今回から、実際に中小企業は社員の『介護離職』を防ぐためにどうしたらよいかを考えてみたい。
中小企業のための『仕事と介護』を提案します[8]

まずは『現状把握』を!

多くの会社で、年に1回は上司と社員で面接を行っているだろうが、その際の質問項目に、社員の同居・別居家族の健康状態に関する項目を入れるのである。面談を行っていない会社は、これからぜひ行って欲しい。
 これは会社が各社員の実態を知るだけでなく、社員自身にも、自分の両親の健康状態についての『自覚』を促すことになる。

遠方の実家に住む両親のみならず、同居していても、両親の老いは認めたくないものである。特に男性は、親の老いに鈍感で、かなり症状が進んでいても認めたがらず、大変な状態になってから慌てるという傾向がある。
 老親の健康について気にかけることは、親のためだけでなく、社員自身の人生設計を守るためにも必要なことを面接の際に伝えてほしい。

具体的に確認する項目としては
・両親(社員本人だけでなく配偶者も)は同居か、別居ならどこに住んでいるか
・両親の年齢と健康状態はどうか
・両親の介護が必要になったときに、主介護者になるのは社員本人か、兄弟姉妹か、社員の配偶者か
・主介護者になった場合、どのくらいの時間を介護に割くことになるか
・今は主たる介護者ではないが、いずれ自分が主介護者になる可能性はあるか
・親でなくても、独身の親戚などの介護の可能性はないか

以上のようなことを聞き取り、会社は、各社員の緊急性の高さを把握しておきたい。

柔軟に対応できる仕組みや体制、姿勢を社員に示そう

同時に、『社員の介護に対して、会社は理解をして協力をする』という姿勢を示す必要がある。
 具体的には、介護している社員について、勤務時間、勤務日の急な遅刻・早退に対して、柔軟に対応できる仕組みや体制を整えることである。
入院中の老親の具合がわるくなったために新たな治療をしなくてはならず、家族のサインが必要になったり、施設に入所している認知症の親が施設で問題を起こして呼び出されたりするのは突発的に起こり、ほとんど平日昼間に対応しなくてはならない。

 老人の健康状態は波があるため、落ち着いたかと思えば、急に悪くなったりする。できないことのほうが増えていき、確実に衰えていく。しかも、介護はいつまで続くのかわからない。そのため、社員も自身のキャリアをあきらめて時間勤務にするのか、自分のキャリアを継続させるため親を施設に入れるのか、親の体調が変化する度、選択をしなくてはならない。

会社のマネジメントや人事担当者は、介護しながら働く社員が短時間勤務となっても困らないように、周囲に業務の分担や引継ぎができる手立てはないか、より効率的な仕事ができる方法はないか、上司・同僚や部下など全体を見て、常日頃から考えておくことが重要である。

 さらに、社内全体に、『介護』に関する理解を深める必要がある。
 介護に関しては、自分がその立場にならないと、自ら情報を得ようと考えることはまだまだ少ないだろうが、介護する立場になってからでは遅いことが多い。

 
そこで会社は、介護に関する情報を提供する機会を持って欲しい。 『育メン』など、育児・子育てについて、やっと企業内で、男性の育児参加に声を上げることに対しての抵抗が少なくなってきたが、介護に関してはまだまだである。

親の介護を一人で抱え、誰にも相談できず、遅刻・早退、休みを繰り返し、周囲が気づいたときには『介護離職』せざるをえないという男性社員は多い。すべての社員に、『親の介護』がいずれあるかもしれない。介護とは何かを知り、介護しながら働く社員の『時短勤務』や『急な休み』についての抵抗感をなくして、お互い様の雰囲気づくりを今から作っていく必要がある。

キャリアを積み、ベテランの中高年社員が、周囲の無理解から『介護離職』に追い込まれたという事態は、中小企業としては絶対に避けなくてはならない。

 次回は「会社が働きながら介護する社員にできること」を詳しく考えてみたい。


ふくすけサポート社会保険労務士事務所 
社会保険労務士 産業カウンセラー 仕事と介護コンサルタント 
森大輔

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