メンタルへルス対策は、いまや企業の重要な経営課題のひとつとなっている。ここ数年は自殺者が3万人前後(平成24年は3万人を下回った)で推移し、そのうち約8千人は被雇用者である。
働きやすい組織作りが究極のメンタルへルス対策

 企業の大小問わず「わが社には関係ない」と言える状況ではなくなっている。また、過労死やうつによる自殺等に伴う労災請求などの労使紛争は年々増加し、企業は多大な時間とお金をかけて解決に当たっているのが現実だ。
 
 このような背景のもと、「メンタルへルス対策、メンタルへルス対策」と叫ばれ、各企業はそれぞれ取り組みをしていることであろう。平成24年労働安全衛生特別調査によると、そのメンタルへルスの取り組みの中で多いのが、「労働者への教育」「管理監督者への教育」である。大企業はもちろん、30人未満の小規模企業においても40%近くが取り組んでいる。
 確かに、労働者及び管理監督者への教育や情報提供はとても大切である。労働者等がセルフケアやラインケアの研修を受け知識を身に付けることは、メンタル予防や不調の早期発見に資することであって意義あることだ。また、メンタルへルスに関する多くの研修機関や情報が溢れている昨今、企業にとっても比較的取り組みやすい対策であろう。
 しかし、メンタルへルス対策というものを企業経営(企業の存続・継続性)の観点から見てみると、もっと根本的な問題に目を向ける必要があるのではないか。それは、従業員が働きやすい組織作りである。

 従業員が働きやすい組織というのは、そこで働く従業員満足度(ES)が高い組織のことである。ESが高い組織では、従業員がいきいきと働くことで生産性は向上し、売上や利益に貢献する。一方、ESが低い組織では、離職者が相次ぎ、残された従業員に過大な負荷がかかり、結果、メンタル不調者を生んでしまうということが起こりうる。メンタル不調者が出た職場というのは、生産性が低下するので売上や利益にも響いてくる。

 では、何をもってESが高い組織といえるのか。それは従業員の働く意欲を高めるような仕組みがある組織であると考える。そして働く意欲を左右する条件を考えるとき、ハーズバーグの「動機づけ要因・衛生要因」理論が参考になろう。
 この理論では、達成することや承認されること、責任があること、昇進があること等が十分充足されれば満足感(働く意欲)が増大するという。逆に、給与や対人関係、作業条件等はこれらが十分充足されたとしても不満足感が減るだけで満足感(働く意欲)が増加するわけではないという。
 ここから分かるのは、単に給与水準を高くしたり、職場の人間関係を良くしたりすることが働く意欲を高めることにはならない、ということである。人間本来が持っているであろう承認の欲求や自己実現の欲求(マズローによる欲求階層理論より)を刺激する仕組みを構築しなければならないのである。例えば、目標管理制度やキャリア形成支援、メンター制度などである。

 ES向上の方法として、評価に見合った人事制度や賃金制度、就業規則の見直し、福利厚生の充実等がよく取り上げられる。確かにそれらはES向上に資する方法ではあるが、あくまでも従業員の不満足を解消するだけのものだと認識しておくべきである。不満足を解消する施策を実施するとともに、働く意欲を向上させる施策も同時に行う必要があるのだ。

 以上のように、従業員の働く意欲を高め、ESの向上につなげて働きやすい組織にすること、これが企業におけるメンタルへルスの究極の対策だと考えるのである。


三谷社会保険労務士事務所 三谷文夫

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