メンタルケアと病気にならないための組織づくり

HRソリューションフォーラム Vol.7 講演録

三番町ごきげんクリニック 院長
澤登雅一氏

企業においてメンタルの不調を抱える人たちの数は、年々増加傾向にあります。社員のメンタルヘルス疾患が企業に与える影響は決して小さくはありません。逆に言えば、一人でも多くの社員が心身ともに健康な状態を保持すること。それが組織の成功に繋がります。そこで今回は、三番町ごきげんクリニック院長の澤登先生にご登場いただき、メンタルヘルス対策や自己管理法、病気にならないための組織づくりのヒントなどをお話いただきました。

対策が求められるメンタルヘルス

ある調査によると、メンタル不調により1カ月以上休職している社員が「いる」企業は6割を超え、中でも不調を訴える年代は20〜30代が多いと言われています。また、一度不調により休職してしまうと職場復帰は非常に難しいのが現状で、たとえ復帰したとしても、また同じように疲れてしまい、再び休職、あるいは退職を余儀なくされてしまう傾向があるようです。

メンタル不調で社員が6カ月間休職した場合、企業にはどんな損失があるのか。例えば平均年収409万円のサラリーマンが、メンタル不調で6カ月間休職したとすると、上司や人事の対応、代替え社員の給与、既存社員の残業代、代替え社員の教育費、休職中の月手当など、その支払総額は796.5万円にも上ります。つまり、これだけ企業が被る損害は大きいのですから、経費削減のためにもメンタルヘルス対策は不可欠なのです。

 メンタルヘルス対策に関しては、労働安全衛生法の改正により、労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)と、その結果に基づく面接指導の実施が義務化され、この12月からいよいよスタートしました。詳しい内容としては、ストレスチェックの実施、ストレスチェックの結果通知、面接指導の実施、面接指導結果の保存、医師からの意見聴取、就業上の措置の実施、守秘義務など。これらがきちんと行われて、保存されていないと、何か起こったときには企業側のマイナス材料になってしまうリスクもあります。

一方で、「メンタル不調の多くは精神的な病の自覚がない。自ら医師による面接指導の必要性を感じ、それを希望するか」、「多くの高得点者が出た場合に、医師による面接指導の枠が大量に必要になり、医師の面接の枠が足りなくなる」、「雇用不安を覚えるような職場では、本当のことを回答しない」、さらに差別や偏見の助長、精度の問題や効果の不明確さなど、ストレスチェック制度自体にも課題はあります。

健康のビジョンを持っていますか?

皆さんの中にも仕事のビジョンをお持ちの方は多いと思います。しかし、仕事のビジョンだけでなく、健康のビジョンも合わせ持っている方はどれだけいるでしょう。例えば、5年先の仕事のビジョンがあるとします。もしもその途中で自分が病気にかかってしまい入院するようなことがあったら、たった1度の入院で5年間の目標がすべて崩れてしまう可能性もあるわけです。そうならないためにも「5年後に健康な状態でいるために、今からこういうことをしておこう」といった健康のビジョンをしっかりと持つこと。そうすることで、今回のテーマでもある「メンタルケアと病気にならないための組織づくり」が可能になります。もちろん社員一人ひとりが健康ビジョンを持つに越したことはありませんが、まずは上に立つ人が自分の仕事のビジョンと合わせて、部下たちの健康ビジョンを描くことが大切です。企業あるいは自分の仕事を成功させるためには、当然周りの社員が心身ともに健康な状態でないと達成できません。そういう意味からも、たまには部下の方々と健康について話す時間を持っていただければと思います。

自己管理において必要な5つの要素

自己管理において必要なのは、先程お話した「健康のビジョン」に加え、「さびつかないこと」、「選択力」、「健康マネジメント力(実践力)」、「ごきげんでいること」…以上5つの要素です。私は現在、「がん」ともう一つ、「アンチエイジング医学」という新しいフィールドに取り組んでおります。アンチエイジングというと美容などのイメージを持たれがちですが、実はこれは、できるだけ健康で元気に長生きすることを目的とした医学です。では病気にならないようにするにはどうしたらいいのか。病的な老化というメカニズムを考えると、さびつかない(=酸化しない)ことが一つの大きな条件となります。そしてそれは日頃の生活習慣で防止することが可能なのです。

