海老原嗣生 著
扶桑社新書 798円


 海老原氏はパンチの効いた筆致で有名だ。適切な雇用データを引用しているので、論拠もわかりやすい。
 新卒採用を巡る論議に引用されるのは、主として「大卒求人倍率」(リクルート ワークス研究所)と「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」(厚労・文科省)、そして「学校基本調査」(文科省)の3つだ。それ以外にも多くの雇用データがあるが、新卒に関しては出口(卒業時)の就職率しか問題にされない。
就職、絶望期 「若者はかわいそう」論の失敗
本書ではもっと幅広い視点からデータを引用して若者の就業実態を論じ、「新卒で入社した会社で人生が決まってしまう」というウソを論破している。新卒でフリーターになっても中小企業は正社員として採用している。中小企業で働いた後に、実力が伴えば第二新卒採用で大手企業に転職できることもある。

 新卒採用では「ミスマッチ」が問題にされるが、本書を読むと違う風景が見える。
 大学生全体で言うと、年間55万人の卒業生がいて、就職希望者は45万人。就職できる人は35万人だ。そのうち大手企業や人気企業に就職できるのは10万名もいない。残りの25万~30万名を採用するのは一般知名度の低い大手企業と中堅・中小企業だ。難関大の卒業生でも全員が人気企業に就職できるわけではない。
 ところが学生たちは就活をスタートさせると著名企業に殺到してしまう。そのような学生の行動を形容するのに「ミスマッチ」という言葉は適切なのか?

 新卒無業者という言葉が、メディアで頻繁に使われるようになったのは2010年からだ。就職を希望しながら内定が得られず卒業する人を指している。「既卒3年=新卒扱い」は、新卒無業者を救済するための施策だ。しかし海老原さんは「既卒3年=新卒扱い」という施策を否定している。否定する理由も書いてある。
 無業のまま卒業しても、7割弱の人は35歳までに正社員になっている。「新卒でだめなら一生非正規」と思っている人には、この数字は高い印象を与えるかもしれない。しかしこの数字は「3人に1人は正社員になれない」ことも示している。なぜ正社員になれないのか?
 いろんな理由があるが、大きく分ければ「採用してもらえない」と「(採用してもらえるがいい企業がどうか)わからない」のふたつである。海老原氏に言わせれば、どちらも「ミスマッチ」である。この「ミスマッチ」を解消すれば、雇用問題のかなりの部分が解決できるのだ。

 「ミスマッチ」の解消策は、第5章「教育・雇用の一体改革案」で詳細に論じられている。現在の就業支援は、大学に対しては予算を付けてキャリアセンターの体制を充実させ、企業に対しては3年以内既卒者を採用する企業に補助金をつけるものだ。しかしこの制度はばらまきであり、補助金目当てのブラック企業が現れる恐れがあると海老原氏は警鐘を鳴らしている。
 海老原氏は別の解決策を提案している。政府に望む、「本当の新卒就活対策」は5項目で構成されている。
 1.中小企業合同「新人研修」、2.中小企業と学生の出会いの場の創設、3.中小企業「駆け込み寺」、4.中小企業「勤続お祝い金+休暇」制度、5.中小企業ミシュランの創設

 タイトルだけではわかりにくいので、詳細を知りたい人は購入して読んでもらいたい。やり方が具体的に書いてある。やろうと思えば、たぶんすぐにできるし、劇的に就活の中身を変える可能性がある。
 海老原氏は「政府」に対して提言しているが、自治体と大学、地域の商工会議所が協力すれば、提言のかなりの部分は実現できると思う。
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