■主旨と内容

 ワーク・ライフ・バランス実現のために「残業の削減」は重要ですが,さらに効果的な手法が「有給休暇の積極的な取得」です。日本では年次有給休暇の取得率が欧米に比較して低いといわれます。
「仕事が忙しい」とか「取得申請しづらいムードがある」「休むと同僚や上司に気を使う」といった様々な理由があるようです。会社としても急に休まれたり,忙しい時期に取得されても困ります。
しかし,年次有給休暇は労働者の権利であって,本人が取得すると決めた場合は会社の承認の如何を問わず当然取得できる強い性格のものです。年次有給休暇を与えない使用者は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。それなら,制度化して,計画的・効果的にしっかり取得してもらおうというのが「長期計画年次有給休暇」の主旨です。

 年次有給休暇の計画的付与にはいくつかの手法があります。①一斉付与方式,②グループ別付与方式,③計画表による個人付与方式,の3 つが主なものです。今回重点的に取り扱うのは年度初めや経営計画立案時に,社員全員に長期にわたる年次有給休暇の取得計画を提出してもらい,全体調整を行って計画通りに休んでもらう個人付与方式です。

 労基法39条5 項には年次有給休暇の計画的付与の定めがあり,5日を超える部分については計画的に付与できることになっています(「5 日」には突然の病気などに備える保険の意味がある)。

 そもそも年次有給休暇の目的は,労働者の疲労回復,健康の維持増進,その他労働者の福祉の向上を図るというところにあります。良い会社として認められるためにも,今後はさらに年次有給休暇を取りやすくする必要があります。みんなが気兼ねなく長期休暇を取得できる職場なら社員はとてもわくわくするに違いありません。ある人は海外旅行に行ってリフレッシュ,ある人は自己啓発のために勉強する。しばらく仕事を離れることによって仕事へのモチベーションは高くなりますし,長期の休みは新しい発想を生み出すきっかけにもなります。まさにワーク・ライフ・バランスの理想に近づくことになります。

 2010年のワーク・ライフ・バランス大賞には北海道の六花亭が選ばれました。その際の選定理由は,年次有給休暇の100%取得を長期間達成しつつ,会社の生産性も高めるなど,名実ともに効果を生み出している点にありました。同社のように,有給休暇の取得は会社にとってムダでなく,利益になることを確信して推進する姿勢が重要です。整理すると,期待される効果は,主に以下の3 つです。
①年次有給休暇の取得率が向上し,職場に活力が生まれる
②有給休暇の取りやすい環境が社員の労働効率を高める
③企業ブランドがアップする

■検討内容

□カレンダーの作成
 年度初めや経営計画・業務計画を立てる際に,社員全員に長期にわたる年次有給休暇計画を提出してもらいます。突然の休暇申請や繁忙期の取得を避けるよう予め計画させることが重要な要素です。部門長は各人の予定をつかんだうえで業務全体のコントロールを行っていきます。予め年次有給休暇の取得時期をつかんでいるために,人員バランスを考慮して業務が回るように段取りしていく力が付きます。そのために,年間の有給休暇計画カレンダーを作成し,一定期間で上司が確認していくよう規定化が必要になります。

□休暇日数
 次のポイントは,年休の取得によってプラスの効果を生み出すために,ある程度のまとまった期間の休暇計画にしてもらうことです。最低でも1 週間,できれば2週間休めるようにするとワーク・ライフ・バランスが求めているシナジー効果が期待できます。

□就業規則・労使協定との整合
 年次有給休暇の計画的付与制度の導入には,就業規則による規定と労使協定の締結が必要になりますので要注意です。
・労使協定で定める項目
1.計画的付与の対象者
2.対象となる年次有給休暇の日数
3.計画的付与の具体的方法
4.対象となる年次有給休暇を持たない者の扱い
5.計画的付与日の変更

