてみて頂きたい。


HR総合調査研究所 客員研究員 常見陽平
(著述家、実践女子大学・武蔵野美術大学非常勤講師)

この記事にリアクションをお願いします!