ヘルスファウンデーション、つまり健康の基盤は、皆さんの中に生まれ持って必ずあるものです。しかしそれは、年齢を重ねるにつれて乱れていきます。健康の根幹部分に乱れが生じると、例えば子どもなら成長や発達の障害、若い人であれば不妊、さらに年をとれば糖尿病や高血圧、動脈硬化、がん、認知症、また、年齢を問わず、アレルギー、メンタルの不調、頭痛、倦怠感などさまざま不調や病気が起こります。それらの症状を薬などにより治すあるいは抑えるのが従来の医療です。それはそれでもちろん必要なことですが、できることならそういった症状が出ないようにすることが望ましいわけです。

一般健診や人間ドックで扱う領域

皆さんの企業でも健康診断や人間ドックを実施しているかと思いますが、その診断結果を医師はどのような視点で見ていると思いますか? 健康診断とはいっても「健康」という側面から結果を見ているわけではなく、病気の早期発見を主な主眼としています。結果が基準値以内であれば問題なしという判定になります。“病名がつくような異常がないから健康”ではなく、“理想的な健康状態”を目指すのであれば、検査結果を病気という側面だけでなく、健康という側面からも見直す必要があります。後で述べる栄養分析プログラムなどがこれに当たります。こうしたアプローチを、もし企業単位でできたなら、その企業は社員の健康度が高まり、会社全体のアンチエイジングにも繋がるのではないでしょうか。

21世紀の日本の医療

日本人の平均寿命は、1950年には男性58.0歳、女性61.5歳。それが2013年には男性80.21歳、女性86.61歳と、この50〜60年の間に、男性が20歳以上、女性は25歳くらい伸びています。しかし一方で健康寿命はというと、2013年には男性71.19歳、女性74.21歳とあまり伸びていません。しかも平均寿命との間に男女それぞれ約10年の差があります。この差を0にするのがアンチエイジング医学の役目です。また高齢化が進む一方で、健康寿命は短いため、医療費が上がり続けるという問題もあります。現在38.5兆円にものぼる日本の医療費は、2020年代には70兆円になると見込まれており、いかに減らすかが課題でしょう。 

21世紀の日本の医療を考えたときに、若い世代に頼ることができない、医療費自己負担増大の可能性、国からの補助も期待できない…といった問題があります。つまり、可能な限り病気にならずに元気に寿命を全うすることが重要なのです。単に元気で長生きするだけではなく、20代、30代、40代…と、どの年代においても最高のパフォーマンスを発揮するためのアプローチこそがアンチエイジング医療の目指すところ――それを我々は実践しており、その縮小版をぜひ多くの企業にも取り入れていただきたいと思っています。

選択力について 〜人間の2つの時計〜

人間には2つの時計があります。一つは万人に共通するクロノロジカルエイジ(暦年齢)。もう一つは身体の機能、健康状態からみた年齢であるバイオロジカルエイジ(生物学的年齢)です。この2つの年齢のうち、後者のほうがはるかに重要で、暦の年齢が同じ人が10人いれば、10通りの生物学的年齢があります。それは日々、何を選択し、どんな生活を送ってきたか、つまり、どのような場所に住み、どのような食生活を送り、どのような生活習慣があり・・・その結果として表れるものです。今選択するものが、自分の20年後、30年後の身体を作るのです。

選択力について 〜食べものの選び方〜

特に食生活における選択が重要です。現代人は栄養過剰の栄養失調と言われています。水・大気汚染、土壌の枯れ、精製・加工食品、食品添加物などの影響から、必須ミネラル・ビタミンの欠乏傾向にあります。例えば鉄分が足りないと、「ほうれん草を食べましょう」と言われるほど、ほうれん草は鉄分が多く含まれる野菜ですが、1950年の国の調査によると、ほうれん草には100g中に13mgの鉄分が含まれていたのに対して、今はわずか2mgしか入っていません。つまり、同じ献立なら、今よりも昔の人のほうが栄養をたくさん摂取できていたということ。しかも現代人はコンビニ食品や加工品を多く食べるため、さらに栄養が不足します。栄養不足が何年も何年も積み重なると、不調を抱え、病気にもなりやすい。さらに「心の病は食事で治せ」というくらい栄養はメンタルにも重要ですから、栄養不足だとメンタルの病気にもかかりやすくなってしまうのです。ちなみに、旬の野菜は安くておいしいだけではなく、栄養価も高いので、旬の時期に露地ものの野菜を選んで食べると、足りない栄養素をうまく補給することができます。

