企業がコストをかけて研修を行っても、参加者が立てたアクションプランに沿って職場での行動が変わり、その行動が定着しているケースは多くないのが現状のようである。現場の成果につながらないため、研修を行うこと自体が参加者の上司に期待されず、「忙しいのに人を割かれる」ため歓迎されないという企業も少なくない。なぜ、こうなってしまうのだろうか。
HRプロ代表、寺澤康介によるキーパーソン・インタビュー第3回のテーマは、「行動を変え、現場で成果を出せる研修に、企業はどう変革していけばよいか」。今回、お招きしたのは、ITを活用して行動定着を実現させる教育システムを多くの企業に提供し、これまでの研修を変えていくことを提言している株式会社ネットマンの代表取締役、永谷研一氏。いまの企業の研修の問題や、今後、研修担当者に求められる「学びの場のマネジメント」という考え方、実際に研修を変えるための手法などについてお話をうかがった。

「成果」が問われないIT業界と教育研修業界の共通点

「『現場で成果を出す研修』へ、どう変革していくか」
寺澤 初めに、永谷さんのこれまでの経歴について聞かせてください。どのようなバックボーンや問題意識があって、現在の仕事をされるようになったのですか。

永谷 教育用ITシステムを手がけるネットマンという会社を1999年に立ち上げて、今年で15年目になります。最初に手がけたソフトウェアが社内アンケートシステムだったのですが、主に人事育成部門のお客様が多く、研修の効果測定や研修前の調査、従業員意識調査といったことにお使いいただいていました。ここから、企業の人事の方々とのおつきあいが始まりました。
問題意識ということでは、この会社を立ち上げる前、システム会社で開発の仕事をしていて「システム業界は不思議な業界だな」と感じていたことがありました。たとえば生産管理システムを開発すると在庫削減といった成果が出ますが、そこには課金せず、システムを開発しただけで、成果が出ていないのに対価を請求できる。これはおかしいなと。そして、教育研修業界に入ってみると同じでした。やっぱり、研修を行っただけで、成果も出ていないのに対価を請求できるのです。

寺澤 成果が問われていないあり方に違和感があったわけですね。

永谷 自分たちがサービスカンパニーになるためには、成果に対してコミットできるように仕事をしなければならないし、そのためには成果が測れる仕組みが必要だという思いが、当初から根底にありますね。
そういう背景から、2004年に人材育成マネジメント研究会というNPOを設立して、研修の効果測定やインストラクショナルデザイン(教育設計)ということに取り組み始めました。このNPOは企業で教育研修に携わる方々の勉強会を行うのですが、立ち上げた理由はほかにもあります。企業の人事・人材育成部門の方々は比較的自分の会社の中に閉じこもりがちで、あまり外に出ないと感じていました。研修デザインの技術や効果測定の手法について十分に勉強している人ばかりかというと、そうとはいえません。ですから、人事・人材育成部門の担当者の方々が集まって勉強できる場をつくりたいと考えたのです。開催してみると本音の話がたくさん出てきて、企業の中の問題がよくわかってきました。

寺澤 最初から企業向けに教育研修サービスの仕事をされていたのではなく、全く違う角度からこの世界に入られたわけですね。企業向けだけでなく、学校向けの教育ということでも、いろいろ取り組まれていますね。

永谷 2001年に、Cラーニングという大学向けのeラーニングソフトをリリースしたのが最初です。CはコミュニケーションのCで、授業中に先生と学生が双方向でやりとりできるソフトです。熱意のある先生に使っていただき、協調学習という「人と人が学び合う仕組み」をどうやってつくればいいか、どうすれば教育効果が高まるのかということを一緒に研究しました。そして研究論文を書いたり、学会に参加させていただいたりしました。そういう中で、この分野の学術的な知識を身につけられたことは大きかったと思います。

研修の納品物がなぜ「研修実施報告書」だけなのか

「『現場で成果を出す研修』へ、どう変革していくか」
寺澤 そういう経歴をお持ちだからこそ、いまの日本企業の教育研修の問題、課題として、違った視点で見えていることがあると思います。成果も出ていないのに対価を請求できるのはおかしいと指摘されましたが、確かに、成果が問われることはあまりなく、言ってみれば研修がやりっ放しになっているケースは多いですね。何が本質的な課題で、どういうことが起きているのでしょうか。

永谷 いまの企業の人材開発部門が行っている教育研修の一番の問題は、研修の納品物が研修実施報告書であるということだと思っています。本来、研修の目的は職場での行動変容です。それを誰もがわかっていて、そのために研修をやっていると言うのですが、どのように行動変容できたかということを研修の成果として納品している研修会社も、また、それを求める企業もほとんどありません。ごく一部には研修効果測定をしっかり行って分析する会社もあるのですが、ほとんどは受講者へのアンケート等の調査によるもので、時間的にも高コストですし、受講者がどれだけ正直に回答しているかどうかわからないという問題があります。そのため、結局、研修実施報告書が納品物になってしまい、研修を実施したら終わりだというのが現状です。このことは、研修の中身自体にも悪影響を及ぼします。実は目標設定が甘くなるのです。

寺澤 どういうことでしょうか。

永谷 研修の最後にアクションプランを作成して、全員の前で「これから職場でこういう行動をします」と宣言させて終わる研修があります。本来なら、問題を共有し原因分析をして課題設定と成果設定をした後、実践的な行動計画を作成させるべきですが、そこがとても雑に行われがちなのです。なぜなら、後で成果を問われることがないからです。
また、研修の直後に紙で満足度アンケートを行うことはよくありますが、満足度が高いからといって職場で行動変容が起きるとは限りません。実は、アンケート調査の満足度スコアを意図的に上げるために、話し合いの時間を長くしたり最後に感動で盛り上げたりするということもできてしまいます。これでは本末転倒です。非常に問題だと思っています。
ほかにも、企業で教育研修に携わる方々は、よく「良い講師はいませんか?」とおっしゃいますね。いわゆる良い講師、力のある講師に任せれば研修満足度は上がりますが、その人に教わったから行動が変わるかというと違います。教育研修業界では、「うちにはすごい講師がいます」ということを売りにしているベンダーもあります。「この人にこう言われたら自分も変わらなければ」と思うこともありますから、全て悪いとは言いませんが、行動変容させることが目的となった場合は、講師力に頼りすぎることの弊害も大きいのです。主体はあくまでも研修参加者本人でなければいけません。研修の納品物が研修実施報告書なのではなく、数カ月後の行動変容のデータであるという形に変えれば、研修の中身は自然に「学習者主体」になっていくと思います。

研修担当者と現場の間に距離があることから生まれる問題

寺澤 やはり、企業の研修担当者は研修を行うこと自体が自分たちの仕事になっているし、ベンダーも・・・

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人材養成の柱である研修の「欠点」に対して、どのように取り組むことで受講者の満足度を高め、成長につなげることができたのかなど、人事担当者必読の内容となっています。


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