さて、今回はこのセミナーの中で私がお話した講演テーマ「2013年度新卒採用をずばり予測!なすべき対策とは?」の中で、日本経団連が発表した2013年度入社以降の「採用選考に関する企業の倫理憲章」について述べた部分をご紹介したいと思います。
大手企業の短期決戦になる2013年度新卒採用戦線
日本経団連は、傘下企業の新卒採用活動に一定の指針を示す「倫理憲章」を毎年発表し、900社前後の企業が共同宣言に名を連ねています。2013年度新卒採用に向けた「倫理憲章」の発表内容がこれまでと大きく違う点は、(不特定多数向けの情報配信以外の)採用広報の開始時期を、「卒業・修了学年前年の12月1日」とし、従来の実質的な開始日であった10月1日から2カ月間後ろ倒しにしたことです。これは、主に大学や有識者などから批判の多かった「企業の採用活動の早期化・長期化が学業を圧迫している」という批判に対応したものと思われます。ただ、選考開始時期を「卒業・修了学年の4月1日」より後ろ倒しにすることについては、検討部会の内部でいろんな意見はあったようですが、理系学生の卒業研究に影響する、ようやく安定的に守られてきた選考解禁日がなし崩し的に破られる恐れがある、大手企業の後に選考時期のピークがくる中堅・中小企業の採用を困難にする等の考えにより、変更しないことになりました。
また、「倫理憲章」には、前述の12月1日以前に「大学が行う学内セミナー等への参加も自粛」することが明記されました。さらに、インターンシップは「採用選考活動(広報活動・選考活動)とは一切関係ないことを明確にして行う」「5日間以上の期間をもって実施され、学生を企業の職場に受け入れるもの」とされ、これによりOne dayインターンシップ等の採用広報的な色彩の強いものは排除されることになりました。これらの施策により、企業と学生が12月1日以前に採用・就職活動のために接触することは厳しく制限されることになったのです。
実は、この決定以上に大きな影響を与えることが、「倫理憲章」決定後に決まりました。それは、この新しい「倫理憲章」の取り決めに呼応し、大手就職情報会社で組織される業界団体が、就職ナビのプレエントリー開始日や合同就職イベントの開始日を12月1日以降としたことです。毎年5~6月ごろに行われていたインターンシップの合同説明会も、企業と学生が直接接触する場ということで、多くの就職情報会社が開催を取りやめました。日本経団連の動きに就職情報業界が呼応することで、12月1日以前の企業と学生の接触は、一層避けられることになったわけです。重要なことは、この就職情報会社の取り決めは、日本経団連傘下で「倫理憲章」に共同宣言している数百社の企業だけではなく、日本のほとんどの企業に影響するということです。
さて、ではこれらの影響でどういうことが予測されるでしょうか。弊社HRプロでは、企業に対してアンケート調査を実施しました(後掲「今月の注目データ」参照)。
まず、採用広報の開始時期がいつになるかの予測を聞いたところ、「卒業・修了学年前年の12月1日」にきわめて集中していることが分かります。これは大手企業だけではなく、中堅・中小、ベンチャー企業も同様の傾向です。特に今年は震災の影響で2012年度新卒採用の時期が後ろにずれ込んでいることもあり、物理的に早く準備をすることが難しいという理由もあると思います。また、就職情報会社の多くがプレエントリー時期を12月1日以降にしていることも大きく影響しているでしょう。
さらに、選考開始時期予測を聞いてみると、これも「卒業・修了学年の4月1日」に集中していることが分かります。こちらも大手企業だけではなく、中堅・中小、ベンチャー企業も同様の傾向です。今年はやはり震災の影響で、大手企業の採用選考開始時期が4~6月に分散しましたが、同じ企業クラスの競争では早期に内定を出した企業の方が有利になっているようで、来年は分散化することはまずないと思われます。
こうして見ると、2013年度新卒採用戦線は、大手企業中心にきわめて短期の決戦になることが予想されます。12月1日以前は企業と学生の接触が厳しく制限されています(実際最近よく聞く話なのですが、大学の就職部・キャリアセンターが、キャリア教育・支援の名目で大手企業に協力を要請しても、断られるか判断を保留されるケースが非常に多いようです)。そうして12月1日以降一気にプレエントリー、セミナーなどで企業と学生の接触が開始され、4月1日選考で決着がつくという流れです。その後に、大手を落ちた学生の多くが中堅・中小、ベンチャー企業に目を向けることになるでしょう。
こうした動きに対して、大学側の意見は賛否両論のようです。もともと大学側が学業圧迫を理由に企業に対して採用活動の早期化・長期化の自粛を申し入れていたわけですが、実際形になってくると不安が大きくなってきているのでしょう。
【大学就職部・キャリアセンター対象のアンケート調査(2011年5月実施)より】
・ 「学業の圧迫の観点からは歓迎であるが、短縮される分学生の就職意識を早めに喚起する必要がある」
・ 「学内のセミナー時期が短くなり、大手企業は参加しなくなる不安がある」
・ 期間が短縮したことにより、スケジュールが過密となるためよけいに学業への圧迫となるのではないか」
・ 「中堅大学および、中小企業にとっては、選考の時期の短縮は不利になると思う」
12月1日以前に企業人との接触が少ない中で学生のキャリア意識を高めることは難しいでしょうし、そのような学生が短期決戦の場に放り込まれて就職戦線に勝ち残れるか、現場をあずかる就職部・キャリアセンターの方々にとって不安になるのは当然のことと言えるでしょう。学生のためにどのような取り組みをするかが、今後問われてきます。
大手企業にとっては、この短期決戦の中、いかにターゲットとなる学生を引き付け、深くコミュニケーションを取り、他社との綱引きに負けない採用フローを作ることができるかが採用戦略のポイントとなります。中堅・中小、ベンチャー企業にとっては、同じ時期に採用活動の中心を置くかどうかがまず判断のポイントとなるでしょう。先にも書きましたが、大手を落ちた学生の多くが、中堅・中小企業やベンチャー企業に一斉に目を向けるのは4月1日以降でしょうから、そのタイミングにどのようなアプローチを行うかが恐らく重要となってくると思われます。
まだ2012年度の採用真最中の企業も多いでしょうから、2013年度新卒採用にはまだまだ意識が向かないでしょうが、大きな変化が予測される状況ですので、そろそろ大枠の戦略検討に入ったほうがよいかもしれません。
今月の注目データ
本文中に出てきた、2013年度新卒採用の「広報開始時期」「選考開始時期」に関する企業の採用担当者の予測です。「広報開始時期」が12月1日に、「選考開始時期」が4月1日に集中していることが分かります。調査対象: 日本の主要上場企業、未上場企業の採用担当者
調査方法: WEBアンケート
調査期間: 2011年4月22日~5月11日
回答社数: 528社
※[図表]では昨年同時期の対比データも使用しています。
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