状態の変化による対応策の柔軟な変更

(1)の原因は、「環境変化」と「その変化への不適応」という2つに分解できる。そうであれば、変化に適応するための対応策を講じることにより問題が改善されることになる。

対応策を検討するには「変化前」と「変化後」の状態を比較することが重要だ。この比較をしないと原因が特定できず、環境変化に適応できなくなってしまう。さらに、原因を把握することだけでなく、問題が発生したらどのような影響が出てくるかについても検討することが望ましい。

この理は職場復帰においても同様だ。従業員がうつ病から復職する際には、職場復帰支援プランを作成した方がよい。プランを作成するに当たっての「変化」とは、休職が必要になるような健康状態に変化したことを意味し、これにともない産業保健上の目標も変化する。すなわち、メンタルヘルス不調になる前は業務遂行能力が十分だったので、「健康保持」を産業保健上の目標とすればよく、人事対応としては特段の措置を講じないか、講じたとしても軽微なものにとどまる。

これに対し、休職に至れば業務遂行能力は低下してしまうので、「健康を回復すること」が産業保健上の目標となる。これを達成するためには、必要な就業上の配慮をおこなわなければならない。それにもかかわらず、変化前の人事対応を継続すれば、メンタルヘルス不調が再燃・再発して職場復帰が失敗に帰すること(問題の発生)は必至だ。その結果、再休職や退職による人材の喪失や労働トラブルの発生という負の影響がもたらされる。

そこで、状態の変化に応じて人事対応も柔軟に変更することが必要であり、この配慮により問題を改善しなければならない。この場合の「配慮」とは、「休職前の業務を十分に遂行できる程度への健康状態の回復」という目標と、「休職者の現状とのギャップを埋める手段・方法」をいう。

職場復帰の場面で労働者とトラブルが発生するケースにおいては、管理監督者や人事労務管理スタッフが「変化前の人事対応」を前提にしているのに対し、労働者やその主治医は「変化後の人事対応」を重視していることから、労使の認識に齟齬が生じてしまい、原因の特定をしないまま配慮(変化への対応)ができず、問題(対応を必要とするギャップ)が解決できないでいることが見受けられる。

状態の変化に適応できていなかったのであれば、まずは変化を把握したうえで、労働者との間で原因の認識を共通にし、さらに主治医や産業保健スタッフと連携して、変化に適応した配慮をする(従前の人事対応を変更する)ことが、人事労務管理スタッフのマネジメントとなろう。
佐久間大輔
つまこい法律事務所
弁護士
企業のためのメンタルヘルス対策室
https://mentalhealth-tsumakoilaw.com/
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