デロイトトーマツグループは2020年12月3日、「企業の不正リスク調査白書Japan Fraud Survey 2020-2022」を発表した。調査は2020年6月25日~10月16日、上場企業・非上場企業の427社より回答を得た。これにより、会計不正や汚職、情報不正、横領など不正の実態が明らかとなった。なお、本調査は2006年より定期的に実施しており、今回で7回目となる。
コロナ禍における企業の不正リスクを調査。発生件数は増加しているが、危機意識は後退

不正発生は2年で6%増加

新型コロナウイルス感染症拡大によりリモートワークが普及した2020年、企業活動における不正調査はどのような結果を見せたのだろうか。まず、「不正の発生状況」を2018年と2020年で比較した。すると、「過去3年間で不正が発生した」と回答した企業は、2018年は48%だったが、2020年には54%と、6%増加していることが判明。具体的には、「会計不正が発生した」が31%から40%に、「海外関係会社で最も多額の不正が発生した」が16%から24%となり、いずれも増加している。一方で、「不正に対する危機意識」を尋ねると、「高まった」は71%から61%に低下していることが明らかとなった。
コロナ禍における企業の不正リスクを調査。発生件数は増加しているが、危機意識は後退

コロナ禍で情報管理を徹底したのは約5割にとどまる

次に、「在宅勤務の導入に際して追加的に必要となった対応」については、「インフラへの投資」が68.38%と最多で、その内容はネットワークやサーバの強化、会議システムなどの追加となっている。一方、セキュリティレベルやモニタリングの強化といった「管理情報の徹底」は49.88%と、情報不正のリスクを取り締まる対策は十分ではないことがうかがえた。
コロナ禍における企業の不正リスクを調査。発生件数は増加しているが、危機意識は後退

喫緊の課題は「内部監査」や「内部通報」の強化

続いて、「不正ガバナンスの状況」についての質問で、「内部監査やコンプライアンスの人員」を尋ねると、「10人以下」という回答が72%にのぼった。また、「不正に関する内部通報年間件数」は、「5件以下」が79%と約8割を占める。コロナ禍でのリモートワークでは、オフィス勤務時以上の不正拡大も懸念される。「内部監査」と「内部通報」は不正を検知する2大ルートとなっているため、セキュリティ管理の強化は急務といえるだろう。

さらに、「業務プロセスの半分以上が紙依存」とした回答は、アジアの海外子会社で85%におよぶ。日本国内では18%デジタル化が進んでいるのに対し、アジア圏での遅れが確認された。そのほか、「社内取締役に有事の主導を期待するか」については、16%と少数にとどまった。
コロナ禍における企業の不正リスクを調査。発生件数は増加しているが、危機意識は後退

欧米と日本で、取締役の不正対応への「責任」の捉え方に差が

内部監査や通報、デジタル化といった組織的な対応不足を解決するために、「不正ガバナンスの強化」を早急に進める必要があるだろう。例えば、「クローバック制度」は、不正発覚時に役員報酬を返還する仕組みで、欧米では広く普及している。しかし日本企業に「クローバック制度の導入状況」を尋ねると、「導入済み」は3.8%、「導入を検討している」は2.8%と、合計でわずか6.6%という結果にとどまっている。また、「導入に関する検討や議論はいまのところない」とした企業は86.9%だった。このように、取締役の不正に関する対応責任の捉え方は、欧米と日本で大きく温度差があるようだ。
コロナ禍における企業の不正リスクを調査。発生件数は増加しているが、危機意識は後退
リモートワークの普及により、企業に属する従業員に隅々まで規範意識を浸透させることが難しくなると予想される。今後、不正リスクが高まることも懸念されるなか、企業や従業員を守っていくためにも、「コーポレート・ガバナンスの強化」は優先的に取り組むべき経営課題といえるだろう。

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