最近、キャリアに関する話をよく耳にする。トピックとして大きく2つ挙げられる。
 ひとつは、30歳を前にした世代である。新卒で入社して数年が経ち、現場で実務をこなす中心メンバーとなり、上司や後輩などの同僚、他部署、社外関係者など社内外からの信頼も厚くなる頃である。
キャリアデザイン~中高年のキャリア対策は前向きに

しかし一方で、30歳を超えてこの企業に留まるか、それとも30歳までに例えば転職するか、迷う時期でもある。一部、自社にミスマッチな人材はこの時期までに見極めたいという企業もあるが稀で、多くの企業は社内に留めるためのモチベーションを高めたいというのが共通傾向である。多くは、研修で対象者を集め、期待・役割を込めた会社からのメッセージと動機づけ、何らかのスキルインプット、ガス抜き等々で構成された内容で展開し、懇親会で締めくくるといった内容である。当然、短時間での研修であるため効果に限界はあるものの、久しぶりに同期や同年代と意見を交わし、皆それぞれの持ち場で一生懸命頑張っているのだなと認識して職場に戻るようである。

 もうひとつは、中高年世代である。2010年4月1日に発表された労務行政研究所の調査によると、制度上の課長の標準昇進年齢は39.4歳と約40歳となっている。一般的に、会社のキャリアは40歳前後で決まってしまうと言われるが、データにもあるように会社がラインになる人材かどうかを見極めるのは40歳と言える。バブル崩壊後、多くの日本企業は、業績に比して正社員数が多いことを理由に人員削減を行ってきたが、そのターゲットとなったのは、年功運用で高い賃金・処遇となった中高年齢層であった。国際競争力の観点から、今もってまだまだ正社員数が多いと指摘はあるものの、ここにきて、景気の緩やかな回復、65歳雇用確保、オリンピック需要など様々な材料とともに、今後の人員不足が懸念されている。企業の方針も、低業績者の抱え込みはしないものの、将来にわたって継続的な成長を支える人材の育成が主眼となっており、なかでも人員構成のボリュームゾーンであるバブル期社員を、お荷物として扱うのではなく、再度活用して行こうというスタンスをとる企業が多くなってきた。
その方針の下、中高年齢層再活性化がひとつのキーワードとなっており、昨年あたりから中高年対象のキャリア研修が増えている。ここで再考いただきたいのが、中高年の一人として言わせてもらうと、1日研修でこれまでのキャリアの棚卸しをして、これまでやってきたことが今後組織にどう貢献できるかの整理をし、研修後にモチベーション高く働くための所信表明をする、というのは勘弁願いたい。これまでのキャリアを他人に開示し、あれやこれやとコメントされることでモチベーションが高まるとは到底思えず、せめて研修前の事前課題として静かに振り返るというのが無難であろう。それよりは、今後のキャリアを支えていける何がしかのスキルを習得させてもらった方が、少しは組織貢献できるような気がするが、いかがだろうか。


HR総合調査研究所 客員研究員 芝沼芳枝

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