■主旨と内容

2010年の日本人の平均寿命は女性86.39歳,男性79.64歳となり,女性は長寿世界一です。ただ,この長生きは医学の進歩によるところが大きく,必ずしも年老いて健康である状態を示してはいません。長寿社会では高齢者介護の課題が避けられず,日本はこの先介護を必要とする家族を抱える従業員の急増が予想されます。
介護する側には,身体的な負担のみならず,精神的な負担も大きくのしかかってきます。働き盛りの従業員夫婦は現実にそれぞれの両親(=4 人の高年齢者)を抱えており,この親たちが介護状態に入る確率は日々高まっています。平成23年4 月の要介護1 ~ 5 の要介護者数は328万人強,要支援1 ~ 2 の要支援者数は87万人強となっています(厚生労働省)。

 一方で「一定の期間休業して介護に専念してもらい,その後また元通りに復職してもらう」といった運用を現実にできる職場は少ないでしょう。この状況にどう対応していけばよいのか,これは国民的な課題です。大切な人材を失わないためにも,まさに柔軟な勤務形態を考えていく必要があります。介護は育児と違って先が見通せずやっかいですが,早期に何らかの対応策を定めワーク・ライフ・バランスを実現するこれからの日本を支える企業を目指したいところです。

 具体的には介護休業の取得ではなく,柔軟な働き方を可能にする制度をご提案します。法律では以下のような取り決めがありますが,「介護のための柔軟勤務規定」ではこれらを組み合わせて選択肢の多いものにして使いやすくするということです。

【介護支援の法定基準】
 事業主は,要介護状態にある家族を介護する労働者に対し,次のいずれかの措置を設けなければならない。
①短時間勤務の制度
②フレックスタイム制度
③始業・終業時刻の繰り下げ・繰り上げ
④労働者が利用する介護サービスの費用の助成その他これに準ずる制度
 日数は,対象家族1 人につき一の要介護状態に到るごとに1 回,通算93日までの期間で労働者が申し出た期間

■検討内容

・対象者の範囲
 「要介護状態にある家族を介護する従業員であること」など,法より柔軟に定義したいものです。
①要介護状態にある家族を介護する従業員で,介護休業をしない者
②要介護状態にある家族を介護する従業員で,介護休職の期間が93日未満の者

・柔軟勤務の期間
 要介護状態が終了するまでの一定期間とし,6 ヵ月単位でその都度協議して更新できるようにしてはいかがでしょう。

・柔軟勤務の形態
①短時間勤務
②フレックスタイム制
③繰り上げおよび繰り下げ勤務
 ここでは給与の減額のない柔軟な勤務形態とします。短時間勤務や労働日数を減らす制度については,育児の短時間規定に準じた考え方ができます。

・フレックスタイム
 フレックスタイム制の場合は清算期間の定めと所定勤務時間数を明記します。またコアタイムとフレキシブルタイムの幅を設定します。ここでアイデアとしては「断続的勤務可」という考え方も組み入れてはいかがでしょう。清算期間中の労働時間の超過または不足の取り扱いも定めます。繰り下げまたは繰り上げ時も同様,報告や労働時間の記録についてのルールを明記します。

・繰り上げ・繰り下げ勤務
 繰り上げ・繰り下げともに複数の選択肢を用意します。当然,この勤務形態を適切に自己管理できない場合は途中であっても適用を解消する旨を規定化します。長期間の柔軟勤務可能を実現するためにも一定のルールを設け,遵守してもらうことが重要です。
 上記に加えて,法定の介護休暇とは別の特別介護休暇を設けて時間単位で取得できるようにする方法もあります。その場合は,無給とすることで必要に応じて割り切って取得できるよう配慮します。
 以上のように介護休業を使わずに雇用と生活の安定を維持しながら柔軟な勤務ができる制度もぜひ検討し,できるだけ早いうちに整備したいものです。

