近年、社会に対する無力感が広がっているように思えます。もちろん、変革を起こそうと行動しているシールズのような若者もいますが、実際、若年社員の研修をやっていると、それはいたって少数であることを痛感せざるを得ません。
弊社の意識調査に「世の中には、本気で取り組む気になれないほどくだらないことが多い」というものがあります。その解答傾向は、
そう思う   15.9%
わからない  22.6%
そう思わない 61.5%


と、6割以上が「くだらないことは多くない」という思考にはあります。ただし、この数字、2001年には69.4%あり、その後、徐々に減ってきています。「そう思う」と「わからない」の両方が徐々に勢力を増やしてきているのが現実です。
これから推察できるのは、「世の中に覚めている」というか、無気力感を持つ新人が多くなってきていることです。ちょっと、怖いですよね。おそらく、本気で取り組む気になれないことを経験してきているわけです。
過去は、ろくな動機づけをしなくても、「まず、やらないといけない」という意識から、与えられた業務に(それなりに)一生懸命取り組みました。先輩や上司から言われれば、「まぁ、そういうものだろう」と、行動を起こしてみて、そこから意味を見出して行ったのです。

しかし、現代は、「変に自信を持っている」、「やったこともないのに、できると思っている」等という新入社員への評価がこの数年、増え続けています。「ほめて育てられた」、「個性を認められた」世代で、低レベルの成果でも、「がんばったね」とほめられて終わってしまい、「ああ、これでいいんだ。だいたいのことを自分はできる」と自信過剰になっているのではないかと思います。挫折感を味わったことが少ないのです。ちょっとやると、褒められるので、たいていのことはできる気になり、自信過剰に見える、ということも言えます。

また、「自分にとっての利益は何か?」を問う傾向も強くなっており、それが「無駄と思えることはしたくない」との意識につながっていると思えます(利益=純粋な収入、周りからの評価、自分の内発的やりがい等)。「これこれこういう理由でやってほしい」というだけでは足りず、「それをやることで、あなたにとってどういうメリットがあるのか」を相手が自ら「そう思う」というレベルで説明する必要がある時代です。理由がわからない指示は、たいてい「くだらないこと」に分類されそうです。
 正直、いたって、面倒です。その面倒を乗り越えないと、育たない、ということです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こんな新入社員を「自ら考え、まず行動し、自ら成長して、成果を出す社員に育成する」間違いのない手法があるのならば、どんな企業でもそれを採用しているはずですが、残念ながら、そんな便利な手法はなさそうです。

 便利な方法ないにしても、多少、それに近い状態にできそうなことはあります。私は、この回答に近いものとして、「初期の段階においては、徹底したトレーニングで習慣化を促進する」ことにあると考えています。
・知らないことはできないという=あらゆることを教える。あらゆる状況での対応方法を教える(十聞いて一を知る)。
・意味の分からないことはできないという=いくつもの観点から、意義、意味を理解する(百説一理)。
・褒めないとできない=できる段階を細かく区切り、達成するごとにほめ、次のステップを提示する。


一つの習得項目に55段階くらいステップを作っておいて、絶えず意味を解き、あらゆる方向から回答を出せるようにしておくということです。どこかの予備校の手法のようですが、それが「当たり」に近いのだと考えます。ほめる、というのは、後で良いと思います。ここは、自分でほめて、自律してもらいましょう。
ただし、ここまで細かく分類して教えたとしても、仕事の多くは人が絡みますので、「評価における判断はあいまい」であること、「成果は、状況によって出方が変わる」こと等は押さえておく必要があります。仕事において、努力が実ることは少ないのです。

弊社のお客さまで、これに近いことを始めたところがあります。タブレット端末に、業務のかなり細かいマニュアルを入れ、「こういう時はこうする」というものが瞬時に出てくるようにしています。習得ステップも明確にして、段階を踏むように組んでいます。
ただ、それだけではなく、
・指導員を決めて、日常的にも指導に当たる。
・その指導員を資格制にする。
・月に一回、その部門全員でその新人のレベル診断をする。つまり、部門全員を育成に巻き込む。
・トップからは「業績と育成で迷ったら、育成を取れ」と明確なメッセージを出す。
・管理者から主任クラスまで、育成に関して人事評価の需要度を上げる。

ということもやっています。

ここまでできるかどうかは別にしても、部門全員で育成する仕組程度は、用意しておくことが重要でしょう。そうすれば、新入社員に対して、様々な観点からの指導が行われ、多面的になると考えます。もちろん、先輩社員のいうことがバラバラで筋が通らないのなら、話は別です。風土が育成に向いていないと思われます。

ちなみに、この設問、男女差が大きく、そう思うという割合で、男20%、女6%となっています。この傾向は、2001年から変わらず、男性のほうが「本気で取り組む気になれない」と考える率は高いと言えます。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!