 近年、アメリカでは野菜の摂取量が増加し、それに伴いがんの死亡率が低下してきました。一方、日本人の野菜の摂取量はどんどん減っており、その結果、いまだにがんの死亡率は右肩上がりです。がんの原因の第2位に「野菜や果物の不足(抗酸化物質不足)」が入っているくらいです。それほど野菜の摂取は大事なのです。野菜や果物の色(レインボーカラー)には多くの抗酸化物質が含まれており、色々な色の野菜を食べることで、がんのリスクを21%減らすことができると言われています。食事を少し変えるだけで、自分自身でがんのリスクを減らすことができるのです。

現代人は、タンパク質も不足しています。蛋白の必要量は、体重50sの人で1日 55〜60g(運動をさほどしない場合)と言われています。ちなみに、タンパク質を10g摂るには納豆2パック、卵1個、焼き魚小さめ1切れ、豆腐1丁が必要になります。
 また油もメンタルのバランスを取るのに非常に大事な要素です。最近はオメガ3の脂肪酸がクローズアップされています。例えば、えごま油、アマニ油、しそ油、魚の油など。これらをしっかり摂取することで、がんや動脈硬化のリスクを減らすだけでなく、メンタルの安定も保つことができます。

こうした食事の知識を職場のみんなが共有することで、心身のバランスを崩す人を少しでも減らすことが可能となるでしょう。年に1回でもいいので、ぜひ福利厚生の一環として食事に関するセミナーなどを開いてみてください。

「さびつかない」とは?

病的な老化のメカニズムは、酸化です。酸化とは、皮をむいたリンゴを放置しておくと茶色くなる状態をイメージしていただければ、わかりやすいと思います。現代人は多くの酸化ストレスに晒されています。電磁波、大気汚染、ストレス、食品添加物、放射能など。そうして体の中にフリーラジカルが大量に発生すると、ありとあらゆる病気の原因になります。酸化をどれだけ防げるか――。そのためには先ほどお話した抗酸化物質を多く含むレインボーカラーの野菜を積極的に摂ることが効果的です。

健康マネジメント力(実践力)について

健康マネジメント力に関して、企業でどんなことが実践できるのか――導入例をご紹介します。一つは、「栄養分析プログラム」。これは病気の早期発見という目的だけではなく、栄養状態の評価も分析するもので、現在の身体に必要な栄養指導と、適切なサプリメントの提案をテーラーメイドで受けられる検査です(福利厚生の一環として正社員を対象に年2回実施している企業あり)。そしてもう一つが、「オフィスサプリメントの設置」。これはビジネスマンに多い、心身の悩みに対応できる10種類のサプリメントを用意し、必要に応じて自由に購入できるものです。

栄養バランス=心の安定です。心と感情の安定には、興奮と抑制のバランスが必要になります。興奮過剰(不安・パニック・不快感・恐怖)は、興奮する脳伝達物質の過剰あるいは抑制伝達物質の不足が要因です。興奮不足(うつ・慢性疲労)は抑制する脳伝達物質の過剰あるいは興奮伝達物質の不足が原因となります。このバランスを整えるために、ビタミン・ミネラル・脂肪酸など多くの栄養素が必要です。

幸せな人は長生きをする

「Happy people live longer!(幸せな人は長生きをする)」。これはネイチャー誌のタイトルにもなった言葉です。幸福は自分自身を健康長寿にする。ごきげんな人は心血管病変になりにくいことが証明されています。そしてもう一つすごいことは、自分が持っている幸せは、最大3人まで伝染し、3人目の幸福度は6%アップするということ。人間は意思を持ってごきげんでいる必要があるのです。上に立つ者がごきげんなら、部下は少なくとも3人目までごきげんになります。ぜひ皆様も心掛けてみてください。
登壇者プロフィール
三番町ごきげんクリニック 院長
澤登 雅一


1992年、東京慈恵会医科大学卒業。血液内科医として日本赤十字社医療センターで主に白血病や悪性リンパ腫などの血液がんの臨床に従事。2005年より三番町ごきげんクリニック院長。病気を診る立場から、病気にならないことの重要性を痛感し、アンチエイジング医療を実践するとともに、ライフワークとしてがんの治療に力を注いでいる。
これまでに開発したサプリメントは、レスベラトロール、ビタミンBコンプレックス、亜鉛、マルチミネラル、マルチビタミン、アレルギー対策サプリメント、ビタミンDなど。

医学博士
東海大学医学部 血液・腫瘍内科 非常勤講師
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授
日本抗加齢医学会専門医・評議員
日本内科学会総合内科専門医
日本血液学会専門医
米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
エピジェネティック療法研究会 代表幹事
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著者プロフィール

HR Solution Folum Vol.7 講演録

2015/12/2-12/3開催

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