例年、今の時期になると必ず発表される報道がある。「今年の新入社員は○○型」という新入社員の特徴を示した調査研究結果である。発表によると今年の新入社員は「自動ブレーキ型」なのだそうだ。自動車のテレビCMで浸透し始めた自動ブレーキになぞらえ、「情報収集能力にたけ、頭の回転が速い」などと評されている。また、「何事も安全運転の傾向」「どこか馬力不足」とマイナスの指摘もされている。ちなみに昨年度は「ロボット掃除機型」といわれた。
今年の新人は本当に皆、「自動ブレーキ型」? 〜マイナスの先入観の功罪〜

 非常にユニークな発表だが、人材育成を行ううえでは、このような考え方には気をつけなければならないことがある。新入社員に対して「何事も安全運転の傾向」「どこか馬力不足」などと「マイナスの先入観」を持つことには、デメリットが多いからである。ヒトとヒトとがコミュニケーションを円滑に行うためには、相手に対して「マイナスの先入観」を持つこと、いわゆるレッテルを張る行為は非常に危険である。

 「人は期待されたとおりの成果を出す傾向がある」といわれる。たとえば、「皆、新人の君に期待しているから頑張れ!」と前向きな雰囲気で迎え入れられた新入社員は、業務開始後の伸びが大きい傾向にある。無意識のうちに「期待しているから頑張れ!」という周囲の思いに応えようとするからである。このように、相手の期待に応えようとやる気になる仕組みのことを「ピグマリオン効果」という。

 反対に、上司、先輩社員が「今年の新人は馬力不足だ」「頭の回転は速いけど、チャレンジ精神に欠ける」などという「マイナスの先入観」を持って日々接していると、新入社員はそのような「“マイナス”の期待」に応えることになり、本当に「馬力不足な人材」「チャレンジしない人材」になってしまう。これは、新入社員がもともと「馬力不足な人材」「チャレンジしない人材」だったわけではなく、上司、先輩社員が「マイナスの先入観」をもって接するという就業環境が彼らをそうさせてしまうのである。

 こちらが「マイナスの印象を持っていること」は、必ず相手に伝わるという特徴がある。不思議なもので言葉、表情、雰囲気、対応の端々から、「この人は自分に良い印象を持っていない」ということが分かってしまうものだ。自分にマイナスの感情を抱いている相手に対して、良い感情を持つ人はいない。それがたとえ、職場の上司であったとしてもである。結果として、上司、先輩社員と新入社員がお互いに「プラスの感情」を持つことが困難になり、職場のコミュニケーションが円滑に行われにくくなるという状況に陥ってしまう。

 また、「マイナスの先入観」が間違っていることも少なくない。確かに新入社員の入社当初は、彼らの未熟さに戸惑うことが多いものである。しかしながら、つい先日まで学生であった新入社員にとっては、毎日が緊張と戸惑いの連続である。それが故に、「やるべきことがなかなか分からない」「緊張が原因で思うようにできない」という状況に陥りがちである。上司、先輩社員が望むような行動ができないのは、必ずしも新入社員が初めから「マイナスの素因」を持っているからとはいえない。生活に慣れ、職場に慣れてくれば、十分に能力を発揮できる人材が多いものである。

 未知の相手に対して先入観を持つという行為は、こちら側に安心感を与える効果がある。これから対応する相手の情報を事前に持つことで、不安が薄れるためであるである。しかしながら、まだ深く接していない相手に対して「マイナスの先入観」を持つことは絶対に避けたい。「どのような人材なのか」は自分の目で確かめることこそが重要である。また、期待を掛ければヒトは頑張るものであることも忘れてはならない。人材育成にあたる方々は、「マイナスの先入観」を持つ行為にこそ「ブレーキ」を掛けてほしいものである。


コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)

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