「女性活躍推進法」が改正され、2022年4月から一般事業主行動計画の策定と届け出・情報公表義務の対象が、301人以上の事業所から101人以上へと拡大される。また、301人以上の事業所については、2019年6月1日から情報公表の強化・勧告違反の公表が始まる。このように、女性活躍へのさらなる対応が求められる中、その中核ともいえる施策が「女性管理職の育成と登用」である。実力ある女性管理職育成のためにはどのような方法があるのか、具体的に見てみよう。
女性管理職登用のために、会社が取るべき実効性のある対策とは

業務配分と評価にジェンダーバイアスがないかを点検する

まず、男女問わず、管理職になれる人となれない人の違いはどこにあるのだろうか。管理職に登用される人は、どのようなルートをたどっているのか。その点をまず確認し、女性にとって不利な状況であれば、是正していく必要がある。

一見遠回りのようだが、女性管理職の登用を、国の定めた行動計画のためではなく、今後、すべての社員がやりがいをもって仕事に取り組むための施策である、と考えれば、ここを避けては通れない。

管理職となる条件には、大きく分けて2つある。ひとつは、与えられた業務で実力を発揮することである。あまりにも当たり前のようだが、この「与えられた業務」というのが曲者だ。「業務」とひとくちにいっても、比較的容易で誰にでもできるものから、チャレンジングなものまでさまざまだ。「この業務がこなせるようになったら一人前」という、職場ごとに中核的な業務というものがある。また、「難易度は高いが、これをこなせると高い評価に結びつく」という種の業務もある。女性にそのような業務を与えているだろうか。

上司の「すぐ辞めるかもしれない」や「会社にいても家事育児で長時間働けないかもしれない」といった先入観から、女性に「管理職への登竜門」となるような仕事を最初から与えていない状況はないか。ここをまず、確認してみよう。

次に、与えられた業務をしっかりこなしたとしても、上司からの高い評価につながらないと昇格には結びつかない。これが、管理職登用の2つめの条件だ。

多くの企業では「相対評価」を採用している。1~5に段階分けされた評価に、それぞれ適用する人数が最初から割り振られているとすると、最高点の「5」を誰に与えるかという問題が生じる。

しっかり働いている女性部下に「4」はつけても、昇進に結びつく「5」は家事育児の負担を負う必要がなく、仕事だけに打ち込める男性部下に与える。そのようなジェンダーバイアスはないだろうか。この点も、よく点検する必要がある。

「女性のやる気のなさ」のせいにしない

女性管理職を登用しようとしても、候補者となる女性自身が「やりたくない」と逃げてしまう場合がある。「女性活躍推進の課題は女性たち自身のやる気である」と社内で結論づけた結果、何がおこなわれるのかというと、「女性管理職候補を対象としたキャリア研修」である。この研修をおこなうこと自体は良いのだが、その前にやらなければいけないことがある。「女性部下育成のための上司を対象とした管理職研修」である。

女性たちにだけ研修をおこない、上司への研修をやらないとどうなるか。研修を受けた女性たちは、自らのキャリアについて深く考え、リーダーになろうというモチベーションを持つようになる。しかし、研修後に自分の職場に戻って、相変わらず女性部下を“2軍”のように見る上司と接すると、却って失望が大きくなり、研修を受ける前よりもモチベーションダウンしてしまう。

さらに、管理職候補となる女性社員をリストアップするところまでは、たいていの会社がおこなっているのだが、その候補者たち一人ひとりにどのような課題や障がいがあるのか、踏み込んで分析し、対策をしている会社はほとんどないのではないだろうか。本来は、それこそが、必要な施策なのである。

「男性にはそのような対応はしていないのに女性の場合のみおこなうのでは不公平ではないか」と感じる人もいるかもしれない。しかし、前述のように、業務配分にしても、評価にしても、これまで長い間女性への不利な扱いがあった。いま管理職候補となっている女性たちは、そのような環境の中で育ってきているのである。これから会社が方針転換をしたとしても、男性と同じ土俵で戦うには、「女性が参考にすべきロールモデルがいない」といった状況がハンデとなる。

女性管理職の人数が少ないうちは、特別扱いされ、本人もプレッシャーを感じ、なかなか実力が発揮できないかもしれない。しかし、数が増えるにつれて社内の女性たちのモチベーションも大きく変化し、会社自体の風土も変わってくるだろう。だからこそ、管理職登用の最後のひと押しは、会社側からおこなわなければならないのである。
李怜香(り れいか)
メンタルサポートろうむ 代表
社会保険労務士/ハラスメント防止コンサルタント/産業カウンセラー/健康経営エキスパートアドバイザー

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