鳥越 慎二 著
東洋経済新報社 2,100円

人事は様々な課題をつねに抱えているが、近年重要性を増してきたのがメンタルヘルスである。直訳すれば「心の健康」だが、メンタルヘルス対策という時は、うつ病などになった人のケアを意味したり、病にならないように職場環境を整えたり、産業医を置いたりする施策を指している。
メンタリティマネジメント~社員のストレスをモチベーションに変える方法~
ひとりの社員がうつ病になれば、他の社員の負担が重くなり、職場は荒れがちだ。生産性も低下するだろうから、企業がメンタルヘルス対策に取り組まざるを得ないことはよく理解できる。
 ただ取り組みの進捗は遅い。本書のデータによれば、メンタルヘルスケアの実施状況は5000人以上の事業所では100%だが、10~29人の中小事業所では29.2%にとどまっており、対策措置を講じている中堅中小企業は少ない。しかし300人以下の中小企業経営者の66%は、従業員のメンタルヘルスケアに不安があると回答している。手を打ちたいが、コストがかかるので着手できない、有効な施策がわからないという経営者が多いのだろう。
 そんな企業の経営者や人事担当者に薦めたいのが本書である。
第1章は「守りのメンタルヘルスから攻めのメンタリティマネジメント」と題され、他のメンタルヘルス本と異なる立場を明確にしている。一般にメンタルヘルスは後ろ向き、守りの施策として捉えられることが多いが、本書はメンタルヘルスではなく、メンタリティマネジメントとして前向きに捉えている。

 さてメンタリティとは何を指しているのか? mentalityを英和辞典で調べると心性、知性、および考え方、性行、性格などの訳語が並んでいる。しかし近年盛んに行われているメンタルチェックは、狭義の意味でストレス耐性のテストを指しているし、メンタリティをプラス方向に拡張していくとエンゲージメントに行き着く。
 悪い状態のメンタルヘルスケアと、良い状態のエンゲージメントの間をマネジメントしようと言うのが本書の主張だ。

 著者は、メンタリティをコンピュータのOSのようなものだと論じている。そしてマネジメントやコミュニケーション、IT、会計、英語などのビジネススキル研修をアプリにたとえている。おもしろい比喩だ。
 OSがしっかりしていないと、いくら優れたアプリをインストールしても働かない。企業が行う研修マーケットは4700億円(矢野経済研究所、2012年度予測)と大きいが、ほとんどはビジネススキル研修らしい。
 つまりメンタリティを重視する企業は少ない。しかしメンタル不調者が出ると、損害は大きい。本書は、不調者1人当たりコストが約600万円という試算を紹介している。やはり対策は必要なのだ。

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