その背景は、年代別の労働人口です。ご存知のとおり、多くの日本企業の人員構成は、バブル期採用の40代が多く、氷河期採用の30代が少なくなっています。
ちなみに、ポスト不足の緩和策として専門職を導入する場合は、
「職種に関わらず、担当者として経験が長く何らかの専門性を持つ人材を、幅広く登用すること」
が多くなります。報酬水準の期待値は、従来の非管理職よりは高く、組織長として登用されている管理職よりは低く設定されることがほとんどです。違う言い方をすると、非管理職と管理職の間に新たな職を設けることで、報酬水準を非管理職より少し上げられるキャリアを設定し、現在の40代の不満や不安を抑制するような仕掛けです。
この施策は、現状の問題の緩和策として一定程度有効なのですが、気になる点も抱えています。それは、専門職制度の検討に際し、見え隠れする、
・50代(ないしは40代後半以上)の既得権にはタッチしない
・組織全体として年功制や終身雇用は(ある程度)維持する
・そのため現40代を処遇する、新たな仕組みが必要である
という考え方です。
この考え方は、「社員に大きなハレーションを起こさない人事運用を行う」という点では良く理解できます。ただ、
「企業価値を最大化するために、優秀な人材に、キャリアアップと高い処遇を得る機会を提供し、リテンション強化とモチベーションアップを図る」
という観点からは問題がありそうです。
つまり、専門職制度を設置しても、50代(ないしは40代後半以上)が既得権に守られ、現40代(特に前半・中盤)への機会提供が難しくなり、人材の有効活用が十分できない状況は変わりません。既得権を守るために、組織全体のパフォーマンス向上の機会を逸することは好ましくありませんし、生涯年収の期待値が世代により著しく違うことも公平性にかけます。
さて、それでは40代への機会提供のために、専門職制度の設置以外に工夫をするとしたら、どのような手段があり得るでしょう。
例えば、40代・50代社員の海外事業へのより積極的活用は、一つの施策として考えられます。多くの日本企業にとって成長の場は海外に移っています。海外のナショナルスタッフの強化も重要ですが、優秀な日本人社員も必要であり、国内と比較すると、ポストの提供も容易なはずです。この施策の実現に向けては、多くの40代・50代社員のスキルの再開発が不可欠であり、最重要課題となります。
また、"能力による登用のより積極的な推進"ももう一つの手段として考えられます。多くの企業では、基本的には能力ベースで昇格を決定していると思いますが、運用を工夫することでそれを強化します。例えば、経営者、部門責任者、人事責任者の合議によるタレントレビューの場を設定し、現ライン長、候補者に対して、フラットに能力・人物評価を行います。そして、その結果に基づき、現職との入れ替えを含めた昇格運用を行います。入れ替えは "劇薬"で、現実的には多くは発生させられないかもしれません。一方で、このようなレビューを行わず、部門責任者や人事責任者の個別判断では、新陳代謝が起こりにくいのも事実です。
年代別人員構成のひずみによる、40代社員に対する処遇の問題は、多くの企業を悩ませています。専門職制度の設置も一つの緩和手段ですが、根本的な原因を明らかにした上で、その解消に寄与する施策の検討が重要だと考えます。
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