介護のための柔軟勤務規定

第1 条(総則)この規定は,介護のための柔軟勤務制度についての取り扱いを定める。

第2 条(対象者)柔軟勤務制度は,介護休業取得の有無にかかわらず,要介護状態にある家族を介護する従業員に適用する。

第3 条(定義)「介護のための柔軟勤務規定」とは,要介護状態にある家族の介護にあたる従業員が以下の制度で勤務するためのものである(①~③の選択制)。
①フレックスタイム制 ②繰り上げ・繰り下げ制 
③短時間勤務制および短日数勤務制 ④特別介護休暇

第4 条(対象者)対象となる家族の範囲は,次の通りとする。
①配偶者 ②父母 ③子 ④祖父母,兄弟姉妹,孫(同居および扶養している者に限る) ⑤配偶者の父母

第5 条(フレックスタイム制)
(1)勤務時間の清算期間は,1ヵ月とする。
(2)清算期間中の所定勤務時間数は次の算式によって得られる時間数とする。
  ・所定勤務時間数= 8 時間× 1ヵ月の所定勤務日数
(3)コアタイムとして次の時間帯は必ず勤務しているものとする。
  ・午前11時から午後3 時
(4)フレキシブルに勤務できる時間は次の通りとし,断続的な勤務も可とする。
  ・始業時間帯 午前6 時~11時
  ・終業時間帯 午後3 時~ 8 時
(5)やむを得ない理由によって上記の時間外に勤務する際はあらかじめ所属長の承認を得なければならない。
(6)清算期間中の実勤務時間数が所定勤務時間数を超過したときは,超過時間を時間外勤務とし,不足した場合は翌月の清算期間に繰り越すものとする。
(7)従業員は毎日の始業,終業時刻および勤務時間数を正確に記録し,清算期間終了後直ちに会社に提出するものとする。
(8)退社時に翌日の出退社予定時刻を白板等に記録するものとする。
(9)業務の進捗状況を適宜適切に上司に報告しなければならない。

第6 条(繰り上げ・繰り下げ制)勤務時間を繰り上げ,または繰り下げることのできる時間を2 時間以内とする。
①始業および終業時刻を( 2 時間または1 時間)繰り上げる(午前7時~午後4時または午前8時~午後5時)。
②始業および終業時刻を( 1 時間または2 時間)繰り下げる(午前10時~午後7 時または午前11時~午後8 時)。

第7 条(申出期限)柔軟勤務の申出は,要介護を証明する書面を添えて,柔軟勤務開始希望日の少なくとも2 週間前までに行うものとする。申出日から開始までの期間が2 週間に満たない場合は,原則として会社は申出日の翌日から概ね2 週間を経過する日を柔軟勤務開始日として指定することができる。

第8 条(適用の期間)柔軟勤務の申し込み期間は6ヵ月単位とし,柔軟勤務期間終了の少なくとも2 週間前に会社と協議の上延長の申出をするものとする。

第9 条(柔軟勤務の終了)柔軟勤務期間は介護をしなくなったときに終了する。

第10条(申出の撤回)柔軟勤務の開始日の前日までは,その申出を撤回することができる。撤回した場合でもその対象になった家族について一回に限り再び制度の申出ができる。

第11条(適用解除)柔軟勤務制度によって勤務する従業員が以下のいずれかに該当するときは,適用を解除するものとする。
①実勤務時間と所定勤務時間にたびたび過不足を発生させたり,悪意の運用がなされたとき
②勤務時間の記録に不正が認められる場合や,上司への業務報告が適切に行われないとき
③柔軟勤務時間に対する管理能力がないと上司が判断したとき

第12条(給与・賞与)給与および賞与の扱いは通常勤務と同様とする。

第13条(短時間勤務制・短日数勤務制)
※ここでは省略しますが,前号の育児短時間勤務制を参考に規定化できます。

第14条(特別介護休暇)要介護状態にある家族の介護その他の世話をする従業員(日雇い従業員を除く)は年次有給休暇や介護休暇とは別に当該家族の人数にかかわらず年20日を限度とする特別介護休暇を取得することができる。
2 特別介護休暇は時間単位でも取得できるものとする。
3 特別介護休暇は無給とする。
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