近年、「健康経営」という言葉が注目されている。「健康経営」とは、従業員の健康増進を重視することで、事業の生産性向上や活性化、業績アップなどを期待する戦略的経営のあり方のことだ。従業員の健康にお金をかけることは、「コスト」なのか、それとも「投資」なのか。経理上では人件費は「コスト」で表されるかもしれないが、いずれにしても従業員の健康や健全なメンタルなしに事業は振るわない

新たな視点「健康経営」が注目されている背景

昨年、大手広告代理店における「過労自殺」問題で、長時間労働の常態化や従業員を心身ともに酷使するブラック企業の実態が明らかになったが、日本企業におけるメンタルヘルスの不調による従業員の欠勤や退職は増加の一途をたどっている。少子高齢化によって、若い労働者が減少。さらに1987年から1996年生まれの層にあたる「ゆとり世代」が働く時代になったことで、秩序や合理性、効率などを重んじていた従来の仕事やコミュニケーションのあり方が変化し、上司との軋轢によるストレスが顕在化している。

これを受けて、国も対策に乗り出し、2015年12月からは労働者50名以上の事業所でのストレスチェックが義務化され、2016年11月には経済産業省・厚生労働省による「健康経営優良法人認定制度」が開始、優れた健康経営の実践企業を顕彰する。また、経済産業省は平成26年度から「日本再興戦略」の取り組みの一環として、東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」を選定。健康経営を実践している価値の高い企業を公表することで、株式市場における正当な評価を期待している。

従業員の健康管理は医療費の節減のみならず、生産性や収益を上げ、さらには企業のイメージアップ、未来の創造的な事業展開にもつながる。「健康経営」は今後益々重要視されていくと言えるだろう。

◆職場環境改善をサポートする様々な形
「健康経営」という概念に早い段階で着目し、ビジネスとして展開している大手企業もある。職場をより働きやすい環境に改善し、従業員の健康促進をサポートする様々なサービスを紹介しよう。

・「サントリーGREEN+」(サントリーホールディングス株式会社)
オフィス内のIoT自動販売機とアプリを連携し、ウォーキング歩数によって付与されるポイントを貯めることで、サントリーのトクホ飲料と交換できる。

・「森永プチチャージ」(森永製菓)
オフィス向けの置き型菓子販売「オフィスグリコ」を模した「森永プチチャージ」は、健康食品に特化したラインアップで、従業員が気軽に自然素材を用いた「マクロビ派」やトクホ飲料を購入できる。

・「出張健康づくり」(ティップネス)
スポーツジムのティップネスでは、企業にインストラクターが出張し、オリジナルの運動プログラム作成やエクササイズ指導の他、測定会やセミナーも開催している。

・「Sound Design for OFFICE(SDO)」(株式会社USEN)
オフィスにおける「メンタルヘルス対策」に着目し、2013年2月から、「集中力向上」「リラックス」「リフレッシュ」「気づき」の4つにカテゴライズしたオフィスに特化したBGMサービスを提供し、多くの企業が導入している。

◆オフィス用BGMが従業員にもたらす効果
音楽は無意識であっても人の感情に影響を与えるものだ。
例えば、病院内でリラックスできる音楽が流れていれば、診療前の患者さんの緊張感をやわらげることができる。一方、店舗では顧客の購買意欲を高めるために、アップテンポの軽快な音楽が適しているだろう。職場においても同様で、BGMによって集中力や生産性向上が期待できる。

先に紹介した株式会社USENの「Sound Design for OFFICE」を用いた実験によると、集中力をアップさせる楽曲を聞かせたところ、ストレスホルモンコルチゾールが減少し、体温や唾液分泌量、唾液中のIgA抗体が増加する傾向があることが確認されたという。音によって集中力やリラックス効果を生み出す可能性を示しており、オフィスに適したBGMの導入の有益性がうかがえる。

オフィス用BGMのSDOは、90程あるチャンネルから好きなものを感覚で選ぶわけではなくそれぞれの企業のニーズや時間帯に合わせてチャンネルを設定することが可能であり(タイマー機能もある)、あえてBGMを流さない時間を設けてメリハリをつけることも可能だ。ランチ後の眠くなる時間にはアップテンポのチャンネルを選んだり、ノー残業デーには、帰宅を促すコメント放送を選んだりすることができる。困った際には、どのチャンネルが良いかアドバイスももらえる。

職場では効率よく集中して業務をこなしたり、新しい発想を生み出すしたりする必要があるが、それに適したBGMや、疲れた脳を休めるリラクゼーション効果のあるBGMを流すなど工夫できる。

静かなオフィスは緊張感が高く、会話もしづらいものだが、BGMによって和やかな雰囲気をつくり、コミュニケーションも活発になる可能性がある。それによってチームワークが生まれ、新しいアイディアが閃くかもしれない。また、重要な会話漏洩を防止するマスキング効果にもなる。一方、電話などの騒音が多く、ストレスが溜まりやすいオフィスでは、静かなBGMで騒音を緩和させ、働きやすい職場空間を作り出すなど、オフィス用BGMのメリットはまだまだありそうだ。

オフィス用BGM「Sound Design for OFFICE」を導入する企業は、行政の「健康経営」促進の影響か、(初年度と比較すると)近年4倍以上に増加し、導入企業の活用方法も趣向が凝らされているという。導入企業の例を紹介しよう。

・「株式会社スタッフサービス」
出勤時には小鳥のさえずり、午後3時にはラジオ体操、19時には「家路」を流している。オフィスBGMの導入で緊張感が走る静かな職場環境が和やかになり、社員同士の会話が自然と生まれ意思疎通が活発になったという。

・「三井ホーム株式会社」
朝はヒーリングやくつろげる音楽を流し、午後は集中力を高める音楽、残業抑制に終業時にはロッキーのテーマを流すなど、時間帯によって音楽を変え仕事にメリハリをつけている。

・「サイボウズ株式会社」
ラウンジスペースにBGMを流し始めたところ、長時間同じ座席で仕事をしている従業員の気分転換になり、以前よりも多く集まる場所になった。

健康経営に取り組む企業の実例

「健康経営」の重要性にいち早く気づき、本格的に取り組んでいる企業は増えてきている。
それぞれの企業が趣向を凝らし、楽しみながら職場に健康を導入しようという意識がうかがえる。

・「GMOインターネットグループ」では、2011年7月に「マッサージ&おひるね GMO Bali Relax」をオープン。格安でプロによるボディケアサービスを受けることができる。また、2012年5月には、「おひるねスペース GMO Siesta」と称した大会議室を昼寝用に開放している。

・フランスに本社を置くマーケティング会社「Criteo Japan」では、朝8時半からオフィスのオープンスペースを活用し、2週間に一度オフィスヨガを行っている。従業員の3割が外国籍のため、流しそうめんなどのイベントを開催し、授業員同士のコミュニケーションを図っている。

・「ローソン」では、従業員それぞれが健康目標を設定し、e-ラーニングや健康イベント参加によってポイントが付与されるゲーミフィケーションを活用した「ローソンヘルスケアポイント」を独自開発し運用している。

・「伊藤忠」では、20代から30代の生活習慣病予備軍に対し、ウエアラブル端末を支給。睡眠時間、脈拍、歩行数、血圧などのデータを集計し、オンラインで医師や看護師からアドバイスが受けられる。また、栄養管理士との食生活の相談も可能だ。

・企業の健康経営の支援サービスを手がける「FiNCのオフィス」では、週に3日、専属のトレーナーの指示に合わせて約15分間体を動かす。フィットネススペースでは就業後のグループエクササイズやボクシングエクササイズなどで活用されている。