6月20日に成立した「過労死防止法」には、過労死を防止する総合的な政策を行うことは「国の責務」と明記されている。その上で、国や自治体に対し、過労死の実態調査をすることや、過労死を防止する会社の取り組みを支援することなどを求めている。
過労死防止法成立! 会社として取り組むべきポイント

 特に、過労を原因としたメンタル不調者の増加は、社会問題となっており、職場におけるメンタルヘルス対策は会社のリスクマネジメントとして取り組まなければならない重要課題といえよう。この課題についての有効なリスクマネジメントは、厚労省が示した「労働者の心の保持増進のための指針」や労災認定にあたっての「心理的負荷による精神障害の認定基準」を中心にポイントを押さえることである。

【月45時間超の残業は危ない】
 前述の精神障害の労災認定基準では、月160時間程度の残業はそれだけでうつ病等の精神障害の原因とされる。そこまでの残業がなくても、月80時間を超える残業は、脳・心臓疾患の発症にも関連性が高いと判断され、業務と発症との因果関係が認められる。
 このことを勘案すると、企業は月80時間を超えないように残業管理をすれば問題ないように思える。しかしながら、残業時間に関する36協定(サブロク協定)の関連基準では、1か月の残業時間の限度を45時間と定めている。とすれば、企業は残業時間を月45時間以下で管理することが望ましいであろう。

【メンタルヘルス教育研修を実施する】
 前述した「労働者の心の保持増進のための指針」では、企業はメンタルヘルスケアの推進に関する教育・情報提供を行うよう努めることとされている。企業が全社員に対してメンタルヘルス教育を実施しているという実績作りはリスク回避につながるであろう。
また、最近では、メンタルヘルスに関するセミナーや資格(メンタルヘルス法務主任者、メンタルヘルス推進担当者養成研修など)が充実しているので、人事や労務担当者などは積極的に参加されることを検討いただきたい。

【社員の健康管理体制を徹底する】
 あなたの会社では、健康診断を受けてもそのまま受けっぱなしになってはいないだろうか。会社には社員の健康配慮義務があるため、健康診断でもし異常所見があった場合には、再検査や精密検査を受けるよう勧奨する必要がある。一番のリスクは、会社が再検査や精密検査が必要であると認識していたにもかかわらず放置していたという事実である。そのため、業務命令を課してでも受診を促す必要があるだろうし、それでも受診しない場合には、懲戒処分にすることも辞さない覚悟が必要である。
 また、これも先日成立した労働安全衛生法改正法案では、健康診断とは別の枠組みで「ストレスチェック」が義務化される(50人以上規模の会社、施行日は未定)。こちらの法案の動向も要チェックである。

【労災の上乗せ保険等の加入も検討】
 上記のような対策を行っても、万一そのリスクが回避できずに労災として認定された場合、それとは別に、会社の健康配慮義務違反が問われ民事的な損害賠償請求へ発展する可能性が高い。そうなれば巨額の損害賠償金を支払うことになる。
 そのような金銭的なリスク回避のために、民間の保険会社の商品である労災の上乗せ保険や使用者賠償責任保険等に加入する方法もある。労災保険では損害賠償の全額を填補することはできないため、労災保険ではカバーされない部分を補償してくれるこのような保険加入もひとつのリスク対策といえよう。


三谷社会保険労務士事務所 三谷 文夫

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