□労働法規との整合
 計画的付与についてはいくつかの条件がありますので,以下の内容を規定に盛り込みます。
・事業場全体で「計画的付与」の制度が導入された場合,有給休暇について,労働者の時季決定権および使用者の時季変更権ともに行使できない。
・5日を超える部分とは,前年の繰り越し分が残っている場合はその繰り越し分も含む。
・合理的な特別の理由があって年次有給休暇の付与日を予め決めることができない労働者については,労使協定を結ぶ際に計画的付与の対象者から除くこと等を労使間で協議する必要がある。
・計画的付与の到来前に退職する人がある場合は予定された日程以外で,その人の年次有給休暇を取得させる必要がある。

□取得時期の調整
 さらに取得時期の調整については詳細に規定化しておく必要があります。最初に調整を誤ると後で収拾がつかなくなります。編成後の変更についても,突発的な事情に備えて限定的に規定化します。

□休暇取得支援策の導入
 より長期間取らせるためにはいくつかのメリットとなる仕組みが必要でしょう。例えば資格試験の準備のための休暇であれば一部支援費用を出すなどです。あるいは,会社のメンバーと長期のグループ旅行に出かける企画などには,社員旅行として認め,費用を補助する制度なども考えられます。費用発生が伴いますが,他の福利厚生費を見直して,モチベーションの上がる制度に組み替えると会社が元気になります。

長期計画年次有給休暇規定(個人付与型)

第1 条(定義)この規定は年次有給休暇の完全取得のために,長期的に計画をして取得する年次有給休暇の個人別計画的付与についての規定である。

第2 条(目的)この規定は年次有給休暇の取得の向上とそれにより生まれる心身のリフレッシュとモチベーションの向上および業務の効率化を実現するために設けるものとする。

第3 条(期間)各年度とも1月1日から12月末日までの12ヵ月をサイクルとする。

第4 条(対象者)勤続5 年以上の者とする。

第5 条(日数)この規定の対象となる年次有給休暇の日数は発生日数のうち5 日を超える部分とする。
2 5日を超える部分とは,前年からの繰り越しの日数がある場合はその日数も含むものとする。
3 計画的取得の日数は一回に限り5 日以上10日以内とし,年1 回限りとする。
4 勤続年数および有給休暇保有日数は毎年1月1日を基準として判断する。

第6 条(対象外)年次有給休暇の権利を持たない者についてはこの規定は適用しない。
2 労使協定で定めた特別の合理的理由のある者またはその他やむを得ない事由があり,人事部の許可を得た者については適用しない。

第7 条(取得時期の調整)事業計画の繁閑状況を加味したうえで,毎年1 月○日までに対象者全員が長期計画年次有給休暇の取得計画を提出する。
2 取得時期については会社の業務に影響を与えないよう,所属長および本人が十分に話し合い,会社が決定する。
3 業務の特殊性を考慮して各部門において年間○ヵ月間の適用除外期間を設ける。
適用除外期間は○月○日より○月○日までとする。
4 各部門の管理者が調整の上,年間の有給休暇取得計画を年間カレンダーに記載する。
5 各部門の管理者はその計画に沿って業務の割り振りやサポート体制を構築する。
6 各部門の管理者は計画的付与について確認し,取得漏れがないように管理する。

第8 条(編成後の変更)有給休暇取得日編成決定後は,会社は計画的付与の日程を変更することができない。ただし,会社の業務都合による変更は以下の条件の場合,取得予定の2 週間前までは変更しうるものとする。
a. 人事異動などにより他の職場へ移った場合や退職などによって職場内の業務バランスが著しく崩れる場合。
b. 組織の改編があり,同一の職場に著しい業務のアンバランスが生じる場合。
2 原則として本人都合による変更は認められない。
3 計画的付与が到来するまでに退職することになった場合は,計画的付与に関係なく,本人の希望により退職までに年次有給休暇の取得をさせる。

第9 条(取得順序の調整)取得日の順序の調整については,勤続年数の長い者から,また勤続年数が同じ場合は有給休暇日数の多い者を優先する。

第10条(取得補助制度)○人以上のグループで親交を深めるために一定の条件で長期海外旅行計画を立てて実行した場合は別に定める一定の補助を行うものとする。
2 業務に役立つ資格を取得するために長期休暇を取得した場合は別に定める資格取得支援奨励金を支給するものとする(直近試験合格で合格証提出の場合)。
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