今野晴貴 著
文春新書 809円

読み進めながら暗澹たる気持ちになる本だ。しかし、もっと読まれてしかるべき本でもある。わたし自身が「ブラック企業」という言葉をはじめて聞いたのは、2010年の初冬に千葉の私立大学キャリアセンターを取材したときのことだ。
 本書によれば「ブラック企業」という言葉はインターネットを通じて広がったそうだ。人口に膾炙するようになったのは2009年から。IT企業の過剰労働を取り扱った映画『ブラック会社に勤めているんだが、もう俺は限界かもしれない』が上映されてからだそうだ。
ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪
著者は2006年に労働相談を中心に活動する若者主体のNPO法人POSSEを立ち上げた人物。これまでに1000件を超える若者の労働相談に関わってきた。そんな経歴を持つ著者の実感では、若者に広くこの言葉が浸透するようになったのは「2010年の末以降」だ。比較的最近のことである。
 そして多くの大人は「ブラック企業と言ってもほんの一部の中小企業だろう」、「こらえ性のない若者にも問題がある」と高をくくっていると思う。わたし自身も本書を読むまでその程度の印象しか持っていなかった。しかし、間違っていた。いま日本社会を食い尽くす勢いで蔓延し、若者たちから未来を奪い、心や生命を脅かしているのがブラック企業である。

 本書には多くの企業のブラック実態が紹介されており、裁判で判決が下ったケースでは企業名を明らかにし、裁判になっていないケースでは仮名にしているが、どの企業かは容易に推定できる。ほとんどの日本人が知り、利用している小売業界、飲食業界、IT業界、気象予報業界の有名な高成長企業がブラック企業として告発されている。
 若者たちはブラック企業でどのような仕打ちを受けているのだろうか? いつからそのように変化したのだろうか?
 まずブラック企業が急増した時期だが、著者は「リーマンショック以降の2009年2月、3月ごろに寄せられた若年正社員からの大量の相談」と書いている。ほとんどが新卒からの相談であり、多くの違法行為があり、凄惨なハラスメントが横行しているのに、相談者たちはみな「自分が悪い」と口々に訴えた。つまり、企業への異常な従属があり、人格破壊が進行しているのだ。

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