前回の記事(※)で筆者は、ジョブ型雇用の浸透と人的資本開示で開かれるHRの新たな姿について「HR3.0」と名付け、宣言しました。「3.0」と言うのは、ネット時代においては新たな時代の到来を示す普通の言葉です。しかしながら、筆者が今この言葉をあえて使ったのは、単に“新しい時代”という意味で使用しているのではありません。「人的資本の開示」という上場企業にとっての新たな義務化の意味を、皆さんに明確に意識していただきたいからなのです。

※:【「HR3.0」というジョブ型雇用と人的資本開示が拓く新たな時代(第1回)】2023年度を機に変化する人事の役割とは何か
【「HR3.0」というジョブ型雇用と人的資本開示が拓く新たな時代(第2回)】金融庁から示された「人的資本開示」の具体的な方法を、4つのポイントから解説
ところで、筆者が執筆した人的資本開示に関する連載記事は、大変読者の方々に好評をいただき、特に、3回目(※)については、「人的資本可視化」というキーワードのGoogle検索で、何と経産省や内閣府のHP記事と並んで上位に出てくるほどになっています。

※:人事は「人的資本可視化指針」をどう読み解けばよいのか――投資家目線からの人的資本開示についての解題(第3回)

金融庁の「記述情報の開示の好事例集2022」をどう読み解けばよいのか

この記事を執筆したのは昨年12月ですが、その後金融庁から1月31日に、「『企業内容等の開示に関する内閣府令』等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について(※1)」という文書が公表されました。また、その中に、「『記述情報の開示の好事例集2022』の公表(サステナビリティ情報等に関する開示)(※2)」というページがあります。

※1:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について
※2:金融庁「記述情報の開示の好事例集2022」の公表(サステナビリティ情報等に関する開示)

この2つのページは「極めて重要なもの」なのです。と言うのも、この2つのページは、開示の義務として「最低限、これだけやればいいよ」という内容を、有価証券報告書の記載すべき部分も具体的に指定しながら示しているものだからなのです。

さっそく『記述情報の開示の好事例集2022』(サステナビリティ情報等に関する開示)」にある、「はじめに~『記述情報の開示の好事例集』の構成・使い方~」という資料を見てみましょう。

図1

【「HR3.0」というジョブ型雇用と人的資本開示が拓く新たな時代(第2回)】金融庁から示された「人的資本開示」の具体的な方法を、4つのポイントから解説

参考:金融庁『記述情報の開示の好事例集2022』

図2

【「HR3.0」というジョブ型雇用と人的資本開示が拓く新たな時代(第2回)】金融庁から示された「人的資本開示」の具体的な方法を、4つのポイントから解説

参考:金融庁『記述情報の開示の好事例集2022』

上記の2つの資料を見ながら、ポイントを4つ解説しましょう。

(1)今回の金融庁の公表により、有価証券報告書の「第一部 第二 【事業の状況】の【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」で、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、「ガバナンス」及び「リスク管理」(以上必須記入)と、「戦略」及び「指標及び目標」(以上2つは必須でなく「重要性に応じて記載」)の4項目を記入する。

(2)この「戦略」及び「指標及び目標」では、人的資本についても記述する。※図1の2つ目の赤丸部分

(3)有価証券報告書の「第一部 第1 【企業の概況】の5【従業員の状況】」には、「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金格差」の3比率を記載する(図1の1つ目の赤丸部分)

(4)図2の表に示されている「比較可能性」(下のシートの黄色い丸の部分)とは、図1の1つ目の赤丸部分(3つの指標+α)。「独自性」(図2の黄色い丸部分)は、図1の2つ目の赤丸部分(「人的資本について、『人材育成方針』や『社内環境整備方針』及び当該方針に関する指標の内容や当該指標による目標・実績を開示」)を指す。

要するに、図1の赤い部分2ヵ所を有価証券報告書に最低限記載すれば良いのです。

どうですか読者の皆さん「最低限」ということであれば、非常にシンプルな開示でもOKだという点、お分かりでしょうか。

ただ注意も必要です。図1のシートの2つ目の赤丸部分では、「人的資本について、『人材育成方針』や『社内環境整備方針に関する指標の内容や当該指標による目標・実績を開示」とあります。

HR部門の方は、「あ、これなら作っている。それをこの場所にはめ込めばいいんだな、開示ということで悩まされてきたけど、これで解決!」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうは問屋が卸ません。

「ウェルビーイング」や「業績向上といった経営戦略との関係」などの内容は、「投資家に納得させられる形」で示さなければなりません。私自身「証券アナリスト」でもあるので、やはり単に今やっている人財育成方針などを開示するだけで良いとはとても言えません。

次回は、特に、その図1の2つ目の赤丸部分、つまり「人的資本について、『人材育成方針』や『社内環境整備方針に関する指標の内容や当該指標による目標・実績を開示」について、簡易的に開示ができるように、具体的に記述していきます。
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