経営に資する人材マネジメントの3つの定理

「いま、経営に資する人事とはどうあるべきか」
では、実際にどういうことを考えていくことが必要なのか。これは現時点の私の考えをまとめたものだが、経営に資する人材マネジメントには3つの定理がある。第1の定理は、適材適所を実行することだ。社内で、いるべきでない人がポジションに就いている、そのために、いるべき人がポジションに就けずモチベーションを落としているということがあれば、何があっても変えて行く意気込みがどこまであるか。それをやらないと経営はうまくいかないというほど、適材適所は企業の盛衰に大きくかかわってくる。もうひとつ言えば、タレントマネジメントとは、適材適所のアメリカ流、外国流の言い方だというのが私の考えだ。

 次に、第2の定理は、人材を潜在能力別に層化し、優秀層にはリスクを取ってチャンスを与えることだ。人材のなかには「優秀層」も「普通の層」も「対処が必要な層」もいる。「2・6・2の法則」をご存じの方も多いと思うが、この3つの層にきちんと分けたうえで、どの層にも同じ人材マネジメントをしてはいけないということがポイントだ。特に、ビジネスゴールの達成という意味では優秀層が重要になる。優秀層は放っておいても育つという考え方は間違いだ。それでは普通に育つ結果になるだけで、潜在能力のロスになる。育成コストをかけ、優秀層なりの扱いをする必要がある。そして、潜在能力に賭け、仕事を任せてチャンスを与えるべきだ。リスクを重視し、絶対できそうな人にしか仕事を振らないのでは人が育たない。ただし、このとき、潜在能力に賭けるということは失敗する可能性もあるのだから、その場合どうするか考えておく必要がある。具体的には、いったん重要なポストに上げた人を降格できるかどうかだ。日本の多くの企業にとって、こういうところはパラダイムシフトかもしれない。

 最後に、第3の定理は、強い現場を維持するということだ。たとえば、人は研修で育つというよりも、現場で育つ。したがって、現場が人を育てる力をどこまで持っているかということはきわめて重要な人事マターだ。また、みんなが部長になれるわけではないことは誰でもわかっているが、それでも、みんなが朝起きて、行きたいと思えるような現場があるか。普通の人たちが仲間と一緒に普通に頑張れる現場をどこまで作っていくかということも、人事が考えるべきことだ。

 目新しいことではないが、この3つの定理を人事としてどこまで徹底して実行できるかが、経営に資する人材マネジメントという意味では重要だと思う。まず、いまのやり方で本当にいいのかを考え始めることが、パラダイムシフトの第一歩になるのではないだろうか。

講演者 紹介

守島 基博氏
一橋大学大学院商学研究科教授。人材論・人材マネジメント論専攻。80年慶應義塾大学文学部社会学専攻卒業。86年米国イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得後、カナダ国サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。90年慶應義塾大学総合政策学部助教授、98年同大大学院経営管理研究科助教授・教授を経て、2001年より現職。著書に『人材マネジメント入門』、『人材の複雑方程式』(共に日本経済新聞出版社)などがある。

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