株式会社ドトールコーヒーは2017年9月、業界初となる非正規雇用者向け退職金制度を導入したことを発表した。正規労働者と非正規労働者間の格差是正につながるとして注目を集めている。人材不足が深刻化するなかで、従業員の職場定着率を向上させることがねらいだ。同制度導入のきっかけは従業員の声だったという。従業員の意見を制度に反映させることによって、企業における従業員満足度(ES)を向上させることの重要性は高い。
従業員満足度(ES)向上で職場定着率アップ。ドトールが非正規雇用者向け退職金制度を導入

ドトールが行ってきたES向上のための多様な取り組み

同社ではこれまでも、褒賞としてのハワイ研修旅行や、万が一のときに備えた弔慰金・見舞金制度、その他健康サポートなど、従業員の働きやすさを重視したさまざまな取り組みを行ってきた。

今回の退職金制度の導入は、実際に同社が非正規雇用者に聞いた意見を反映したものだ。意見を徴収した結果、非正規雇用者においては、一時的な研修旅行や給付金だけでなく、資産形成という長期的な面でのサポートが望まれていることがわかった。同社は、従業員の意見を吸い上げることで満足度を向上させる観点から、同退職金制度の導入を決めたという。

同制度は、3ヶ月平均で週30時間以上勤務し、社会保険に加入している非正規雇用者が対象で、勤続年数は問わない。直営店や工場、本社で働く従業員だけでなく、フランチャイズ店のオーナーにも利用を呼びかけている。今後、さらなる対象者の拡大も期待されるだろう。

従業員が働きがいを感じることによる定着率、業績の向上

従業員の職場に対する満足度向上がもたらす効果として、従業員が働きがいを感じられるようになる点が挙げられる。調査研究によると、従業員が働きがいを感じながら働くことにより、企業にとってもさまざまなメリットが期待できることがわかっている。

厚生労働省が平成26年に発表した「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査」結果では、「働きがいがある会社」では、従業員の仕事に対する意欲・モチベーションが高い傾向にあることを報告している。働きがいが「ある」「どちらかといえばある」と回答した人(以下、「働きがいがある」群)のうち、仕事に対する意欲が「高い」「どちらかといえば高い」と回答した人は、84.2%に上り、働きがいが「ない」「どちらかといえばない」と回答した人(以下、「働きがいがない」群)における同割合の27.5%を大きく上回っている。

加えて、同調査では、従業員が働きがいを感じていると、職場に定着しやすい傾向があることについても明らかにしている。「働きがいがある」群のうち、「今の会社でずっと働き続けたい」と回答した人の割合は50.7%で、「働きがいがない群」における同割合は11.4%だった。また、「働きがいがある」群において「同僚の離転職が少ない、どちらかといえば少ない」と回答した人の割合は54.2%、「働きがいがない」群においては39.1%となっている。少子高齢化の影響で人材不足が深刻化する昨今、人材の定着率向上は、企業における重要課題のひとつだ。ノウハウの蓄積や人材育成コストの削減の観点でも、重点的に対策すべき要素になっていくだろう。

さらに同調査を通して、従業員が働きがいを感じている企業は、業績が高い傾向にあることもわかっている。「働きがいがある」群のうち、会社の業績が「上がっている」「どちらかといえば上がっている」と回答した人の割合は48%で、「働きがいがない」群では30.3%だった。従業員のモチベーションの向上が、生産性向上につながっていると考えられるだろう。

ES向上は、いまや企業経営において欠かせない視点となってきていることがわかる。
従業員満足度(ES)向上で職場定着率アップ。ドトールが非正規雇用者向け退職金制度を導入

従業員の意見を制度に反映させる仕組みづくり

ES向上のためには、今回のドトールの例のように、従業員の意見を経営方針や各種制度に反映させることが正規・非正規を問わず効果的だ。従業員の意見を吸い上げる仕組みについては、定量的な方法と定性的な方法がある。

定量的な方法としては、ES調査が代表的だ。企業の運営方針や制度、職場環境や上司などに対する満足度を、無記名のアンケートで調査する。客観的な数値データが得られる利点があり、多くの企業が導入している。

定性的な方法については、管理職や人事担当者による個人面談や、意見発表ミーティングが一般的な仕組みとして挙げられる。経営方針や制度などについて、経営陣や管理職、人事担当者も思いつかないような建設的なアイディアを得られるケースも期待できる。ただし、実際には、上司に面と向かって意見を言いづらいケースが多いのも否めない。そういった場合に備え、無記名の目安箱を設置するなど、うまく意見を吸収している企業も多く見られる。

企業の発展を左右する要素として、ES向上は欠かせないものとなってきている。従業員の働きがいや働きやすさが、企業側のメリットにも直結することを、企業は再確認すべきだろう。企業の人事担当者は、自社における従業員の意見を吸い上げる仕組みについて、改めて見直してみてはどうだろうか。

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